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アンデッド・ヒーラー  作者: NICOLE
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第六話【 おれが失敗する前提なの!? 】

「ライム、イツデモ、オッケー、デス!」


「よしっ……いくぞ、ライム!」


「アッーーー!!」


「ライム!?だ、大丈夫か!?」


「ダイジョウブ、デス!サア、モウイチド!」


「わかった、いくぞ……!」


「アッーーー!!」


「あぁぁ!!ライムー!」


「ライム、ナンドデモ、イケマス!サア!サア!!」


「あ、あ……う、うー……つ、次こそ!」


「アッーーー!!」


「うわぁぁぁん、ライムーーー!!」



 あれから、結構な時間……パルブルストを掛ける練習をしている。キャロルさんの作った空間は、時間の感覚が無くて……どのくらいの時間、練習しているか、わからない。


 ライムは自分から弾けてるとは言えども、何度見ても慣れない……なんか、罪悪感的なの、すごく感じる…悲鳴のせいか……?


「アニィたん、まじパネェ〜!これで五十九回連続だよォ〜!?まだ魔法の基礎を覚えて三年目の子で、こんな連続に上級強化魔法掛けられるとか、すごすぎ〜〜〜〜!」


「はぁ、はぁっ……」


 すごく目を輝かせたキャロルさんが数えてくれたみたいだけど、つまりおれは……五十九回、失敗している。でも失敗して、これだけ関心されるなんて経験は無い……すごいんだろうけど、嬉しくないなぁ……。


「カガリっちに教えてあげたいけど、教えたら倒れちゃうかもしんないから、黙っとこー」


 カガリさん、昨日キャロルさんのお使いから帰ってきた後も、ずっと心配してくれていたな…。


 甘いものを買いに行ったはずなのに、余程おれの体質を心配してくれたのか、ぼんやりしながら食用魔獣の干物買ってきてたし……。

 魔力回復用に凄く良いらしいけど、クセが強い味だった…キャロルさんはお酒のツマミとして食べてたけど……。


 あぁー……もう正直……体力の限界だ。耐えきれなくて、その場に座り込んでしまう。精神的に疲れるというのが、よくわからないけど、身体がめちゃくちゃ疲れてるのはわかる…座り込んだ途端、どっと汗が溢れて、手が震えている。


「アニィ、スゴイデス!レンゾク、ゴジュウキュウカイ!パフェブルスト・オートリスタ、カケラレマシタ!」


「ほんとほんとォ、めちゃくちゃ凄いってぇ!あの魔法、国家術師団に所属してるエンハンサーでも最高五回くらいしか出来ないんだよォ?」


「っ、はぁ……ふー……たしかに、それは……すごいですね……でもパルブルスト、使えないなら……はぁ……意味無い、です…」


「んま、ふつーは逆だけどねェ。パルブルより、ずっとパフェブルのがむずいのにィ。それもまじですごいっていうかァ」


 キャロルさんの言葉に、おれは苦笑いしか出来なかった…。

 張り切った矢先、こんなんじゃあ先行き不安だ……パルブルスト、そんなにおれに使われたくないのか…!


「アニィたん、結構パルブル使う為に色々工夫してるのにねェ」


「わ、わかりますか…?」


「うちは魔力の動きも見えるし、心の声も聞こえる系だも〜ん。まあでも……今はー……とにかく、ひたすら、がむしゃらに魔法使って、その内出来たらいいなぁ、って、カンジ?」


 そう言えば、キャロルさん。心読めたんだった……もういっそ泣きそうな事まで見抜かれてるのかな…。


「…すっ…すみません……もう、なんだか…パルブルストって、なんだろって…思ってきて……」


「あは、ゲシュタルト崩壊的なァ?幾ら、魔力が底無しだとしても、根詰め過ぎは良くないかもねェ」


「マスター!ライム、スコシ、ツカレマシタ!」


「うん、ちょーどいいねぇ。じゃあそろそろ休憩しよっかァ〜。八時間くらいぶっ通しだしィ」


「えっ!八時間!?」


「そだよ〜。ほーんとアニィたんは、えらいっ。休憩したいとか言わなかったしィ」


 出来るまで休んでたまるかって、思ってたからな……そりゃあ疲れるはずだ。まあ、結局もう立てないくらいになってるけど……。

 休憩は、とても有難い…と、思う反面…おれには休んでる暇なんてあるんだろうか…という、葛藤もある。


 やっぱり集中力の問題かなあ……。

 何度も何度も同じ魔法をかけてるつもりで…八時間、ずっと失敗しまくって………情けないなぁ……それに、ライムに八時間も弾けさせまくってて、申し訳ない……。


「魔法メインの子は、基本的に体力はそんなに無いんだけどねェ……それでも、アニィたんは体力持った方だよォ」


「そ、そうなんですか?」


 キャロルさんがそう言ってくれるなら……悪くないの、かな。向こうの世界で、バイト掛け持ちしまくって働いてたおかげか?

