第一話 出会いと契
それは月が綺麗に見えた夜だった。
僕の前におぞましい化け物と美しい化け物が2体立っていた。
1体の顔面は狐によく似ているが身体のでかさはゆうに5mは超えてるだろう。口からはヨダレがたれて今にも僕を食べようとしている。見るからに強そうである。
対してもう1体の化け物は僕に背を向けて立っている。まるで僕を守るように
その体は目の前の化け物を優に超すでかさで10mはあるだろう。
そして身体は美しい白色の
骸骨だった。
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「まさきー遅刻するよー!」
僕 蔵守 正樹の一日は母の怒鳴り声から始まる。
僕は朝にはとても弱くて高校2年生になった今でも母に起こしてもらわないと起きれないほどだ。僕の家は母と僕の二人で暮らしている。父は僕が生まれてすぐに離婚したと聞いている。
今日は新学期。高校1年生の時とは違ってメンツが変わったりする訳でもないのでいつも通り家を出る
なにも変わらないいつも通りの朝
いい天気だなぁなぁんてボーッと歩いていると
「もー、そんなにチンタラ歩いてたら遅刻するよ?」
と声を後ろからかけられた
声の主は樫原 千里
小学校から同じのいわゆる幼馴染だ。
彼女はとっても活発的で面倒見がいい。そのためか幼馴染と言うよりはお姉ちゃんのような感覚で接してしまっている。
「大丈夫だよ」
と曖昧な返事で僕は返しながら2人でゆっくりと学校へ向かった。
学校へ着くと早速いつものタメに絡まれた。
「おー、今日も仲良く2人1緒で登校ですかアツアツだねぇー」
と僕達をからかってきたのは神田 海斗
こいつも小学校からの幼馴染で昔からいつもこの3人でいることが多い。僕は海斗からの言葉をはいはいといつものように流して席に座った。隣をみると静かに本を読んでいる女子がいた。
彼女は九条 ヒツギ このクラスの学級委員長をしている。
いちよう小学校から一緒の幼馴染ではあるがおしとやかな性格のためかあまり関わった覚えはない。
「おはよう委員長」
「おはよう蔵守君」
委員長との挨拶を終えた所でチャイムがなり始業式の為に皆は体育館へと向かった。
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皆が体育館から始業式を終えて教室に戻って席に着くと先生が教室に入ってきた。
「はーい、みんな今日はこれで学校は終わりだが一つだけお知らせがある。さぁ入ってきなさい。」
そう言って先生が教室のドアを開けると1人の女子が入ってきた。
「初めまして、私は海野 歌音と言います。これから2年間だけどみんな仲良くしてください!」
その子はどうやら転校生のようだ。しかしこんな時期に転校生なんて珍しい親の仕事の都合かなにかなのか?
そうしてこの日の学校が終わり3人は一緒に帰っていた
「いやーびっくりしたなぁ。こんな時期に転校生なんて」
「ほんとだよなぁ。親の仕事の都合とかなのかなぁ?」
「いや、それがそうでも無いらしいよ?あの子1人でこの街に引っ越して来たみたいだから。」
「へー大変なんだねぇ。ちなみにどこから来たのか樫原聞いた?」
「それが神宮市らしいよ。」
「うわっあそこかー、確かに俺でも引っ越しちゃうかも。」
神宮市とは少し田舎のとこだが最近ニュースで取り上げられている。少年少女連続行方不明事件だとか神隠しだとかいずれも大人ではなく小学生から高校生にかけてを狙われており1ヶ月前からそのような事件が連続して起こっていた。犯人も捕まってないことから気味悪がって引っ越す人も少なくないとか……
そんな話をしながら僕達は家に帰った。
次の日
学校に行き授業を受けて昼休みに3人で昼ご飯を食べていた。
すると海斗がこう言った
「あ、そーいえばあの後調べてみたんだよ。例の事件」
「あー神宮市の?」
「そうそう、それでね1ヶ月前は毎日のように人が消えていたのにここ最近その現象がピタリと止まったらし。」
「だからニュースでも聞かなかったのか。気味が悪いね」
そして放課後僕はそこまで神宮市に興味は無かったが図書室で都市伝説系などの本を借りて教室で読んでいると、海野が話しかけてきた。
「へぇー蔵守君って都市伝説系とか好きなんだ。」
「いや、ちょっと気になる事があってね。」
「神宮市の事件の事でしょ?」
「え!?なんで分かったの?もしかしてお昼の会話聞こえてた?気を悪くしたらごめんね」
