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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ペタペタさんには

作者: 緑槌

久しぶり書きました。

「ペタペタさん?」


私がその名前を初めて見たのは、先日の深酒でひどく傷む頭と吐き気に耐えられず電柱の裏で吐き出してしまおうと寄りかかった先、普段は気にも留めていない電柱とコンクリートの壁に赤くおそらく指で急いで書き殴ったと思われるのを発見したからだ。


「なんでこんなところに……」


その瞬間、私の後頭部から背骨の内側から何か、汗のようなものが蒸発するようなひんやりとした感覚に襲われ、私は急いでその場を離れた。


その時私は気が付かなかったが、いつの間にか吐き気と頭痛が消え失せていたのだ。




───三日後



「それって気のせいじゃないか?たとえば……赤さびがたまたまそう見えていたとか」


「そうだと思うが、でもあんなに頭が痛いときにそんなにはっきりと見えるか?よけいぐちゃぐちゃに見えるだろう」


程よく繁盛している喫茶店にて、目の前友人にふと思い立ち、この間の話を聞かせた。正直ペタペタさんという文字よりも深酒の弊害が消え失せたことが気になっていたから話そうかなぁと思っていたからだ。

友人はぬるくなったコーヒーに口をつけ、しばらく考え込みやや口角あげて話を続けた。


「もしこれが下手なホラー映画なら、疑似餌だな。文字に気が付いたら化け物の口の中だ」


友人は軽い口調で微笑んでいたが、内心背骨が凍るようなひんやりとした感覚を思い出し冗談ではないと思った。


「もしくは、ただのいたずら書きで都市伝説でも作りたかったおバカさんでもいるんじゃないかね」


「それもそうか」


私はあの感覚と落書きは()()()()だと思い込むことにした。




───その夜



次の日、休日なのもあって私は同じ道を通ってあの文字が気のせいなのか、それとも本当に存在するのか。せめてそれだけははっきりしておきたかったからだ。

私は目的の電柱にまで歩き一呼吸おいてから意を決して覗き込むと、そこには何も書かれていなかった。そこはほかの箇所と同じようにコンクリートの冷たくもざらついたネズミ色をしていたのだ。

それをみて何か安心したというか、心のつっかえが取れた感覚に浸り頭を上げようとした瞬間


ペタ   ペタ     ペタ  ペタ ペタ


何か粘着性のあるものが張り付き、剥がれ、また張り付いてその音がだんだん近づいて来るのを感じた。

それと同時にあの後頭部から背骨全体が熱を奪われる感覚に襲われた。私はこの感覚だ、この音の正体が原因だと感じた。

このまま、頭を下げていれば以前のように何もなくこの感覚もなくなると予想できる。しかしこのまま何も知らずに不思議がったり、恐怖に震えているのは耐えられなかった。またあの感覚に襲われるだけは耐えられなかった。


私は横目でそれを見る。それは異常な体型で赤子が立ち歩くような姿勢で大方2メートルほどの大きさだった、皮膚は生肉のようなピンクと茶色が溶け込むように混ざり合う直前に似た紋様を作っていた。今の私の姿勢ではこれ以上のことはわからなかったがそいつは私のことがわからないのか拙い歩き方でまっすぐ歩いて行った。


………何かだおかしい。あいつが去って行ったのにあの背骨を襲う感覚が消えない。


「あいつでは、ないの」


頭を上げた瞬間、理解した。


ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ


それはコンクリートにいた、潜んでいたのだ。それ気づいたときにはもう遅かった。

私の体を何が強引にコンクリートの塀に押し付けられ人の足跡のような平べったい何かが激しく体を殴打する。内臓のどれかが損傷したのか私は吐血した。


──私はあの感覚と落書きは()()()()だと思い込むことにした。──


あの赤子とこれは別だったのだ。


心の奥でも何かが折れたのか私は生き残るより、何かを残そうとした。ここにいては危険だという証拠を、何かを。


わずかに動く腕を動かし自分の吐き出した血液を掬う。量は少ない。この落書きから離れることを伝えなければいけない。この落書きから、()()()()()()から



───


その後、男の消息が途絶えた道では、まだペタペタさんという文字が人を待っていた。






                                        ペタ

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