1話 早起き
4月下旬。私こと紅納月夜が高校生になって約2週間がたった。やっぱりとても辛くて、とても苦しい毎日だ。それは今までと変わらないけど、環境が変わった現在、ストレスが溜まりに溜まっている。発散する余裕もないけどね。ただ、やっぱり肩こりはマシになったの。思わず顔がにやけそう、フフフ。しかも、顔がにやけたって大丈夫なのよ、もう嬉しくなってくるわ。
あぁ、でも今日もこれから学校に行かなきゃならないと思うと、ベッドから身体を起こすのが億劫だな。まぁ今起きても起きなくても、学校に行かないことはないんだけどね。家に居て家族に心配かけるなんてまっぴらだもん。それに外でサボるのも有りえない――というより外でサボるなら学校のほうがマシだ。
この葛藤も毎日のことで、覚悟を決めたら一気に起きて、制服に着替えて今いる2階の自分の部屋から出て、1階の居間に向かう。今私の目の前に見えるのは木造の我が家の階段と、和風って感じのする玄関だ。つまり玄関に入るとすぐに階段があるの。雰囲気のいい玄関なんだけど妨げるものがある。それは私の前髪だ。とんでもなくうっとうしい。ま、しょうがないんだけどね。
現在6時半。階段を下りると味噌汁の良い香りがする。お母さんは既に起きていて、朝ごはんもバッチリみたいだ。毎朝毎朝早く起きる私に合わせてくれてるんだ。そう思うと、有り難みよりも申し訳ない気持ちが強くなる。――毎日毎日ごめんなさい。と心の中で手を合わせる。面と向かって言うことは出来ないしね。
襖を開けて中を見るとお母さんは朝ごはんが並んでいるテーブルの前に座っている。焼き魚と味噌汁を見て思わずにやけながら声を掛けた。
「おはよう」
「おはよう。ご飯もう出来てるわよ、食べようか」
テーブルの上には白いご飯、お味噌汁、焼き魚に漬物。まさにこれぞ和食と言うような日本の朝だ。
私とお母さんは向かい合って座り、朝食をとる。まずはお味噌汁を一口啜り、焼き魚に手を伸ばす。う〜ん、お~いしい。やっぱりお母さんの焼き魚の塩加減は絶品だ。
「月夜、学校にはもう慣れた?」
口いっぱいに白ご飯を頬張ったときにお母さんが声を掛けてきた。
う〜ん、正直言うと欠片も慣れてない、というか慣れたことなんて一度もないけど、心配ばっかり掛けちゃダメだし……
考える時間を稼ぐべく、ゆっくりと噛む。言葉を決めるとゴクンッと飲み込んで箸を置き、口を開く。
「ちょっとずつだけどね」
ぎこちなくなってしまうけどニコッとして言った。嘘だってバレなかったらいいな。
「そう、まぁまだ2週間しか経ってないもんね」
よかった、信じてくれたみたいだ。……でも、少しだけ残念な気もする。心配してもらいたいと思ってしまう自分がいる……でもダメ、心配なんて掛けられない。
味噌汁の最後の一口を啜って、朝食を終えると、私は身支度を整えて家を後にする。玄関では心配かけないように元気に声を出す。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
お母さんの声を聞いたら、私はヘアバンドを装着して自転車にまたがった。これから学校へ行くことに憂鬱になりながらも、私は自転車をこいでいく。