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2話 登校

 スパって感じですっきりと綺麗な空気が肺に入ってくる。もうどんどん入ってきてよってくらいに気持ちがいい。やっぱり早朝の風は清々しくていいなぁ。それに、人通りもまだ少ないから気兼ねなく自転車に乗れる。あ〜、私はこの時間が一番好きだ。

 私が住むこの島――白樺島は小さくて人口も少ないからほとんどの人が顔見知りで仲良し。極度の人見知りである私は別だけどね。だからみんなが家を出るような8時とかに家を出ると、仲良くおしゃべりしてる人や友達を待っている人がいて落ち着かない。だから早い目に、7時半ごろに出発するのが日課なの。

 残念なことに、私には一緒に学校に行くような友達は居ない。人と話すのが苦手なんだから当たり前と言ってしまえばそうなんだけど、寂しいな。学校でもいつも独り。いじめられてるわけじゃないよ。でも、私にはその方がいい。目立たなく地味に、ひっそりと生きていきたいもん。それなら緊張しないしね。極度の人見知りなだけじゃなくて上がり症の私は毎日が辛い。

 顔だけ知ってるような微妙に知ってる人ばっかりいるけど話す勇気なんてないし。目を合わせたときや偶然出会ってしまった時はどうすればいいのかわからないから、前髪を口の辺りまで伸ばして、人と目が合わないようにしてるくらいなの。

 おかげで最近目が悪くなってきてるし、凄くうっとうしい。前がよく見えないの。だから障害物に気をつけないといけない。緊張しないという点では我ながらいい作戦なんだけどね。

 この、前髪を伸ばして人と目をあわさないという方法を実行したのは中学の終わり。それまでは真下ばっかり見ていたの。でも、真下を見ていては前が見えない。何が問題かっていうと、肩がこってしょうがないの。だから前髪伸ばしてのれんのように使うことによって前を向けるようにした……んだけど、ほんの2、3ヶ月の間に少なくとも15回は電柱にぶつかるし、5、6回は道に迷うし、ざっと60回は段差に躓いている。最近ようやく慣れてきたけど、それでもよく怪我をする。中学までの頃のような真下を見続ける生活は、段差はもちろん、電柱だって影でわかったりするから安全。つまり今ほどまでに怪我はしなかった。首が疲れなければよかったのになぁ。その点を考えると、この前髪は最高よ。

 と言うわけで、今自転車をこぐ私の前髪はしっかりと私の視界を奪う。本当なら風でなびくはずなんだけど、そんな時に人が現れて目が合うのが嫌だから、ヘアバンドで抑えながらこいでるの。髪が多く、くせも強く、硬い質だからもう凄まじく私の視界を奪う。

 そんな状態で自転車なんてこいで、物にぶつかったりこけたり、方向間違ったりしないかって? フフ、愚問よ愚問! 道なんて体が覚えてるわ。

 得意げに頭でそんなことを考えていると、石か何かあったのか、タイヤで何かを踏み、軌道がずれるのと同時に操作が利かなくなる。でも、常に視界の悪い私はこんなことでは倒れないわよ。一度右足を地面に当てることによって体勢を立て直す。

 ……私がドジなわけじゃないよ、さすがに石の位置とか覚えてないもんっ あと、歩道入っちゃった……

 ま、早朝で人もいないしいっか、とそのまま勢いよく進む。次に道路に出られるときに出たらいいよね。よし、後もう少ししたらちょっと右に出て車道と歩道の間くらいを走ろ――ガッタンッ

 突然走らせている自転車が飛び上がる。でも、何事もなかったように自転車は前へ進んでいる。あれ、今の衝撃は気のせい?

 気になった私は一度止まり、人がいないことを確認してから前髪を思い切りかきあげて何か物があったかを見る。すると、歩道と車道の間に存在するヘリがあった。歩道の切れ目の部分にあるもので、平面の地上に凸となっている。どうやらそれに思い切り突っ込んでしまったらしい。あまりにドン臭くて恥ずかしい、人がいなくて良かったな。……いや、でもよくよく考えたら突っ込んでも尚こけないなんて、私ってやっぱりドジじゃないじゃない。よかったぁ。

 気を取り直してまた進む。あともう少しで学校か、嫌だな。


 数分と掛からず校門をくぐる。――ガクッとなかなか強く揺れた。でも、校門は門を動かすためのレールが敷かれているからおかしくないか。ただ、さっきから不自然なくらいにがタンガタンしてる。一旦止まろうかなとも思うけど、後もう少しで駐輪場だし頑張ろう。 

 間もなく駐輪場に着いた。一番昇降口に近いところに停めて、タイヤを確かめる。黒いゴムの弾力は――パフパフ、と力がない……最悪だ、パンクしてる……。

 はぁ、とため息を吐きながら立ち上がり、とぼとぼと教室を目指す。とにかく、ここで落ち込んでたら人に会うかもしれないしね。

 教室に着くと、私はすぐに机に突っ伏し、時が過ぎるのを待つ。

 学校での私は、ほぼ動かない。いや動けない。だって、目立つの嫌だし、見られたくないし、もう透明人間になりたいくらいに私は恥ずかしがり屋なのだ。

 だから、人と話すのも恥ずかしいし、人前に出るのも恥ずかしいし、とにかく目立ちたくない。

 もうイヤってほどわかってるかもしれないけど、私の前髪が口元まで長いのは、ちょっとでも恥ずかしさをおさえるため。あと、もう1つわけがあって、影が薄くなるからなの。授業はほとんど顔を上げない。だって、先生と目が合うの嫌だし。休み時間も顔を上げない。だって、疲れるし。でも授業、と言うか勉強は必死でやってるのよ。だって、1回学年最下位になって目立ってしまったんだもん。もうあんなのは二度と嫌だしね。

 なんてことを考えていると、比較的早いめに登校してる人たちが来たもよう。よし、息をひそめてコッソリとしていよう。早く学校ですごす時間が終わりますように。


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