27話 デビュタント (2)
飲み物をもらい、空いてる席を見つけて落ち着いた所へ、ケイトと同じく近衛騎士団の正装に身を包んだクラウディオがやって来た。
「こんばんは、マルグリット嬢。」
クラウディオはマルに向かって優雅にお辞儀をした。
ああ!クラウディオ団長も素敵だ!とマルは思った。
ケイト様と並んでほしいなあ。
ものすごく、並んでほしい。
マルはそんな心の声はしっかり封印して、こちらも優雅に返した。
「こんばんは、クラウディオ卿。」
「今日も本当に美しいね。」
「クラウディオ団長も、素敵です。」
「ありがとう。髪飾り、付けてくれてうれしいよ。」
「素敵なものをありがとうございます。これ、クラウディオ団長のブルーを入れてくれたんですよね。」
マルはクラウディオに髪飾りが見えるように、首を回した。
小さな花と葉のモチーフの髪飾りで、輝くクリスタルとダイヤの中に少しサファイアがあしらってある。
箱を開けて見た瞬間に、クラウディオの目の色だと思った。
「うん。気に入ってくれた?」
「はい。とても。」
「良かった。」
そう言って、笑ったクラウディオの顔はいつもより少し幼くて、マルは胸がきゅんとなった。
「こんばんは、レディ。」
こちらも正装のレイピアが声をかけてきた。
マルは、息が止まるかと思った。
「こんばんは、レイピア卿。正装がものすごく、似合いますね。」
「そうですか?行事事でしか着ないので、着慣れないのですけど。」
「ええ、とても素敵です。いつも夜会はドレスなのに珍しいですね、というか、初めてですよね。」
「そうですね。父の意向でいつもドレスなので、おそらく初めてですね。」
「今日はなぜ?」
「団長命令です。あなたに悪い虫がつかないように。」
「えっ?」
「騎士姿のレイピアが居たら、寄ってくる男なんていないだろうからね。」
ケイトがそう言う。
「団長がいれば、十分だとは思いますけど。」
「大丈夫ですよ。そもそも、私に言い寄るメリットはないです。」
マルがそう言うと、ケイトとレイピアは絶句してマルを見た。
「まさか、こんなに愛らしいのに自覚がないのか?」
「ないようですね。」
「はあ、マル、気をつけなさい。たいていの男は、私やレイピアより、君のような可憐な娘がタイプだ。なあ、ラウ。」
「うーん、そうだね。でも、比較の対象が少し極端な気はするね。」
クラウディオはだいぶん言いにくそうに答えた。
見た目じゃなくて、近づくメリットの事なんだけどな、とマルは思った。
「自分の見目がある程度麗しいことは存じています。でも、ターゼン家には特に魅力はないですよね。」
「マル、恋に落ちるときに家門を気にする奴なんかいないよ。」
ケイトが言い切る。
「ケイト様は、そうでしょうね。」
マルがそう言うと、レイピアも同意した。
「団長は、そうでしょうね。」
「そんなに可憐でしょうか?」
「私よりずっと。」
「ふふ、確かにケイト様に可憐な要素は皆無です。では、気をつけましょう。でもこれだけ騎士の方がいらっしゃれば、心配なさそうです。」
マルは改めて、並んだ3人を見た。
ため息が出てしまう。
キラキラした何かが出てきそうだ。
遠巻きにこちらを見ているレディ達のため息も聞こえる。
「はあ、本当に皆さん、素敵ですね。すごく絵になります。もう完成しすぎていて、私はいらないくらいです。」
「そんな事を言われると、入りにくいな。」
ランドルフの声がして、馴染みの気配がマルの横に並んだ。
「ランドルフさん。」
マルはランドルフを笑顔で迎えた。
「こんばんは、クラウディオ卿にレイピア卿。マルも。屋敷でも言ったが、とても綺麗だよ。」
「ありがとうございます。」
マルはランドルフがやって来て、なんだかほっとした。
親しい人達に囲まれて、楽しい一時をすごしていると、楽器の演奏が始まり出した。
「レディ、あなたの最初のダンスのお相手を選んでいただいてもよろしいですか?」
ケイトがマルにそう聞いた。
「えっ!」
選ぶの!?
「よりどりみどりだね、マル。」
クラウディオがそう言う。
「ケイト団長、選ばれるの分かってて聞いているでしょう?マルが困ってますよ。」
「ふふ、今日のレイピアは手強いと思うけどね。マル、私でいいかな?」
「はい!」
「では、レディ、お手を。」
マルはケイトの手に自分の手を重ねた。
「ダンスは上手くなった?」
「はい、足を踏まない程度には。」
「それは、楽しみだね。」
ケイトとマルは優雅にダンスを始めた。
マルの動きは緊張もあってだいぶん硬かったが、ケイトが上手くリードしてくれた。
「お上手ですね。」
幸せで、ぽーっとなりながらマルは言った。
「そうだね、なんなら男性パートの方が得意かもしれないな。」
「いつも、申込みがすごいですものね。」
「可愛いレディ達のお願いは、断れないしね。」
「今日もたくさん申し込まれるでしょうね。」
「ふふ、でも今はマルの事だけ考えているよ。」
ケイトがそう言って、マルは真っ赤になった。
憧れの人と、デビュタントで最初のダンスを踊ってるなんて夢のようだ、とマルは思った。
思いきって、帝都に出てきて良かった。
ケイトとこんなに近しくなれたし、領地に居ては、会うことのなかった人達に会った。
父がなぜマルのデビュタントを帝都の舞踏会でさせたかったのか、分かった気がした。
明日にでも、両親とイアンに手紙を書こう。
、とマルは思った。
「なんだか、雰囲気が重たくなった気がするのは私だけだろうか?」
クラウディオとレイピアと3人で残されて、ランドルフはそう言った。
「気のせいですよ、ビット伯爵。」
クラウディオはそう言った。
「その笑顔、苦手だなあ。そろそろ私のケイトに対する誠意は伝わったと思うんだが。クラウディオ卿。」
「ケイトから聞きました。あなたの言ってた事は本当のようですね。」
「じゃあ、なぜ、そんなに怖いんだ?」
「だから気のせいですよ。」
マルのせいなんだろうなあ、とランドルフは思った。
嫉妬深そうだしな。
「レイピア卿とは、こうして話すのは初めてだな。」
「そうですね。でも、伯爵のことはマルからよく聞いています。ケイト団長とも上手くやっていらっしゃるようで、私としては嬉しい限りです。」
「そうなのか?」
「はい。正直、団長の今までの男達よりずっとましです。」
「誉められているのだろうか?」
「誉めてはいませんが、感謝しています。団長の恋愛事が落ち着いて。」
「ふむ、まあずっとましなら良しとしよう。」
ランドルフはにっこりしてそう言った。
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