「あははは、だって大きな声で話してるんだもん聞こえてたよ。大丈夫気にしてないから。……それより私その事件について知ってる事あるんだけどさ聞きたい?」
「え?本当に?じゃあお言葉に甘えて聞かせてもらおうかな。」
「うん、あそこにはねお稲荷様っていって狐の神様が宿ってるの。昔はお稲荷様を信仰するために毎年お供え物を備えてたんだけどやっぱり年を追うごとに信仰心も薄れてきちゃって去年お稲荷様を祀ってた神社いくつかあったんだけど最後の神社も都市開発のために取り壊しにされちゃって。だから私は怒ったお稲荷様が人を神隠しに合わせてるんじゃないかなって思ってるんだ。」
「なるほど……それだと話の筋が通るね。」
「でしょ?あ、もう下校時間だ!また明日蔵守君!」
そう言って彼女は帰っていった。
僕は暗い夜道っといっても住宅街なのであかりはあるが夜道を帰りながらスマホで神宮市について調べてみると確かにお稲荷様についての記事は沢山でてきた。お稲荷様は怒ると幻をみせるとか化け物に返信して人食べるとか、にわかに信じ難い事しか書いてなかったので所詮都市伝説かと思っていると、突然背中に視線を感じたので振り返るとそこには委員長がいた。そーいえば委員長家近かったなと思っていると委員長が
「蔵守君神宮市についてあまり関わらない方がいいよ。」
と言ってきた。
「あ、委員長も話聞いてたんだやっぱりあれって…」
「あの話はとっても危険だから……だからどうしても調べたいのなら…これ」
と白いお守りを渡してくれた。
「委員長これってなんの御守りなの?」
「魔よけの御守りだから……なにかあったらその中身をだしてね」
「あ…うんわかった…」
そう言って委員長は早足で家に帰っていった。僕はその時は委員長の言ってる意味が分からなかったがとりあえずポケットにそのお守りを入れていた。
次の日学校につくと海野さんが僕の机の前で待っていた。
「蔵守君おはよう!ねぇ昨日の話なんだけどさ見せたいものがあるらしいから今日放課後私の家に来てくれない?」
と言われた。すると海斗達が
「お、なになに?放課後にデートですか?ヒューヒュー」
などと茶化して来たが「違うよ笑 神宮市についてだよ」と言い
「わかったじゃあどこに家はあるかな?」
と聞くとこれと言われて住所が書かれた紙が渡された。意外と自分の家から離れてないとこに建ってて驚きだったがとりあえず行く事にした。
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放課後すっかり日が暮れて月が綺麗に見えてきた頃僕は1人で行くことになった。海斗達も誘ったのだが海野さんが2人っきりで話がしたいと言うので仕方なく1人で行くことにした。書かれた住所に着くととても綺麗な一軒家が建っていた。僕もここには長くいるがこんな家はなかったから多分最近建てられたのだろう。ドアベルを押すと音はならず壊れているのかと思い叫ぼうとすると家の中から海野がでてきた。
「いらっしゃいさぁ上がっちゃって」
「お邪魔します」
家に入って僕は客間のような所に通された。
「ちょっとまってて今お茶出すから」
といい海野は部屋からでていった。
その部屋はとても綺麗にされており本当に1人でここに暮らしているのかと疑ってしまう程家具や絵画などが飾ってあった。そして僕はその中で少しホコリを被り目立っていた写真立てがいくつかあったのを発見した。その写真をみると海野さんは写っているがご両親らしき人との写真が見当たらない。そして他の写真も見てみるものの写っているのは海野さんのみ。両親と何かあったのかと思っていると海野さんが部屋に戻ってきた。
「ごめんね、お茶しかなかったの。」
「気にしないでいいよ。それより見せたいものって何?」
「そうだったね、こっちよ」
と言って海野は客間をでて勝手口から庭に案内してもらった。そこで僕は目を疑ってしまった。庭には軽く50は超えるほどの大量の墓石がたっているのである。すると海野は喋り始めた
「私ね自然が大好きで小さい頃はいっつも神社とかにいって遊びに行ってたの。でもある日お気に入りの神社が取り壊しの為立ち入り禁止になっちゃって仕方なく他の神社へ行ってたの。でもそこも壊され次もコワサレテ最後の神社に行った時に急に声がしたの
「君は自然を愛しているいい子だね。デモこのままだとここまで取り壊しになってしまう。だからさ少しでいいから体を貸してくれないか?」って。だから私は貸すことにしたんだ。」
