13話 ブランシュ侯爵の結婚 (1)
次の夜会で、ケイトはドレスを着て、ヒューゴのエスコートを受けた。
ケイトはマルの時とは違って、濃紺の生地に無数の宝石が付いた細身のドレスを着て、髪は全てアップにしていた。
侯爵邸まで迎えに来たヒューゴは、自分の養母になるこの美しい人に見とれた。
「こんばんは、ブランシュ侯爵。今日の貴方は本当に美しいですね。」
「ありがとう、ヒュー。君もなかなか素敵だ。さすがローレンス家の子息だな。」
ケイトとヒューゴは会場に入り、ダンスを踊った。
養子の件を発表してからの初めての夜会だったので、2人は人々の注目を集めた。
美しく若い養母と、年若い養子。
今はまだ、ケイトの方がほんの少し背が高かったが、14才の少年はすぐに凛々しい若者になるだろうと予想できて、皆、今から2人の間のロマンスを噂した。
「義理とはいえ、母子には見えませんね。」
いたる所でそう言われた。
***
夜会のあった次の週、ケイトはビット伯爵と会談の約束を取り付けた。
「マル。今日はビット伯爵邸に行ってくるよ。」
朝の支度のとき、マルはケイトからそう告げられた。
「お伴しましょうか?」
「いや、大丈夫。けんかになるかもしれないしね。こないだ話した羊毛の件で行くんだ。」
「売ってくれない話でしたね。」
そう答えながら、マルは、なぜランドルフがケイトを困らせるのか腑に落ちなかった。
「ああ、冬までには手に入れないといけないからね。」
「分かりました。あんまりランドルフさんをいじめないでくださいね。」
「努力しよう。」
馬車の中で、ケイトはふと、ランドルフの目的がマルであったりするだろうか、と思った。
ランドルフはだいぶんマルを気に入っているようだ。
マルは元々人懐こい子だが、ランドルフには最初からずいぶんと気を許していて、双方、人懐こいからか妙に仲はいい。
でも娘よりずっと年下だしな。
ランドルフには息子と娘がいて、息子は22才で娘は21才、娘は既に嫁いでいる。
順当に考えて、ヒューゴの件だろう。
それなら、伯爵の後ろにさらに貴族派の誰かがいるはずだ。
そこが分かれば、直接交渉もできる。
金か、養子の手続きを遅らせることで相手は満足するだろう。
ケイトとしては、冬まで時間がないから、今日の会談で解決させたかった。
そうして、馬車は伯爵邸に着いた。
***
「お待たせしたかな。」
ケイトは応接室に通され、少しするとランドルフが現れた。
「いや、待っていない。」
ランドルフはケイトの向かいに腰かけた。
「なんの用件かな?」
「伯爵、私は回りくどいのは嫌いだ。羊毛の販売を止めているのはなぜだ?売れる条件があるなら聞かせてくれ。考慮する。」
「ふむ。まずはお茶でも飲んではどうだ?」
「怒るぞ。」
「もう怒ってるじゃないか。」
「ヒューゴ・ローレンスの養子の件か?貴族派のどこが何を言ってきているんだ?」
「確かに、ローレンス家の四男のことは関係あるな。貴族派は関係ないんだが、まあ、関係していると君が思うならそれでもいい。」
「それで、条件はなんだ?」
「君が本気では怒らないが、ある程度困って交渉に乗ってくるギリギリの所を狙ってみたんだが、どうだったかな。」
「だから、条件はなんだ?」
ケイトはイライラしてきた。
わざとイライラさせていると分かっていてもイライラしてしまう自分にも腹が立った。
「けっこう真剣に考えたんだけどな。」
「条件はなんだ、と聞いている。」
「そんな風に怒られると言いにくいんだが。」
「なんだ?」
「私と結婚してくれないか?」
ケイトは目が点になった。
「は?」
「条件は私と君との結婚だ。互いに実家の籍は残したままでいい。」
ランドルフはにっこりした。