 ……いやでも、今は、その時の身体じゃないけど…。


 身体が動かなくても……頭の中では反省しないと。なんでおれは簡単で、初級中の初級の魔法、パルブルストが出来ないのか……習ったはずの魔法が使えないなんて、情けない……。


 パルブルストを使いたい、使わせてくれ。ライムを強化したいんだって、気持ちで魔法を使ってるのに、全然言うこと聞いてくれない…この身体がおれの身体じゃないから、っていうのも、関係してるんじゃないかな……あぁぁ、わかんなくなってきた……どうしたら、いいんだ、どうしたら……どうやったら、ライムにパルブルストをかけられるんだ……!!


「アニィたん、あのねェ」


「は、はい!」


「アニィたんが欲しい答えはー……実はちゃんとあるんだよォ」


「おれの欲しい、答え……ど、どうやったら、思い通りに使えるかってことですか!?」


「そう。でも、これは修行だからねェ。その答えを、アニィたんが見つけなきゃいけないのォ」


「うっ……そ、うですよ、ね……」


 キャロルさんの言うことはもっとも、だ。

 自分で気付かなきゃ、きっと意味が無い。自信が無いなんて言ってられないし……それに、今は失敗しかしてないから、自信が持てないだけだ…。


 けど、答えがある。

 それがわかれば、後は考えるだけだ…!


「はい、それじゃあそろそろ再開するよォ〜。パルヒール〜」


 キャロルさんが指を一振りすれば、暖かくて柔らかくて…なんだかいい匂いのする、心地よい風に包まれた。すると身体の疲労が一気にとれた。


「キャ、キャロルさん!今の!」


「んふふ〜。今のがパルヒール。回復魔法を掛けられるの、悪くないっしょ?アニィたんが魔法のコントロールできるようになったら、自分にもかけられるようになるよォ」


 パルヒール……すごい、めちゃくちゃ気持ちよかった……。


「ライムモ、ゲンキニ、ナリマシタ!!イッパイ、ハジケラレマス!」


「おれが失敗する前提なの!?」



 その後からずっと、試してみたけど……おれがパルブルストが成功することは無くて、記録は更新した。



 ---



 一週間後。


 家に戻るのは大体お風呂に入って寝る時だけになった。カガリさんとも暫く話せていない……キャロルさん曰く、カガリさんはカガリさんで今は色々と自主的な勉強や修行をしている、との事だ。


 まあそんなおれも…人のことを気にしているような状況ではなくて。

 結果論から言うと、一週間も続けていたら、何度かは、パルブルストをかけられるようになっていた。でも、それも指折り数えるくらいで……多分、六回?くらいしか出来てない。


 出来る時と、出来ない時。

 それがどういう時か、わからなかった。因みにパルブルストが成功した時の、ライムは弾けないけど……。


「アニィ!マタ、パルブルスト、セイコウデスネ!」


「う、うん……」


 すごく、大きくなる。

 ライムは、その巨大化?というのは、自分でしているわけじゃないようで……因みに効果が切れるまで、少し時間が掛かる。


 成功するのは、恐らく偶然……つまり、おれは未だに、答えには辿り着いてない。


 そんなおれを見兼ねたのか、キャロルさんが声をかけてくれた。


「アニィたん、パルブルが成功した時なんだけどォ……パルブルとー…もういっこ別の強化魔法を、同時に掛けてること、気付いてる〜?」


「え?……そ、そうなんですか?」


「うん、そ〜なのォ。パルブルだけならライムちゃんも大きくならないし、もっと早くに効果が切れるからね〜……だからアニィたんは、パルブル自体の効果を上げて、その上パルブルの効果時間を延長させる強化を掛けてるんだよォ」


「パルブルストの効果を上げる…?そんなことも、出来るんですか!?」


「まあ、出来るっちゃ出来るけど、ぶっちゃけ難しいんだよねェ。

 攻撃タイプの黒魔法に比べて、ヒトや魔物自体に、自分の魔力を使ってー…身体とか、心とかを活性化させる白魔法は魔力の動きがすごく複雑なせいで、強化特化のエンハンサーや回復中心のヒーラーって、敷居が高いし、難易度も高いから今はそこまで極める人が少ないっていうかァ。

