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アンデッド・ヒーラー  作者: NICOLE
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第二話【 健闘を祈る 】

 目が覚めたら大人の男の身体から、幼い女の子の身体になっていた。当然、俺はパニックだ。


「おれ、あの!あの、おれ、あの!あの!!え!?」


「あはー。とりま落ち着いてェ。君はねェ、さっきも話した通り、今まで住んでた世界とは、まったく違う世界に来たってことはァ、わかる?」


 とりあえず今自分に起きている有り得ない、非現実な事を受け止められないおれに……ギャルみたいな見た目の女の人が、宥めながら説明してくれる。


「でも、その世界の身体のままだったらァ、こっちの世界じゃ適応しないと思ってェ、この世界に適応してる身体をねェ、師匠が用意したわけェ。そんで、君の意識を入れたのォ」


「えと、あー……すみません。いろいろと、有り得なくて意味がわからないんですけどっ、…」


「わかる〜。うちも有り得ないと思うもん。でも師匠は、まじすごいからァ、空っぽのニンゲンに別世界の魂を入れるのなんて余裕なんだってェ。あ、でもこれタブーな事だから、他言無用だかんねェ?」


 いやいやいや何言ってんだ?おれはつまり、ええと、じゃあ、元々のおれの、身体は…?


 « 騒がしいやつだ »


「あ、師匠ォ」


「この声……!」


 « 無事に目覚めることが出来たようだな。流石私だ »


「あ、の…おれ、おれは……?」


 « これから御前に、使命を与える。それを果たす為に、その身体を与え、この世界へ招いたことを…ゆめゆめ忘れるでないぞ »


「し、使命……」


 それが、今後のおれの、生きる理由。その使命の為に生きる。そうすれば、天国にいる妹だって、喜んでくれる。


「いってらっしゃい、お兄ちゃん」


 あの声は間違いなく妹だった。明るく見送ってくれた。例え以前のおれとは違う姿となっても……どんな使命も、果たさなくては。


 « 御前は、今日より。ユーシャとヒヨリを幸せにする為に、この世界を生きるのだ »


 …ゆーしゃと、ひよりという子を、幸せにする……?


 « 失敗したら、その時はヒトとして生まれたことを後悔するほどのありとあらゆる苦痛を与え、二度と生まれ変わることの無い永遠の冥界へ堕とす »


 失敗した時のペナルティがえげつない。

 そんな何処の誰とも知らない、わからない二人を幸せにするという使命……とてつもない達成感はありそうだが、難易度がすごい。


 « その二人を幸せにするか、その目的が失敗するまでは、何があっても死なせない »


「死なせない……?」


 « 嗚呼。何があっても、どんな事があっても、御前は使命を果たすか、失敗する迄、絶対死ぬ事は無い »


 死なない。その一言に何だかゾッとしてしまった。けどこんな、か弱い女の子の身体で、それができるのだろうか…。


「あの、なんでおれ、女の子に…?」


 « 御前が、うっかりヒヨリに惚れてしまわないようにだ。惚れたとて女ならば無理にモノにする事も出来まい »


「え、即答……しかも理由が解せない…。でも……そうか。ヒヨリって、女の子なんだな…じゃあ、ユーシャって…?」


「あ、師匠ォ。ユーシャって、もしかして英雄王の第二皇子ですかァ?」


 « 嗚呼、そうだ »


「英雄王の、第二皇子…?」


「この世界ってェ、魔王とかいる系でェ」


「魔王……?」


「そう、魔王〜。だから結構な頻度で、人類とかを滅ぼされかけててェ。世界がヤバたんピンチブルーになった時に勇者とかぁ、そういうメチャ強な人達が魔王討伐したりしてくれんの。で、つい数十年前にも魔王をフルボッコにしたわけェ。その世界を救った勇者は英雄王となって〜…ユーシャッて子が、その人の二人目の息子って事ォ」


 じゃあ……その世界を救った勇者であり、今は英雄王と呼ばれる息子と、ヒヨリって子を幸せにしろって、ことか…。


「あれ、でも……おれが男なら、ヒヨリって子に惚れないためにって言うけど……ユーシャって人が……仮に、おれに惚れるとかって、可能性ないわけ?」


 « 有り得ん。ヒヨリの方が、断トツ、圧倒的に可愛い。御前なんぞ、ユーシャが惚れるわけないだろう。自惚れるな »


「師匠がそこまで言うなんて珍し〜!ねえねえ、ヒヨリって、どんな子なんですかァ?うちより、かわいい〜?」


 « 比べるまでもない »


