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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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18話 クラウディオ卿の佳き日 (2)


邪念を消したせいか、チェスは結局、3ゲームして3つともクラウディオが勝った。


「完敗です。」

3ゲーム目を終えて、マルは言った。


「マルもけっこう強いと思うけどね。これに一度も負けないなんて、お兄さんがかなり強いんじゃないかな。」


「ふふ、確かに、兄より粘れた気はします。機会があれば、兄と対戦してあげてください。喜びます。」

「それは楽しそうだね。」


「では、何かご用をお申し付けください。」

「えっ。」

クラウディオはドギマギした。


「団長、勝ったんですよ。」

「いや、でもここ僕の家だし、マルにしてもらうことはないよ。」

「そうですか?お使いくらいなら行けるんですけど。」

「そんなのいいよ。うーん。」

クラウディオは少し考えてから言った。



「じゃあ、君の小さい時の話をしてよ。」

「私のですか?」

「うん。いつも僕とケイトの子供の頃の話ばかりだろう。」

「確かに、いつも話してもらってばかりですね。うーん、私の話、、、。」


すぐに思い浮かぶのは、小鬼の襲来とケイトとの出会いだったが、この話は暗いしな、とマルは思った。


「前にターゼン侯爵とはお会いしたけど、君の兄上には会ってないんだ、どんな人なの?病弱だと父から聞いたけれど。」


「兄ですか?」

マルは兄を思い浮かべた。


マルより5つ年上のイアン。

髪と目の色はマルと同じだ。

肌の色だけ浅黒い。


兄のイアンは木の精霊の血が濃い。

マルとイアンの曾祖父が精霊との混血だったらしく、隔世遺伝というやつだそうだ。


病弱というよりは不自由で、血が濃いせいで、右足の膝から下が木化していて、歩行は出来るが走ったりするのは難しい。

ターゼン領内で、希に見られる風土病のようなものだ。


木化の症状は男子のみに現れ、遺伝する場合がある。

その為、イアンは結婚して子供を設けることを拒否していた。


これも重たい話だな。とマルは思った。


マルは少し考えてから、イアンについて話した。


「兄は私とそっくりの顔で、よく双子と思われます。でも兄の方が美しく、魅惑的です。本当に悔しいです。性格は、ちょっとクラウディオ団長に似てるかも、、、優しくて穏やかです。怒ったところを見たことありません。病弱というか、足が不自由なんです。だから、私から外の様子を聞くのが好きだし、外からの手紙を喜びます。」


「お兄さんのことが好きなんだね。」

「イアンを嫌いになれる人なんていません。」


なんといっても、魅惑の魔法を使う木の精霊の血なのだ。人によっては必要以上に魅いられてしまうこともある。


「チェスで負けたら、いつも聞いたことのない話をしろって言われました。でも何でも話しちゃってるから、何もなくて困るんですよね。」


「搾りださないとね。」


「帝都に来る時は、ケイト様のお側に置いてもらう計画を一緒に考えて、行ったら手紙を絶対に送ってと言われたので、いつもびっしり書いて送ってあげてます。」


「小さい頃から、イアンを支えていけるようにと、ずっと父から言われてました。それが嫌だったこともあります。」


「足のせいでイアンは結婚しないから、私が婿をもらって、跡継ぎを産んで育てなきゃ、とずっと思っていて、自分が家に縛られてるのも嫌でした。」


「でも、それはどこかに嫁いでも一緒だったな、と今は思ってます。」


「帝都に来て、多くのご令嬢達を見ると、後継者としての教育を兄と一緒に受けれた私は幸運だったのかも、と思います。父は剣もさせてくれたし。」


「不自由なイアンのせいで、両親は帝都に出ないし、ずーっと領地に縛られていると思ってましたが、私は自分で思っていたより広い世界で生きてきたようです。」


「なんだか、イアンの悪口みたいになってますね。私よりしんどいのはイアンなのに。イアンのことは大好きなんです。」


ぽつぽつと話しながら、あれ、やっぱり重たくなってしまったのでは、とマルは思った。


「最近は女性の騎士も増えたし、ケイト様みたいに家督を継ぐ方もいらっしゃって、憧れます。私もイアンをしっかり支えられたら、と思ってます。」


今度は決意表明みたいになってしまった。

もっと軽い子供の頃の話、、、、だめだ、小鬼が出てくる。

うーん。


「はあー、すいません、重たい身の上話になってしまった気がします。もっと軽い話をしたかったんですが。」

マルは諦めて謝った。


「ううん、小さいマルがいろいろ考えて、頑張ってきた話が聞けるのはうれしいよ。」


クラウディオに優しく言われて、マルはほわっと温かい気持ちになった。


この人、優しいなあ。

やっぱりちょっとイアンに似てるな。


「クラウディオ団長は、話しやすいですね。」

「団長だからね。聞くのが仕事なんだ。」

「なるほど。」


「そういえば、ケイトの子供の頃の肖像画があるよ、僕達もいるけど。」


「わあ!見たいです!」

マルは喜んだ。


喜びながら、クラウディオは自分に気を遣って、肖像画の事を持ち出してくれたんだと分かった。

やっぱり優しいなあ。


「じゃあ、肖像画を見たら、町へ出てお昼を探そう。」

「はい。」


マルはケイトとローレンス兄弟の肖像画を堪能してから、クラウディオと2人で町へ出る準備をした。


「その格好のまま行くんですか?」

屋敷を出る時に、着替えていないクラウディオにマルは聞いた。


「うん。マルも侍従の服だし、このままの方が一緒に行動しやすい。せっかくだから市場の方に行って、食べ歩きしよう。」


「わあ、いいですね。デートですね。」


「、、、そうだね。」

あっさりデートと言ってしまえるマルにクラウディオは笑顔で答えながら、そんな事をさらっと言えるのは僕のことを全然意識してないからだろうなあ、と思った。




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