ナスだけ食べる為ならば
ナスが好きだ。とても好きだ。でもピーマンと一緒に、たまに出てくる程度だった。
「お母さんね、ナスが普通なの」
「えっ?」
「ナスが好きでも嫌いでもないの」
「ああ」
「好きで栄養があるものと、普通で栄養がないもの、どっち選ぶ?」
「好きなもの」
「お母さんね、ナスが普通なの」
「でもワタシは、ナスが好きなの」
「ママは普通なの」
「分かってる」
「たまにならいいわ。少しならいいわ」
「どのくらい?」
「展開したピーマンに、隠れるくらいかな」
「うん。分からないけど、分かった」
「ピーマンは、毎日食べてもらうわ」
「ピーマン、そんな好きなの?」
「好きだよ」
「ああ」
「はっ今、脳がピーマンのクセに、みたいな目で見たでしょ?」
「見てないよ見てないよ」
「あんたさ、自分をABCランクの一番上のAマンにした場合、ママはPマンだと思っているでしょ?」
「いやっ。Bマンくらいだとしか」
「はいダメです」
「何がダメなの?」
「ナス料理は今月はなすです、あっ無しです」
「わ、分かったよ」
「どうせ、ママの頭はピーマンですよ。自覚してますよ。IQであなたに負けてますからね」
「そんなことないよ、ママ」
「許してよ。全アルファベットを、会話に登場させることが出来たら、許してよ」
「あのさ、全然怒ってないからね」
「ナスいいわよ。自分で料理するならいいわよ」
「ありがとう」
「コーンフレークは、毎朝食べるのよ?」
「あっうん」
「栄養表の面積、半端ないから」
「そうだね」
「ナスの栄養表なんて、ホントにナスみたいだから。ナスよりも細くて、小さいくらいだから」
「うん。ありがとうね、ナスを認めてくれて」
「いいえフフフ」
「今、アルファベットのEとFを登場させようとしてた?」
「あっ、バレたか」
ナスだけでいい。ナス以外は、苦手だから。ナス以外、すべて普通だった。でも、すべて苦手になってしまった。だから、ナスの栄養素だけで、生きていけるようになりたい。
「はいこれ」
「ママ、なにこれ?」
「誕生日プレゼント」
「オモチャじゃないみたいだね」
「うん、薬だよ」
「薬が苦手なの知ってるよね」
「うん、知ってるよ」
「で、何の薬なの?」
「ナスの栄養素を、一日に必要な栄養素に変える薬」
「そんなのがあるの?」
「あるのよ」
「じゃあ、飲もうかな」
「よかった」
「それで、誰が作ったの?」
「オー、ケー、エー、エー、エス、エー、エヌって人が」
「お母さんね」
「うん」
「ママ、製薬会社の人だもんね」
「うん」
「もしかして」
「え?」
「もしかして、アルファベットを全部、会話に登場させるやつ。まだ続いてたの?」
「あっ、バレたか」