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3話 午後の学校

 午前中が終わり、今はお弁当の時間。どんな人も誰かと一緒に楽しそうに食べている。でも、それでも私は1人で静かにお弁当を食べる。もう慣れているから平気だけどね。

 今日のおかずは――あ、から揚げだぁ〜♪ から揚げ大好き、やった、ありがとうお母さーん!

 大きく口を開けて、一口大のから揚げを一気に口に含む。ちょっと大きすぎたかな、でも大丈夫、カメが小さくなるもん。はちきれそうな口を押さえつつ噛む。あぁ〜、噛めば噛むほど味が良くわかる、お〜いし〜! ゴックンと飲み込み、お茶を一口。


「すっごい美味しそうに食べるね。紅納さん、から揚げ大好きなんだぁ」


 うっわぁ、突然目の前に霧が現れたぁ! 欠片も綺麗じゃない、いやむしろ汚い! でもなんだか嬉しいわ、だって私の口から出たんだもん。って私のバカ! 目立つじゃないの!

 突然話しかけられたことに驚いて、ブーッとお茶を噴出してしまったの。恥ずかしい……

 幸いなことに、窓向いてたから誰にも掛からなかったし、しっかりと飲み込んでたから食べたものの残骸もなかった。でも、恥ずかしすぎる……。あと、のれんのごとく前で垂れ下がっている私の前髪にもろにお茶がかかったし、顔もお茶で濡れてしまった。最悪だ……。

 恐る恐る声のした横、右側を向く。すると視界の悪い中、前髪と前髪の隙間の中で見えたのは木下良美さんだ。驚いている。当たり前だよね。とにかく、返事しなきゃ。願わくば今のことがなかったように思わせるほど自然に言いたい!


「あ、え……う、うん。か、かかかかから揚げ……好き」


 あ、あああうあ……希望は大きいのに、木下さんを前にすると緊張のし過ぎで頭が回転しない、そして呂律が回らない!

 木下さんはなんとも言えない顔をしている。中学まで見たこともないから、たぶん高校で初めて一緒の学校になったんだろうな。でも周りなんて見てなかったからわかんないや、あはは〜って笑えない、第一印象最悪だ!


「……そ、そうな――ブッ……はぁっはははっははやーっははははは……」


 なんだろう、沈黙があって完全に引かれたと思いきや、突然大笑いが始まった……。もしかして笑われてるのは私? うぇ、恥ずかしいよう。心なしか、今クラス中の人に注目されているような気もする。

 気のせいかもしれないけど、思い切り下を向くしかないよ。もう前を向ける気がしない。


「ちょっともう、良美何やってんのよ紅納さん困ってるじゃない!」

「ホントアンタって人は……紅納さん、ごめんね」


 人が……人が人が集まってくる。木下さんを中心に青島さんと菅原さんが……何か言ってるみたいだけど、頭が回らない、何もわからない……も、もうダメだ!

 私はバッと立ち上がり、走って教室から出て、廊下を走る。弁当食べる時間である今、廊下に人通りは少ない。でも教室には全開になってる窓が多い、中から目立つ! 外、とにかく外へ逃げよう、人なんていないところへ行こう!



 校舎裏のひっそりとしたところで一息つき、落ち着いて考える。弁当どうしようかな、から揚げはどうしても食べたいし。そういえば次は体育だ。みんな着替えるのに教室から早めに出るだろうな。よし、教室に人がいなくなったら急いで教室に戻って食べよう。あと窓拭かなきゃ。その後すぐに着替えな……いや、休もうかな。2人組とか私にはムリだし、話しかけられない。それにさっきのことがあるし恥ずかしくて人前に出る自信がない。

 しばらくたって教室に戻ったとき、私の弁当箱には蓋がしてあって、お箸も机も元に戻されていて、窓は拭いてあった。たぶん、木下さんたちがやってくれたんだろうな。逃げたことと同時に色々と申し訳ない。



 時は変わり、今は下校時間。結局体育は休んで、6時間目からは授業に出た。とはいってもひたすら机に突っ伏してるだけだったけど。

 下校のチャイムが鳴ると、一刻も早くこの緊張から逃げ出そうと教室を飛び出し、自転車に乗り、全力でこいだ。

 ガタガタガタガタガタガタとすごい勢いで揺れる。なんだろう、工事現場の機械使ってるみたいだ。もう、どうしてこんなに揺れるのよっ。

 ふと揺れの酷い前のタイヤを見ると、明らかにパンクしている。ぺちゃんこだ。

 あぁ、今朝前輪がパンクしたんだった……まぁいっか、気にしないでおこう。私はそのまま校門を出てすぐ右に曲が――れない。どうやらパンクした前輪ではタイヤのゴムの部分がグニャってなって曲がれないみたい……最悪だ。これはもう降りて帰るべきだろうけど、娯楽施設が多くて人も多いこの辺りを歩くのは嫌だ。私は一旦降りてタイヤの方向を変えると、また乗ってこぎ始める。私は、ホイールを信じるわ!

 わりと滑らかな道を、私はガタガタとパンクしたタイヤ特有の衝撃を味わいつつ行く。気を抜いて不用意に自転車の進む方向を揺らしてしまうと、それだけで倒れそうになるので気は抜けない。

 家に着いてあらゆる緊張から解き放たれると、すぐに自分の部屋に入ってベッドに寝転ぶ。

 あ〜、今日も一日疲れたなぁ。

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