24話 マルグリット嬢の婚約 (2)
翌朝、マルがケイトの部屋の扉を開けて入ると、寝衣にガウンを羽織っただけのランドルフが居て、びっくりした。
「おはよう、マル。」
「わっ。ランドルフさん。何してるんですか。」
部屋を間違えたのかと思って、見回す。確かにケイトの部屋だ。
「ごめんね、マル。ちょっとゆっくり起きてしまった。」
ケイトが奥からそう言う。
「マルを呼んでたのは、覚えてたんだけど。こんな格好ですまないね。」
ケイトはシルクのゆったりしたシャツとズボンを着ただけの姿で、髪の毛は無造作にポニーテールにしていた。
ものすごく色っぽいな、とマルは思った。
顔が赤くなってしまう。
「いいえ、起きたところのケイト様も素敵です。」
「マルは何でも誉めてくれるね。」
「事実です。その髪型も素敵です。ねえ、ランドルフさん。」
「ああ、私の妻はいつも美しいね。」
マルはランドルフがいつもと少し雰囲気が違うように感じた。
珍しく、上機嫌が表に出てる気がする。
何かあったかな。
そう思って、ケイトの様子も観察してみる。
髪が無造作に顔にかかる様子や、朝の気だるい感じが残っていてとてつもなく色っぽい。
マルは心臓がきゅうっとなって、体が熱くなった。
ムラムラする、ってこういう事なのかな。
ランドルフさんは、こんなの前にしてよく平然としてられるなあ。
「マル、呼んだのはデビュタントのドレスのことなんだ。」
ケイトがそう言った。
「ドレスですか?」
「うん。そろそろ用意しないとね。来週にでも仕立屋を呼ぼうと思ってるんだけど、色とかデザインの希望はあるかい?あるなら前もって伝えておこうと思って。」
「ありがとうございます。あの、希望は1つあるのです。」
「なんだい?」
「そのう、もし、ケイト様がよろしければなんですけど、色は黄色見がかった緑色にしても、、、いいですか?」
マルはもじもじとそう答えた。
ケイトの顔がぱっと輝いた。
「私の瞳の色だね?」
「はい。」
ケイトはぎゅっとマルを抱き締めた。
きゃああああ!
マルは頭が飛んでいくんじゃないかと思った。
「本当に可愛いな。君は。」
ぎゅーっと力が込められる。
マルは幸せで卒倒しそうだ。
「ケイト、離しなさい。マルが倒れそうだ。」
ランドルフがそう言って、マルは卒倒せずにすんだ。
「ふふ、じゃあ、生地は緑色を中心に揃えて持ってこさせよう。その中からマルの髪と肌に合うものを選ぼうね。」
「はい。」
「あと、今日の午後、ラウがマルを訪ねてくるから迎えてあげなさい。」
「はい。えっ?」
「縁談の話が進んだんじゃないかと思うけど。」
「あー、そうでしょうね。父から手紙も来てました。」
「最近、ラウのこと避けてただろう。ちゃんと相手をしてあげるんだよ。」
ケイトはにっこりしながらそう言った。
「ばれてましたか。」
「そうかなあ、くらいだけど。」
「クラウディオ団長、怒ってたりしました?」
「うーん、ちょっと、不機嫌かもしれない。」
ケイトは困った顔でそう言った。
「ええ、どうしましょう、ケイト様。」
マルは焦った。
不機嫌なクラウディオなんて見たことなかった。
「マルがちゃんと顔を合わせて話せば大丈夫だと思うけど。」
「けど?」
「そうだな、まずは避けずにちゃんと向き合って、それでも怒ってたら、」
「怒ってたら、」
「マル、前にブラットとやり合ってたラウを見てどう思った?」
ケイトはそこで一旦、マルに聞いてきた。
「え、突然ですね。その時にヒントがあるんですか?」
「ヒントというか、とにかくマルがどう思ったかを聞かせてみて。」
マルは少し考えてから言った。
「クラウディオ団長はかっこよかったです。普段は剣のイメージがないので、あんなに使えるなんてびっくりしました。」
マルがそう答えるとケイトはにっこりした。
顔に、よくできました、と書いてある。
「それを伝えてあげると、機嫌が直ると思うな。」
「えっ、でも、散々言われてますよね。」
「ローレンス家の者達は、いつでも剣の腕を称えられるのは喜ぶからね。」
「そうなんですね。上手く伝えられるかな、やってみます。」
その後、ケイトとランドルフの朝食が運ばれてきたので、マルは部屋をあとにした。
「マルから少し、聞いてはいたんだが、本当にクラウディオ卿との話が進んでいるのか?」
マルが出ていき、部屋で軽い朝食を食べながら、ランドルフはケイトに聞いた。
「ああ、ターゼン家にとっては良い話だし、ローレンス公爵がなぜか乗り気らしいから、まとまるだろうな。」
「君にとっては?」
「私にとっても。ラウなら安心だ。」
「そうか。」
「不満なのか?」
「いや、家にとっては良い縁だが、マルがクラウディオ卿とはやりにくそうだな、と思うだけだ。」
「どうして?」
「愛がなくても完璧に優しくできる男だろう。真綿でまかれるような結婚はマルにはしんどくないか?」
「ふふ、君はマルと仲がいいからな。でも、それなら問題ない。ラウはマルに惚れてるんだ。」
ケイトの言葉にランドルフはびっくりして、朝食の手が止まった。
「そうなのか?」
「そうだ。だから話がこんなに早く進んだんだ。」
「そうか。なら良かった、のか?全く気付かなかったな。」
「君の言う通り、愛がなくても完璧に優しくできる奴だからな、逆もできるんだよ。」
「そうだろうな、マルも全く気付いていないよ。」
ランドルフはマルからクラウディオとの縁談について聞いた時、万が一、ケイトとクラウディオの間に男女の愛がある場合についても相談されていた。
「私はもちろん、目をつむるつもりです。」
とマルは言っていた。
こんなことはケイトには言えないな、とランドルフは思った。
「うーむ、そうか、あー、なるほど。」
自分とケイトの結婚に警告しに来たクラウディオが怖かったのは、マルの側に自分がいる事への警戒心もあったからだ、と今になってランドルフは納得した。
「全く気付かれてないのは、問題な気がするが。そういうのは少し匂わせるべきじゃないか?」
「デビュタントまでは、言わないつもりらしい。マルに気を使わせたくないんだよ。」
「なるほどなあ。」
「ラウはだいぶん、君の事を警戒しているよ。夜会でマルとよく一緒にいたからね。」
「うわあ、そうだろうな。私は今、あの子のダンスの練習も付き合ってるから、それがバレたら怖いな。」
「あー、それは、怖そうだな。」
「もしかしてさっきの、マルに剣を褒めるように言ったのはわざとか?」
「わざとだ。あいつ最近、マルに避けられて落ち込んでいたからな。あんなこと言われたら喜ぶよ。どんな顔するかな?マルが上手く言えるといいんだけど。」
ケイトはいたずらっぽく笑った。




