第1話 やっとパーティーを追放されました。
「この役立たず! お前なんか追放だ!」
「ふぇ!? じゃあもう眠っていいんですね! ありがとうございます!」
ボクはすかさず彼、幼馴染にしてパーティーリーダーのナルサス様に深くお辞儀をした。あ、ボクって言ってるけど、ボクは一応女の子だよ。ああ、それにしても眠い。
「おいおい、喜ぶ事じゃないだろうフェル! お前が役に立たない、と俺様は怒ってるんだぞ! いつもフラフラしやがって! 目は半開きだし、あくびばかりだ! 俺様の屋敷の使用人達は、もっとキビキビと仕事をするぞ! 幼馴染だからパーティーに入れてやったのに、恩知らずが!」
怒鳴るナルサス様。彼はボクの生まれ故郷、ドンフェルト村の領主スローイング男爵の三男だ。小さい頃から、ボクはよくからかわれていた。川に突き落とされたり、服に虫を入れられたりもした。この町で再会した時は驚いたけど、昔のよしみで冒険者のパーティーに入れてくれたんだ。
「ごめんなさい、ナルサス様、ふぁーあ。ナルサス様の言いつけ通り、二十四時間、護りの魔術を仲間全員にかけているものですから、ふぁぁ。これはかけ続けないと効果が切れるので、ボクは不眠不休なんです。もう、眠くて眠くて、立っているのがやっとです」
「言い訳をするな! そんなの、魔術士なら出来て当然の事だろうが! 俺様が読んだ本では、魔術士が眠っている描写などどこにも無かったぞ! 眠くなるのはお前がたるんでいる証拠だ!」
「それは、単純に寝る描写がないお話なのだと思いますよ。ふあぁ。とにかく、ボクはもう一か月間、一度も寝ていません。もう限界です。普通の人間ならとっくに死んでるって、ギルド受付のお姉さんも言ってました」
そう言いながらも、ボクはフラフラと倒れそうになる。
「くっ! じゃあ今夜は特別に眠らせてやる! その代わり、俺様にたっぷり奉仕しろ! お前は髪も短いし男みたいな服装だが、顔は可愛いし胸も大きい! だから俺様の恋人になる事を許してやる! 今日は一緒のベッドで寝るぞ! いいな!」
いやらしい顔で笑うナルサス様。もしかして、それが本当の狙いだったのだろうか。ボクの思考力を奪って、自分のものにしようと企んでいたのだろうか。
いや、そんな筈ないか。ナルサス様は善意でボクをパーティーに入れてくれたし、役割もくれた。今もきっと、見るに見かねて言っているに違いない。でも、ボクにはもう好きな人がいる。ここは断るべきだ。花も恥じらう乙女として、純血は好きな人に捧げたい。
「せっかくのお申し出ですが、お断りします。それにボクはもう、パーティーを追放された身です。これからは自由にさせてもらいます。今日までお世話になりました。さようなら、ナルサス様」
「おい待て! 戻ってこいフェル! 俺は、本当はお前が好きなんだ! 大好きなんだ! だからついいじめたくなっちまうんだぁぁぁ!」
ナルサス様が何か叫んでいるようだけど、ボクは意識が朦朧としていて、ちょっと何言ってるか分からなかった。
あ、そうだ。ナルサス様や他の仲間達にかけていた「護りの魔術」を解除しよう。これで魔力が少し戻ってくる。
あらゆる厄災や攻撃、魔術から身を守る「護りの魔術」。これは初級魔術の本を読んで、それを元にボクが考え出した魔術だ。解除する事でナルサス様達はもう護られる事は無くなる。
けど、きっと大丈夫。だってそれが普通の事なんだから。順風満帆な人生なんてつまらない。紆余曲折。山あり谷ありの人生だから楽しいんだ。
ボクもそんな冒険を望んでいる。だけど今は新しい仲間を探す前に宿屋に行こう。とにかく今は寝たい。きっと泥のように深く眠れる。それこそ一か月は目を覚さないかも知れない。
フラフラしながらギルドの出口を目指していると、誰かにぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「いや、大丈夫だよフェル。久しぶりだね」
名前を呼ばれて、ボクはその人を見上げた。
「あ、あなたは......!」
背の高い、初老の魔術士。彼はボクが幼い頃、ドンフェルト村を訪れた魔術士様だ。家が貧しいボクに、初級魔術書をプレゼントしてくれたんだ。
「ハンハルド様! お久しぶりです!」
「ああ。ドンフェルト村以来だね。ところでフェル、君は随分と疲れているようだ。ちょっといいかな?」
ハンハルド様は、そう言ってボクのおでこに指を触れた。
「なるほどなるほど。不眠不休で魔術を。こいつはすごい、自分で考えた魔術か。やっぱり君は思った通りの天才だ。実は使い魔のフクロウに君を見守らせていたんだが、あの子がいつも君を天才だと言うものでね。確かめようと思って君を探していたんだ。ちょうど良かったよ」
そう言って微笑むハンハルド様。ボクが天才だって!? 嬉しい!
「あの、ボクもずっとハンハルド様にお会いしたかったんです! またお会い出来て、本当に嬉しいです!」
ボクは感極まって、ハンハルド様に抱きついた。
「おい、フェル! お前、何やってんだ! 勝手にフラフラ歩いて行きやがって! 早く戻って来い!」
ナルサス様の声だ。ボクは顔を上げて振り返る。
「あ、ナルサス様。ほら、ボク達が子供の頃、村に魔術士様が来たじゃないですか。またお会い出来たんですよ! ハンハルド様に!」
「ハンハルド......!?」
ナルサス様は驚いたような声を出した。そしてその直後、突然ひざまずいた。
「大賢者ヴァルハザール様! お久しぶりでございます!」
え? ナルサス様は何を言っているんだろう。大賢者ヴァルハザール様といえば、噂に名高き三英雄。彼らのパーティー「グロリアス・アンセム」のリーダーだ。勘違いしているのだろうか。
「久しぶりだねナルサス。君はたいそうフェルが気に入っているようだ。だけど少々やり過ぎだ。彼女は私が引き受ける。構わないね」
「も、もももも、もちろんでございます! 仰せのままに!」
ナルサス様の声が震えている。どうやら彼の勘違いではなく、ハンハルド様はヴァルハザール様であるようだ。
「と、言う訳だフェル。偽名を名乗っていてすまなかったね。君は今から私、ヴァルハザールとそのパーティー、グロリアス・アンセムが引き受けた。いずれ君には、私の跡を継いでリーダーになってもらいたい」
そう言って微笑む、ヴァルハザール様。
「はい、もちろん喜んで! ハンハルド様が、大賢者ヴァルハザール様だったんですね。リーダーだなんてボクには大それた事だと思いますが、驚きません。ボクは人生を楽しみたい。予想もしなかった事が起こるのが、楽しくて仕方がないんです。ちなみにヴァルハザール様、グロリアス・アンセムでは睡眠が許されていますか?」
「ああ、もちろんだ。それにクエストのない日は三食昼寝付きだぞ」
「三食昼寝付き! 最高ですね!」
「そうとも! だがまずは、私の腕の中で眠るといい。さぁ行こう、私の館へ」
ヴァルハザール様はそう言ってボクを抱き上げた。ああ、これでようやく、睡眠が取れる。
ボクはすぐさま眠りに落ちた。そして、小さな頃に死んだお父さんの夢を見た。顔なんてほとんど覚えていない。だけど、夢の中では何故か、ヴァルハザール様がお父さんだった。
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