 だから、そんな難しい魔法を同時にかけても成功する確率が低いってことで、ふつーは重ねがけするんだァ……絶対成功するなら、同時の方が効率は良いけどねェ」


「えぇ……おれ…そんなこと出来てたんだ……」


 聞けば聞くほど自分がしてることなんて思えなくて、キョトンとする…おれ自身、パフェブルスト・オートリスタも含め、難しい事をしているという自覚が無いせいだろうな。


 …………という事は。前から出来てたのは、パルブルストだけじゃなくて…パルブルストと、それを強化する魔法、二つを同時にライムにしてた、って、ことなのか。


「あのー……キャロルさん。おれ、パルブルストと、……あと、なにを…掛けてるんですかね…」


「ん〜……ちょっと複雑な説明になるんだけどォ。まず、アニィたんの掛けてるその強化魔法はァ、ハードビストって、名前なんだァ。

 これは、魔獣や魔物を強化したり、回復する魔法そのものの効果を上げるための強化魔法なんだよねェ」


「……そ、っ、え?え?ま、魔物用の強化魔法なんて習ってないですよ!?」


「習ってないのに使えちゃうのは、パフェブルしかり、アニィたんの魔力が勝手に使ってる系だねェ。

 同じ効果で人間用のハードヒユマっていうのがあるけどォ……ライムちゃんの様子を見る限り、アニィたんの魔力はー……ちゃ〜んと対象を見て、一致する強化魔法を掛けてる感じなんだよねェ」


「それって、もしかして……結構、すごいこと、ですよね……」


「うん、すごいし、めちゃ便利〜。アニィたんの魔力はほーんと興味深いねェ。習ってない魔法まで使えちゃうし、意味の無い魔法だとわかったら、ちゃんと効果のあるものにしていく…ライムちゃんにパフェブルが効いてないってわかったのかなァ?」


 ……まるで魔力に学習機能があるみたいな口振りだ。目に見えない、感じる事も…今はまだ出来ないこの魔力は、色々と…不可思議な事が多いようだ。


「ライム、モドリマシタ!」


 そんな小難しいことを考えていたら、やっと元の姿に縮んだライムがぽにょぽにょ跳ねて、近付いてきた。やっぱりライムは小さい方がいいな。


「ん?でも、ライムは強い魔法を掛けたら、弾けるんじゃ……?」


「ハードビストは、ライムちゃんに掛けてる強化じゃなくて〜……パルブルスト自体を強化してるって感じだからァ、ライムちゃん自身には影響してないんだァ」


「あ、…最初に言ってた、パルブルストの効果を上げてるって、そういうことか…!」


「そゆことォ。ライムちゃんは、パルブルよりつよォい強化を受けたら、効果が無いけどー…パルブル自体につよォい強化を掛けた上で、ライムちゃんが受ける分には、それは結局パルブルには変わりないから、影響が無いんだよねェ。

 例えるなら、見た目は同じ料理なのに、強化っていう味付けをされてる方がめちゃくちゃ美味しい〜みたいな?」


「なる、ほど……?」


「とか言っても、わかりにくいよねー……

 ふつーは、パルブルの後にハードビストを掛けるって順番が当たり前?みたいな感じだけどォ…でもさっき説明した通り、同時に魔法をかけるって、難しいから誰もしないんだよねェ。ほんとは、最初っから強化済のパルブルかける方が効率良いも〜ん」


 強化って、本当に色々あるみたいだ……人や魔物、魔獣だけじゃなくて、魔法そのものの効果を上げる強化も、あるなんて……奥が深い。


「パフェブルは習得難易度高いけどォ、ハードビストや、ハードヒユマはそんなに難しくはないからねェ、結構使い勝手が良い魔法なんだァ。パルブル以外の強化魔法や、回復魔法にも効果あるしィ」


「アニィ、スゴイデス!スゴイ!」


「ほんとすごいんだよォ、アニィたんはー……まだ実戦して一週間しか経ってないのにねェ。魔力を自在に扱えるようになったら、もっと成長出来るよ〜」


「あ、ありがとうございます…」


 もう、おれがどうこうではなくて、魔力が勝手に良いようにしているってことか…。


 けど、それって、意味無いし……魔力が、おれの言うことを聞いてないって事だ。


 おれはパルブルストを使いたいのであって、ハードビストを掛けた上でのパルブルストでも、パフェブルスト・オートリスタじゃない。


「…あは、アニィたんってば、不機嫌だ〜」


「アニィ!ムスット、シテマス!ライム、サワリマスカ!?」


「うううう、ライム〜〜〜〜〜!!!!」


「ハワーーーーーー!スゴク、モチモチサレテル〜〜〜〜!!!」


「めちゃ仲良しじゃん、やばーい」



 以降……。


 ライムを弾けさせる回数は減っていき、パルブルスト+ハードビストの同時魔法が、成功する事が増えていった。


 けれど、キャロルさんが言っていた、答えというのは……やっぱりわからなかった。

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