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侯爵様の愛しい侍従   作者: ユタニ


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15話 ブランシュ侯爵の結婚 (3)

ケイトは結局、ずっと怒っているキティに風呂で磨きあげられ、説教され、夕食も説教の合間に少しつまんだ程度で、寝室に放り込まれた。


ランドルフがゆっくり夕食を食べ、風呂に入って寝室に行くと、ケイトはソファに座ってワインを飲んでいた。


「遅かったな。」

ケイトは入ってきたランドルフにそう言った。


「プライベートもその口調なんだな。」


「子供のころからずっとこの言葉遣いだ。飲むか?」


「いや、酒は飲めないんだ。」


「そうなのか?意外だな。」


「君が飲みたいのなら、横で見てるよ。」


ランドルフはケイトの横に座った。

「ところで、ケイトと呼んでもいいだろうか?」


「構わない。私は何と呼べばいい?」


「ランドルフでいい。」


「分かった、ランドルフ。ふふ。」

呼びかけてから、ケイトは笑った。


「なんだ?」


「いや、君をランドルフと呼ぶと、マルを思い出してしまった。私の回りで君のことをランドルフと呼ぶのはマルだけだから。」


「結婚当日の夜に夫ではなくて、小さな女の子のことを考えるなんてひどいな。」


「マルを側で見るために私と結婚したんじゃないよな?」


「それは、この結婚の魅力の1つではある。」


ケイトはまた笑った。


「ケイト、キスしてもいいかな?」


「君のキスには少し興味があるな。」


「興味?」


「年上の男とキスをするのは久しぶりだ。」


ケイトはワインを置いて、ランドルフの頭に手を回すと自分からキスした。





***

次の日の夕方、ケイトが帰宅すると執務室の自分の机にランドルフが座っていた。


「お帰り、ケイト。」

ランドルフは眼鏡越しにちらりとケイトを見て言った。


「何をしているんだ?」


「見ての通り、君の書類を片付けている。」


「執務室に入っていいと言った覚えはないが。」


「怒るなよ、レーゼンに許可は取った。書類も私が見ても問題ないと思ったものだけ見ている。結婚式でバタバタさせてしまって山積みだったようだから。」


ケイトは執務机の書類の山が半分になっている事に気付いた。


「君の判断が必要なものはこっちに分けて、資料が要りそうなものは、レーゼンに頼んで揃えさせた。」


ケイトはランドルフが渡した束をざっと確認した。順序だてて整理してあり、添付されているリストや報告書も完璧だった。


机の上の封の開いていない手紙には手はつけられていなかった。

そもそも他人に見られたくないものは執務室には置いてない。


「取り入るのが巧いんだな。」


ケイトがそう言うと、ランドルフは少しせつない顔をした。


「そんなに警戒しないでくれ。君とゆっくり夜を過ごしたかっただけなんだ。」


「は?今日も私の屋敷に泊まるのか?」


「昨晩の事が忘れられなくてね。君も満足しただろう?」


ケイトはため息をついた。

この男が一体何を企んでいるのか全然分からなかった。


皇室図書館の鍵はもう自由に使えるはずなのに、なぜまだ私の周りに張りつくのだろう?


初夜を過ごしたのはおそらく興味本位だったのだろうし、ケイトもそれは同じだ。

そして、確かに昨晩はケイトも満足していた。


「だめかな?」

執務机から眼鏡越しに、ケイトに哀願する男を、ケイトは可愛いと思った。


「書類の処理は助かる。ありがとう。食事がまだなら共にしよう。」



3日目と4日目も同じように日々は流れた。ケイトが帰ってくると、侯爵としての業務はランドルフによって片付けられていて、食事を共にし、夜を共にした。



5日目の帰宅後、ケイトは執務室で上着を脱ぎながら、ランドルフに聞いた。

「ランドルフ、君の目的は一体なんだ?」


この数日、ランドルフの仕事ぶりは完璧な上に、越えられたら嫌な一線はきちんと守られていた。

こなしてくれているのはただの雑務と労働だ。


「君と甘い新婚生活を送ることだが。」


ランドルフは、書類から顔を上げ、眼鏡を取ってそう言った。


ケイトは苦笑しながら、机に腰かけ、詰襟のボタンを外した。


「またそれか。自分の家に帰らなくていいのか?」


「息子も一度、一人で仕事をしてみるべきだし、新婚生活は今だけしか送れないだろう。それにしても、君の業務量はすごいな、今までこれを一人で、騎士団の仕事が終わってからやってたのか?」


「私しか居ないのだからしょうがない。」


「睡眠時間が削られていたんじゃないか?私がここに居た方が十分眠れる。」


ケイトはくすくす笑った。

「睡眠時間は、君のせいで今も削られているが?」


ランドルフは立ち上がり、ケイトの側に来て、頬に触れた。


「でも肌つやはいいな。書類仕事よりずっと有意義な事をしているからだろう?」


「この生活に溺れてしまいそうだよ。帰れば、仕事が片付いていて、風呂と寝室は私の好きな香りに満ち、君はどこまでも私を甘やかす。」


「溺れてしまえばいい。」


ランドルフはケイトにキスをして、手を腰に回した。


「ここでするのか?」


「悪くない。」




***

次の週、ランドルフは自分の屋敷に帰っていったが、2日後、またブランシュ邸へ戻ってきた。

そんな風にして、ブランシュ侯爵は結婚した。






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