雨の日の夢心地
春風に吹かれ、雨が後を追ってくる。
泥に足をとられながらも、昇降口に駆け込む。
幸い、小雨だったおかげで、それほど濡れずにすんだ。
カチカチと点滅する蛍光灯の灯りを便りに。シューズについた泥を払い、上履きと履き替える。
廊下を渡れば、校舎内は空と同じでどんよりして暗い。幽霊に取り憑かれるには、相応しいシチュエーションだ。
階段を上がり、少し廊下を進めば教室はすぐ着く........はずだった。
僕は動けなくなった
一瞬で見惚れたから。
窓際に佇む少女がいた。
一つ一つ落ちていく雨粒を数えるかのように、少女は窓の外に視線を這わす。
暗く染まる廊下のなか。
その少女の長い髪と虚空をなぞった瞳とが相まり。
まるで、無機質な死神が生物の生命線を見届けているかようだ。それが、とても美しくて、僕の心臓が激しく脈打つ。苦しいと感じるほどに。
「..いつまで見つめてるつもり?」
抑揚の欠けた鈴の音が、僕を捕らえる。
少女は少しこちらに視線を送り、そしてそっと微笑み出す。
──僕には全て、そう見えた。