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アンデッド・ヒーラー  作者: NICOLE
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第十二話【 あれは夢じゃなかったのか……? 】

 おれは、気を失っていたらしい。


 目が覚めて起き上がったら、そこはまるで色んな花を一面に敷き詰めた様な色鮮やかな風景だった。


 空も淡い桃色のような不思議な色の空だ。

 花の甘い匂いを暖かな風が運んでいて……蝶のようなものが、花に集まっている。けれど、それはよく見ると…蝶じゃなくて……羽根の生えた小さな人のような……妖精、というものか?


「きれいだ……」


 妹も、今はこういう穏やかな場所で親父と母さんと一緒に…幸せに、元気に暮らしてると、良いな。


 それにしても、此処は何処だろうか。

 目が覚めた時に、花の匂いと土の温かさを感じて…触ってる感触があるけれど、まだ意識がふわふわしている。

 ここは……夢の中か?それとも、キャロルさんの敷地の何処か……?


『ごめんなさい、アニィさん』


「え…?」


 ふと、どこかで聞いたような声が周りに響く。

 声がするのに姿は見えない。


『あなたの身体を、勝手にお借りしてしまって…』


「ええと…?」


『ユーシャを……あの子を助けて下さり、本当にありがとうございます…』


「!」


 何処かで聞いたような声。それは、夢の中で見た、あの家族たちの…王妃様のような姿の女の人の声だった。


 もしかして、……というか、やっぱり…。


「ユーシャの、お母さん…?」


『…はい。私は、あの子の母親……アーリィと申します。

 生前は三人の子供の母親であり、英雄王の妻でした。王妃となる前は、精霊族の代表……精霊王を勤めておりました』


「アーリィさん……精霊術士と、聞いていたんですが…」


『ええ…皆、私をそう呼んで下さりました。

 王である私を、精霊達が慕って、当初からも沢山力を貸してくれました。実際…私の魔法よりも精霊達のおかげで、当時の魔王長討伐にも貢献出来ましたからね…』


 術士、では無く、精霊達が進んで手伝ってくれていた……?昨日の夢と違って、姿が見えなくて、頭に優しく語り掛けてくれるような声……何だか懐かしく思えて、とても落ち着く。


『昨晩の事は……時の精霊が、教えて下さったのです。いずれ、ブレイブダムスはマオウにより滅ぼされる、と……しかし、何時かは教えてくれませんでした。

 それを知る事は、運命を大きく変える事に繋がる。それは禁忌なのです』


 精霊は無機質なものに命を与える存在とは聞いていたけれど…時の精霊、というのもいるんだな…この世界で時間が進むのも、精霊のおかげ、ということ、なのかな…。


『しかし……例え禁忌だとしても、それにより善の神シャーロ様を、世界を敵に回してしまうとしても……私は滅亡するとわかって、何も出来ないなんて事は、一国の王の妃として許せなかった。抗いたかったのです』


 ……おれだって。妹が死ぬってわかってて、も…何とかして、生きて欲しかった。

 そうなる事が決まっていても、抗える術があるなら抗いたかった。守りたかった……アーリィさんの気持ちは、痛いほどわかる。


『ですが……私は家族を、国民を、皆を…守る事はできなかった……ただひとり、ユーシャを生かす事に、精一杯でした』


 ……たった一人の命を守る事がどれほど大変なんだろうか。

 おれには、この世界のことはまだまだわからない……けれど、あの絶望的な状況でユーシャを守る事が出来た、というのは…すごいんじゃないのかな。


 そう伝えたいのに、声が出なくて……なんだか、また、くらくらと目眩が……。


『生かす…いえ、違いますね……ユーシャだけは、生き残る事が出来たのです』


 ……それは、どういう…?


『あの子は、英雄王と私の血を色濃く受け継ぎ……精霊に愛された選ばれし勇者。この世界は……あなたと、……あの子に……そして……』


 あぁ、……まだ話は終わってないのに、どうして……声が、遠く…


『お願いします、あの子と共に…もう一度、ブレイブダムスへ……』



 ---



「アニィさん…アニィさんっ…!」


「はっ…ぇ……?」


 身体を揺すり起こされて、目が覚めた。

 目の前には、おれを見下ろすカガリさん。なんだか、熱っぽくてボーッとしてしまう……。

 おれはソファで寝ていた……誰が、ここまで運んでくれたんだろう。


「よかった、目が覚めて……」


「アニィたん、起きたぁ?だいじょぶ?」


「はい…だいじょうぶ、です…」


 今のは、夢?けど、色々とリアルだったような…何だったんだろう…?


