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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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29話 デビュタント (4)

夜会も終盤に差しかかった頃、マルはプラチナブロンドの美しい令嬢に話しかけられた。


「最近、お見かけしないと思っていたんです。」

淡い水色のドレスをまとったそのレディは、優雅で美しい微笑みをマルに向けながら言った。


「?」


「謎の公子様でしょう?」

マルが戸惑っていると、レディはいたずらっぽく笑った。


「えっ?あれ?」

マルは顔を赤くして慌てた。



「分かりますか?」


「ええ、私、狙ってましたもの。」


「狙って、、ええ?」


「ソアラ・ウィルスといいます。マルグリットさん。」


「もしかして、レイピア卿の?」


「はい。妹です。」


そう言われてソアラを見ると、レイピアによく似ている。


レイピアより小柄で表情が柔らかいので、レイピアが持つ氷のような感じはない。

冷たく澄んだ水のようだ、とマルは思った。



「マルグリットさんの事、姉から聞いてたのではありませんのよ。」


ソアラは扇子で口許を覆いながら微笑んだ。


「謎の公子様のお顔がすごく好みでしたの。ブランシュ侯爵の秘蔵っ子のようだし、ヒューゴ公子ではなく、貴方を養子に迎えるのでは、と皆、言ってましたから、早めにお手つきしようと狙ってましたの。だからすぐ分かりました。」


ソアラがにっこりしながら、そんな事を言うのでマルは真っ赤になった。


そんなマルに構わずにソアラは続けた。


「背丈が伸びて、」

ソアラは扇子を閉じて、すっとマルの頭を持ち上げるような動きをした。


「体つきがしっかりして、」

今度はそっと肩のラインを描く。


「お顔もあと少し精悍になられたら。」

マルの目をアイスブルーの美しい瞳がのぞきこんでくる。


「さぞかし美しい青年になるだろうな、と、ドキドキしてましたのよ。」


ふふふ、とソアラは笑った。



マルは体が熱くなった。

うわあ、何だかこの感じ、ケイト様にドキドキするのに似てる。

全然タイプ違うのに。



「あら、困らせてしまいましたね。ごめんなさい。失恋させられたので、ちょっと意地悪しました。」


どぎまぎしているマルにソアラはそう言った。


「いえ、こちらこそ、ごめんなさい。そんなつもりはなかったんですけど、、。」


「ええ、こうなったらお近づきにはなっておこうと思って、参りました。ソアラと呼んでください。」


「はい、ソアラ。私のことは、マルと呼んでください。」


「マル、冬から貴方を夜会で見かけなくなったので、少し心配もしてたんです。」


「ああ、それはあんまりギリギリまで侍従で参加してると、さすがにバレるかなと思って控えてたんです。」


「そうだったんですね、印象はだいぶん変わりますけどね。」


「そうですか?」


「ええ、マルはそうやってドレスを着てお化粧をするとずっと大人っぽくなるし、男の子の時より近寄りがたいです。しゃべったり、笑ったりすると印象が変わるけれど。」


「近寄りがたいなんて、初めて言われました。」


「嬉しそうですね。」


「そういう強さに憧れます。レイピア卿もそんな感じですよね。」


それから2人はしばらくレイピアについて話した。



「ところで、マルはヒューゴ公子と婚約してるんですか?」

レイピアの話が落ち着いてから、ソアラがそう聞いてきた。


「えっ、してないですよ。」

ヒューゴとはしてないが、兄のクラウディオとは婚約しているので、マルは少し焦った。


「あら、そうなんですね。お二人ともブランシュ侯爵と関わりがあるのでひょっとしたらと思ったんですけど、、、。」


ソアラはそう言って、少し間を開けて続けた。


「その感じは、どなたかと婚約はされてるのかしら?」


「、、、はい。まだ発表はしてませんが。」


マルが答えにくそうにそう返すと、ソアラは微笑んだ。

「これ以上は、詮索しないでおきますね。」




「お話し中すみません。こんばんは、マルグリット嬢。」

その時、そうやって声をかけてきたのは、ヒューゴだった。


「、、、こんばんは、ヒューゴ公子。」

マルは気まずそうに挨拶を返した。


令嬢の格好でヒューゴに会うのは初めてで、おそらくクラウディオと婚約した時点で、マルの事も聞いていると思われるからだった。


「ヒューゴでいいと言いましたよ?」

ヒューゴはにっこりした。

笑顔がクラウディオと同じで少し怖い。



「あら、もうお近づきなの?」

ソアラがヒューゴにずいぶん親しい口調でそう聞いた。


「こんばんは、ソアラ嬢。ええ、でもドレス姿でお会いするのは初めてです。」


ソアラはすぐに状況を理解した。


「そういえば、侍従の時のマルと仲良くなったと言ってたわね。」


「おや、マルグリット嬢の事情をご存知なんですね。」


「ええ、私、マルに片思いでしたもの。すぐ分かりました。」



「あの、お二人は親しいんですか?」

いたたまれなくて、マルは2人の会話に割ってはいった。



「アカデミーの後輩だったんです。」

「アカデミーの先輩だったんだよ。」


2人の回答は同時だった。

あまりにぴったりで、マルはくすくす笑った。



「ソアラ嬢、僕はマルにダンスを申し込みに来たんです。よろしいですか?」

ヒューゴはソアラにそう言った。


「お邪魔はしませんわ。マル、今度お手紙を送りますね。」


「はい。お待ちしてます。」



ソアラが離れると、ヒューゴはそっと手を差し出した。


「新しい友情の始まりに、踊っていただけますか?」


「はい。騙しててごめん。」

マルはヒューゴの手に自分の手を重ねた。


「この友情を続けてくれるなら気にしません。」




「マルがレディだと聞いて、水遊びしたこと、すごく申し訳なかったんだ。」

ダンスをしながらヒューゴは言った。


「ああ、楽しかったし、気にしてないです。」


「いや、今思うと肌とか透けてたよね。うわあ。」

ヒューゴは顔を赤らめた。


「ベストも着ていたし、大丈夫です。」


「帰りの馬車で、ラウの様子が変だな、と思ってたんだよ。あ、そうだ、婚約おめでとう。」


「ありがとう。」


「ふふ、マルが義姉さんになるなんてね。ラウはちょっと扱いにくいから気をつけてね。」


「扱いにくいんですか?あー、でも怒ると怖いですよね。そういえば、クラウディオ団長は?途中からいないな、と思ってたんです。」


「聞いてくれて良かった。デビュタントのレディ達にずっとダンスを申し込まれてて、庭園に逃げてるんだ。この曲が終わったら案内するから、ローレンス家の家庭平和のためにも行ってくれるとうれしいな。」


「家庭平和、、、。怒ってるの?」


おそらく、レディ達のダンスの申込みのきっかけを作ったのは自分なので、マルは申し訳なかった。


「怒ってるというか、疲れてるというか。」


「とにかく行ってみます。」




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