「うそぉ〜!ショック〜!でも、めっちゃ見てみたぁ〜い!」


「…………」


 確かに見た目が女の子でも、中身はおれだから……ユーシャという男の子に、おれから惚れることは無いだろう。無いにしても、そんなハッキリと…おれの身体じゃないにせよ、結構可愛いと思うぞ、この子だって!この子だって……あ、れ。そう言えば、……。


「この身体は……?」


 « その身は、愚かな邪神に魂を喰われた子供の身体だ »


「…じゃ、しん……?」


「ええ〜。そんなことまで話しちゃっていいんですか、師匠ォ。タブーでしょお?」


 « 器の事が気になるのも無理は無いだろう »


「けど、この子の親は、」


「邪神に殺されてるよォ。可哀想にィ…それに、その子自身も、邪神に好かれちゃってたからさァ、街の人にも忌み子扱いされちゃってるっぽいしィ…」


 ……幼い子供の魂を食べる邪神って、何なんだ…この世界は……。まだ、こんな小さな身体なのに……そんな悲しい事があったなんて…。


 « 病気、災害、人災。それ以外にも御前の住んでいた世界と異なり、この世には、魔王を筆頭に人々を絶望に陥れる禍々しい存在が多く存在する。今まで御前が過ごしてきた世界とはまったく異なるこんな世界で、ユーシャとヒヨリ…この二人を必ずや幸せにする。それが御前の使命だ »


「……どうやって…」


 « 方法は御前に委ねてやろう。ただし、何故その二人なんだという、質問は答えん »


 それが、一番気になるんだけど…。

 でも、なんかこの人は、教えないって言ったら、とことん教えてくれなさそう。


 おれの、使命が…その二人を幸せにする…か。今更だけど、夢でも無さそうだし……どうせ生きる理由も無くしていたし、……何かひとつの事で必死になって……それが…誰かの役に立って……妹が喜んでくれる、なら。


 おれは、この与えられた使命を果たす為に生きよう。


 « ……覚悟が決まった顔だな。では、これから御前には…まず、この世界で生きる為、あらゆる知識や能力を身につけてもらう。一人前になるまでは、そこに居る弟子のキャロルが、御前の師匠となる »


「いえ〜い。キャロルで〜す。ぴすぴーす。よろちくねェ」


「……おれの、師匠……?」


 めっちゃギャルだと思ってたら、この人が…今後、おれの師匠になってくれる、人……。めっちゃギャルなんだけど。


 « ではキャロル、後は任せたぞ »


「あ、あの!」


 « なんだ »


「ありがとう、ございます。おれ、上手く出来るかわかんないけど、……貴方の与えてくれた使命を、全うできるよう、出来る限り頑張る、ので…!」


 « 礼なら、妹に言うといい »


「っ、え……?」


 « 健闘を祈る »


 名前も知らない、声の人。気になる言葉を残して、聞こえなくなってしまった……また、話せるんだろうか。もしかして、妹と会話したことが、あるのか…?


「じゃあ君の事は、なんて呼ぼっかなァ〜。なんかァ、こう呼んでほしいって希望あるゥ?」


「おれの名前…名前は、確か……あれ?」


 思い出せない。何でだ。


 妹の事は全部覚えてるのに、自分のことを…名前すら、思い出せない。他にも自分の誕生日とか、住んでいた場所とかも、思い出せなくなってる。


「あ、名前忘れちゃったカンジィ?まあそもそも、この世界に来る時に記憶あること自体、めっちゃキセキなんだけどォ。そうやって自我が残ってたりィ、なんかしらの記憶があるのはぁ……よっぽど、君にとって大事なことなんだねェ」


「…はい、……確かに。忘れちゃ駄目なこと、忘れたくないことは、覚えています」


「でも名前どうしよぉ〜……あ、妹いるんだっけ?じゃあ君ってお兄ちゃんてきな?」


「は、はい…そうですね」


「おにいちゃん、あにき…にーちゃん…あに…。あ、アニィ、って、どう?」


「アニィ…?」


「うんうん、じゃあ君は今日からアニィってことで、よろちく〜。とりま今更だけど服着せてあげんねェ」


 そう言って、指をパチッと鳴らすとおれの身体は、あっという間に服を着ていた。す、すごい、…魔法みたいだ……。


「師匠は、説明を端折ってたけどさァ。君、結構えぐめの魔力が、あるっぽいんだよねェ」


「ま、りょく?」


「そうそう。魔力ってやつゥ。この世に生きる為に必要なもんで、魔法やら色々使う為の力てきなァ?前住んでた世界には無かったかもだけど、もしかしたら、魔法を使うお話とかそういうのあったっしょ」