「アニィたんね、さっき仮死状態なってたんよォ」


「仮死状態………え?死にかけてたってことですか?」


「そゆことぉ〜。もうびっくりしたんだかんねぇ、急に倒れたと思ったらさぁ、アニィたん、精霊にめーーっちゃ群がられてたんだもーん」


「え、えっ…?」


「ユーシャくんが、アニィさんが倒れたんだって、私たちを呼んでくれたのよ…」


 精霊に群がられて、仮死状態…?

 え、おれは一体どういう状況だったんだ…確か、身体を操られて…?借りられて…?それで、あれは……?


「ユーシャ、は…?」


「アニィさん、まだ動かない方が、…っ…」


 起き上がろうとしたけど、まだ足下がふらつく。すると、キャロルさんがおれの身体を、またソファに座らせてくれた。


「うちがユーシャっぴを呼んできてあげっから、ここでちょい待っててェ」


 そう言って、キャロルさんは頭を撫でてくれて……上手く力が入らない身体で、おれは頷くしか出来なかった。


「あの…カガリさん。おれ、仮死状態って…死んでたってことなんですかね…」


「キャロル先生は、そう言っていたわね……先生が言うには、アニィさんの魂は一時的に身体から離れていたらしくて…それは、精霊達がアニィさんを連れていこうとしていたようだって、…」


 あれは、夢じゃなかったのか……?


「精霊って、そんなこともできるんですか…?」


「そうね……精霊は、無機質なものに命を与える役割もあれば、魂を死者の園へ導くともいわれているの。

 でも精霊の種類は沢山いて、複雑で、色んな役割があって……未だかつて、精霊がどういうものか、明確にされている資料は無いわ。

 一般的な共通認識として、無機質なものに命を与える存在、とは、言われてるけれど」


 昨日見た、魔力を餌に貰う代わりに守る役割をする守護精霊もいるみたいだし…未来がわかる、時の精霊もいる……確かに精霊って、色んな仕事?役割?が、出来るんだな。


 ユーシャのお母さん……アーリィさんは精霊王って、それだけの万能とも言える精霊達の代表って、ことか…。改めて考えると、すごい……。


「アニィたーん、ユーシャっぴ連れてきたよん」


「キャロル先生っ…!?」


 カガリさんが驚くのも無理はない。

 ユーシャを小脇に抱えて、戻ってきたキャロルさんにおれも声が出ない。ユーシャもユーシャで、なんか諦めた顔をしてる……抵抗はしたけど、無駄だったのか…?

 それに、なんだろう…キャロルさんとユーシャの周り、精霊がふわふわしてる。


「あは、ユーシャっぴってば、無茶してたからさ〜。うちもまーじビビったよねェ」


「む、無茶とは……」


「ユーシャっぴもねぇ、精霊達に連れて行かれそうだったんだよねェ〜」


「へっ?」


「アニィたんが精霊達に死者の園に連れて行かれてたから、連れ戻そうとしてたっぽくってェ。あと一歩遅かったら、ユーシャっぴも死んじゃうとこだったんだから〜」


「ええ!?」


「……でも、意識が戻ってよかった…」


「……!」


 意識を失った時がどんな状況だったか、わからないけど…ユーシャは、自分の命を顧みずにおれを救おうとしてくれたのか。

 かなり危なっかしいけど、優しい子だな……。


 キャロルさんから降ろされたユーシャと、目線を合わせた。今のおれよりも子供なのに、感情があまり顔に出てなくて、けれど…心配してくれている、というのは、何となく伝わった。


「ありがとう、ユーシャ」


「……うん…」


 ---


 ユーシャが説明してくれたけれど……おれが気を失った時、ユーシャに惹かれて集まった精霊が、おれに群がって、そのまま魂を死者の園に連れて行ったのを見て……自分目当てで集まった精霊が、何でかわからないけれどおれの魂を連れてってしまって、ユーシャは責任を感じたらしい。


 死者の園というのが、この世界で言うところのあの世で……それとは別に、魂を迎える場所として天界や冥界があり、死者の園はその中間にあるみたいだ。やっぱりこの世界にも、天国や地獄みたいなところが、あるんだな。


「おれは、ユーシャに惹かれてきた精霊達に、じゃなくて……多分、ユーシャのお母さんが用意した精霊達によって、連れて行かれたんだと思う…」


「母さんが…?」


「なるほどぉ〜。精霊術士のマンマの血を引いてるユーシャっぴを目印に集まって、アニィたんを連れてったってことねェ」


「……どうして母さんは、あんたに……」


 おれも、それは思っていた。どうしておれなんだろう、と。


「………んー……」


「キャロル先生?何か心当たりでも…?」


「やー、なんていうかァ……ユーシャっぴのマンマの名前さぁ、…アーリィ、だっけェ?」


「…あぁ、そうだ」


 ……アーリィ。それはおれがさっき、死者の園で教えてもらった名前だった。


「ンー……うちの思い違いじゃなかったらァ、うちの師匠のマブだった気がするんだよねェ」


「キャロル先生の、師匠?」


「って、ことは…!?」


 おれをこの世界に連れてきてくれた、あの声の人…!?


