誰でもいいから背中を押して欲しい
ーーー俺という人間の、醜い叫びを聞け。
優秀な人間だった。俺は間違いなく優秀と言えるだけの人間であった。
あらゆる事柄に対し早い段階で平均より上に辿り着けた。だからこそ目指すべき頂の高さに気付き、誰よりも早く心折れた。
何かを極めることが出来なかった。
俺は一番になりかったのだ。何でもいい。立ち塞がる障害を片端からなぎ倒して頂点に君臨したかった。誰もが見上げる。そんな存在になりたかった。
しかしいつからだろう。夢を見ることさえ諦めたのは。いつからだろう。挑戦の前に諦観が立ち塞がるようになったのは。
幼い頃はこのような事は無かった。年齢を言い訳に出来たから。まだ出来ると自分に言い聞かせられたから。
そんな甘えが許されないだけの歳を重ねた。自分より後に生まれた人間が俺を追い越して先に行った。どんな事柄でもいい。俺が負けだと思ったら、思ってしまったらそれは負けなのだ。創作物の中でよく「諦めなければ最後には勝てる」と言った言葉を見る。
あぁ、その通りだとも。俺は他の誰よりもそれを知っている。亀のような歩みでも、進み続けられる者は先に行けるのだ。より良い未来を目指して歩んで行けるのだ。俺の見た事がない場所から、このちっぽけな世界を見下ろして笑えるのだ。その事を俺は知っている。
俺を追い抜いていった者達がそうだったから。遅々とした歩みでも、確実に歩を進めて先へ行った。足りない物を時間で埋めて、俺が諦めた壁を踏み砕いて進んでいった。
頭がおかしくなりそうだ。俺は止まってしまった。ずっとずっと昔に未来へ進む事を諦めてしまった。目指すという事を辞めてしまった。
今の俺はただ目の前に開けた道を惰性で選択しているだけだ。生きるために生きている。殉じるべき理想もなく、叶えるべき夢もない。死にたくないから。目標はないが生きていたいから。そんな消極的な理由で日々を過ごしている。
分かっているとも。諦めるにはまだ早いと。人生は長い。死が遠く遠く感じる。生に対して積極的でないから、他の誰よりも死を遠くに感じる。だからこそ生きる事に本気になれない。悪循環というやつだ。閉じた円環の中をぐるぐると回り続ける。先には進めない。歩んではいるが、その道は同じところに繋がっている。
何でもいい。一つだけでいい。ただきっかけが欲しい。先へ進むための何かが欲しい。随分昔に進む事を辞めてしまった。だから俺にはそれが何なのかもう分からないが、自分を納得させ未来へ進むための何かを求めている。閉じた世界をぐるぐると回り続ける俺は、この殻を破る術をもう思い出せないから。ならば俺以外の何かにそのきっかけを求める以外は無いだろう。
なぁ、誰か。
俺をこんな場所から救ってくれ。
願わくば、より良い未来で笑えるように。
きっかけをください