 そう言えば、妹は…そういうファンタジーっていう話を読むのが好きだったな。よく本を読まないおれに話してくれたっけ…。


「魔女とか、魔法使いの…?」


「そうそう!一応、うちも師匠も魔女なんだよねェ」


 ……妹が読んでいた話にも、こんなギャルみたいな魔女は、いたんだろうか。でも確かに、爪長いし、なんか派手だし、ギャルって魔女みたいだよな…。…………そう思うのはおれだけか。


「君のその魔力、なかなか扱えるまでェ、大変だと思うけど〜……でも、あの師匠に見込まれた上で、使命を与えてもらったって事だしィ……きっと、上手く行くと思うよォ」


「そ、そんなにすごい人なんですか……さっきの、声の人…」


「うん、めちゃやば〜。うちがね、こうしていられるのも、魔女差別が無くなったのも、師匠のおかげなのォ。ふふん、師匠はねェ、すんごい人なんだからね〜!」


 こうして話している限り、この人も普通の女子高生っぽいのに……魔女って、ことは…やっぱりこの人自身も、すごいって話なんだよな…。


「あ、それと弟子ちゃんは、アニィたんだけじゃないんだァ。今の君よりも七つくらい上のお姉さんがねえ、いるんだぁ〜。今はァ、買い物に行ってるけどぉ、そろそろ帰ってくるかもォ」


「そ、そうなんですか……」


 七つ上……今のこの身体が、五、六歳としたら、まだ十二歳…くらいかな。なんでそんな子供から、弟子に……。


「その子はねえ、ある約束でぇ……うちが弟子にしたのぉ」


「今、心読みましたよね…?」


 魔女って心まで読めるのか……あんまり、変なことを考えないようにしよう。


 そう思っていたら、扉が開く音がした。


「…ただいま、帰りました……」


「あ、噂をしてたら帰ってきたみたぁい。連れてくるから、ちょい待ち〜!」


 そう言って、キャロルさんはその場からふわりと浮かんで、部屋を出た。だが、すぐそこなのか、会話がよく聞こえた。


「カガリっち、おかえりっち〜」


「キャロル先生……お客様ですか?」


「ううん、ちがうよぉ〜。お客さんじゃなくてェ、新しい弟子!ってことで、今日から、カガリっちは姉弟子だよぉ〜ん」


「あ、あねでし!?わ、私が!?ひぃいいい、むりですむりです、ぜったいむりです!!!」


「急に声おっきくなんのまじウケる〜。ほらほら、とりあえずこっち来て〜」


 …すごく賑やかだな…。

 なにやらわいわいしながら、キャロルさんが連れてきたのは、確かに今のおれよりもお姉さんっぽい、くせっ毛で、三つ編みの…眼鏡をかけた女の子だった。


「カガリっち。この子が、今日から私の二人目のきゃわわな弟子ちゃんの、アニィたんだよォ」


「アニィ、です。よろしくお願いします…」


「は、はひ、…わ、私、私は、…カガリです……はい、あの……お手柔らかに…生まれてきて、ごめんなさい…」


 すごく、どんよりしている。生まれてきてごめんなさいって……なんて言葉だ。


「カガリっち〜、しっかりしてよォ」


「きゃ、きゃろるせんせ、もう弟子はとらないって、……」


「アニィたんはね、ちょっとワケアリてきな?でも、うちの一番弟子はカガリっちだから安心してねぇ〜」


「ひぃっ…おそれおおすぎて、息苦しい…」


「カガリっちはねェ、今は十二歳だけど〜。独学で、十歳の時に黒魔術を身につけたんだよぉ、すごくなぁい?」


「や、やめてください、キャロル先生…!そんな、大したことじゃないのに、…く、くろまじゅつとか、ほんと……あの、…ろくでもないですし、…しかたなく、勉強したというか…」


「照れない、照れなぁ〜い」


 なんだか、師弟というか、姉妹みたいだな…微笑ましい。おれとあいつも、傍から見たら、こういう風に見られていたんだろうか…。


「じゃあ、今日からよろちくねぇ、アニィたんっ」


「た、たよりないし、だめなあねでしだけど、…よ、よろしく、……ね…」


「……はい…キャロルさん、カガリさん。どうぞ、よろしくお願いします…!」


 今日からおれは、アニィという少女として……このファンタジーな世界で、まだ見ぬユーシャとヒヨリを幸せにする使命を果たすことになった。


「じゃ、早速〜…アニィたんは、これから魔法を使えるためにィ、魔法学を始めとしたキソ的なものを、カガリっちに教えてもらってねェん」


「はい!?そそそそ、そんなむりです、わたしなんかがおしえるとか、なまいきです、ぜんぜん、ぜんぜんだめだめなのに…!」


「師匠命令だぞぉ〜。だいじょぶだいじょぶ、カガリっちだから、任せられるんだぁぞ!」



 …………まずは魔法を使えるように、頑張ろう…!

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