「あんたの師匠と、母さんが友人……?」


「そーォ。うちの師匠、大魔女のクリスっていうんだけどォ、聞いた事なぁい?」


「せ、先生……その名前は、そんな簡単に教えちゃ駄目なんじゃ、…」


 あの声の人、クリスって言うのか……。ていうか、大魔女…?魔女の中の代表みたいなもの、か?


「ありえない……母さんは、精霊族だ。精霊族と、魔女の一族は犬猿の仲と聞いている」


「あーね、たしかにィ」


 犬猿の、仲?精霊と魔女は仲が悪いということ…?


「そうなんですか、カガリさん」


「恐らく五千年前の、ドール大戦のせいかしら…」


「ドール大戦……って、戦争……!?」


「所謂、色んな種族が生き残る為の戦争ね。まだ、魔女が白と黒に分けられる前で、当時は精霊の一族と魔女の一族が対立していたって、資料を見たことがあるわ」


 …… 色んな種族が存在するこの世界だ。争いだって、起きてもおかしくない…か。


「ユーシャのお母さんは、魔女が嫌いだったのか…?」


「母さんは……嫌いとか、憎いとか、そういう話は、オレたちの前でしたことはない…でも、…魔女の親友がいるって、話は……知らない」


「じゃあ、仲が良い方はいなかったの?」


「もう結構会ってないけれど………薬師の、…チェリッシュさん…」


「あ、それ師匠が人間に擬態してる時の名前だァ〜」


「!?」


 あんまり感情を表に出してないユーシャがビックリしてる。そんなに驚く程のことなのか…?


「うそだ、そんな…!」


「うちら魔女はねェ、そんじゃそこらの薬師よりも、薬草や植物について詳しいからァ〜……昔は魔女って身分を隠して、お医者さんとかぁ、薬屋さんに擬態する事が多かったんだよねェ…」


 だから、カガリさんの家系にも呪術が緩和する魔法薬を渡せていて、カガリさん自身に呪いを受けない薬も、キャロルさんは作れたのか……。


 …………確かに魔女って、なんかしら怪しい薬を作ってるイメージが、あるような、ないような…?


「チェリッシュさんが、魔女だったなんて……母さんは騙されていたのか…?」


「やー、それはないっしょ。ユーシャっぴのマンマほどの精霊術士なら、師匠が魔女ってことくらいわかってたと思うけど〜?勿論、師匠だってユーシャっぴのマンマが精霊族だってわかってたと思うしィ」


 ……ユーシャ…めちゃくちゃショック受けてる…。ショックというか、落ち込んでる…?

 それに反して、キャロルさんはなんか嬉しそうというか…。


「あとユーシャっぴ、産まれた時から身体弱い系でしょお。師匠とも、その事情込みで会ってたんじゃあな〜い?」


「…!!」


 身体が、弱い?そういう風には見えなかった……あぁ、でも……だから、昨日の夜…お父さんみたいになれないとか、自分より兄貴の方が勇者に向いてるって、言ってたのか…?


「ま、でも。師匠と接点があったって事はァ……アニィたんの事を、ユーシャっぴのマンマが知っててもおかしくないよねェ〜」


「それは、どういう……?」


「君とアニィたんは、出逢う運命にあったってこーと」


 運命、って……まぁ、それは…確かにユーシャを幸せにするように、とは、言われたけど…。


「……まだ、よくわからないけれど……母さんが、あんたの身体を使って、魂を引き剥がそうとしてまで、何かメッセージを伝えたかったのは、確かだ…」


「うん……」


 死者の園に連れていかれた時も……おれとなにか話をしたかったんだと思う。けど結局それも聞けずじまいだった……と、なれば、…


「ユーシャ……おれと、一緒に……ブレイブダムスに行ってくれないか」


 ユーシャのお母さんが……アーリィさんは、もう一度ブレイブダムスに来て欲しいと言っていた。

 そこに行けば、アーリィさんが伝えたかったことが、わかるかもしれない。



 ユーシャは少し不安そうな顔をしてから、頷いてくれた。

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