「お稲荷様ニネ」
そう言い振り向いた彼女は海野ではなかった。
身体は大きく膨れ上がり毛が体を覆っていた。顔は狐のようにシュッと細くなり口からはヨダレが垂れている。まさに化け物であった。恐怖で何がなんだかわからず混乱している僕に化け物はこう言った。
「ワタシハお稲荷様ノ依代になったノ」
「よ、依代?」
「ソウ、手始めに工事関係者の大人ヲタべてあげた。デモソレでもヤメナイから息子娘もタベテアゲタ。ソシテある日ワタシのリョウシンガコウジに賛成していることに気づいたから」
「まさか!…お、おまえ」
「タベテヤッタ、ウマカッタゾ、ニンゲンタチハ同じ過ちをクリカエスダカラこの身体をツカイゼイインタベテヤルコトニシタ」
そう語っているのは恐らくもう海野ではないだろう。そして僕は悟った。このままでは食べられるどうにかして逃げなくては!しかし後ろの勝手口から庭にきた筈なのに後ろには無数の墓がありここは墓地と化していた。それでも僕は逃げた。走ってみたが一向に景色が変わらないまるで同じとこを走っているみたいに…
そしてとうとう追いつかれてしまった。
「嫌だ…食べないでくれ……」
「オマエラニンゲンハ皆クッテヤル。特にオマエは依代ダカラキケンダ」
僕が依代…?もうなにがなんだかわからない……それよりも恐怖でどうにかなってしまいそうだ。その時ふと思い出した委員長から貰ったお守りを。僕はポケットからお守りを取り出して紐を解き中身をだした。するとそこにあったのは白い粉だった
「やっと開けてくれたんだね。」
どこからともなく声がしたと思うと手に持っていた白い粉がみるみるうちに人の形を作っていった。そしてそこから現れたのは白い服をきた九条ヒツギと巨大な骸骨であった。巨大な骸骨と化け物は組み合った。骸骨が化け物を殴り化け物が骸骨をなぐる。まさに大怪獣バトルという言葉が1番似合う場面だろう。僕が唖然としていると九条ヒツギこと委員長が僕に話しかけてきてくれた。
「驚かしちゃってごめんね。でも今はあんまり説明してる暇はないんだ、あの化け物を倒さないといけないからね。」
「委員長!あいつは…海野はどうなるんだ!?」
「それはあいつをたおしてからの話だね。…っておっっと!」
そう言って彼女は僕を持って後ろに飛んだと思うと骸骨がこちらに倒れ込んできた。化け物の方が1枚上手だったようだ。するとすぐさま委員長は「リブプリズン」と言いまた新しい骨を出現させた。それはまるで化け物を囲む牢屋のように骨が地面に突き刺さっていた。あばら骨のような形をしている。すると委員長が「あれはほんの足止めにしかならないと思う。だから蔵守君すこし君の力を貸してほしい」
「僕の力……?戦闘に参加しろって言うのかい?」
「いいや、違うんだ君には私の依代になってもらいたいんだ。」
「依代って海野みたいにか!?」
「違うよ。あーはならないけど少しだけ君の中にあるものを貸してもらいたいだけなんだ。どうする?時間があまりないんだ。」
化け物は今にも骨の囲いを破ってこちらに来そうな勢いだ。僕に断る理由もなく
「わかった、委員長の言う通りにするよ。何をすればいいん……」
と言いいかけたとき委員長の唇が僕に重ねられていた。
「ありがとう、蔵守君。君の力借りるね。」
そう言って唇を奪われて唖然としている僕をおいてどこかへ消えてしまった。その時何かが砕け散る音がした
化け物は骨の囲いを破ってこちらに突進して来たのだ。
僕を食べようと化け物手が僕の顔つかんだ
……がそれは叶わなかった。直前で防がれていたのだ。1つの太い骨でできた手で
それは最初にみた骸骨とは比べ物にならない程でかくビル学校の校舎と同じくらいの大きさの骸骨がそこにはいた。するとその骸骨から
「行くよ、餓者髑髏」と委員長の声が聞こえたと思うとその骸骨は手で止めていた化け物を地面に叩きつけた。とても大きな地響きがして地面が揺れた、しかし化け物は生きていた。それでもなお僕の方に向かってくる化け物に骸骨の拳が飛んできてそのまま化け物は地面に突っ伏したまま動かなくなった。すると巨大な骸骨は役目を終えたかの如く粉々に砕け散り白い粉になって夜闇へ消えていった。
でかかった化け物の身体はみるみるうちに小さくなり次第に元の海野の姿へと戻った。そしてあたりを囲っていた墓地の景色は消えて気がつけばそこは広い空き地であった。
「とりあえず海野さんは無事みたいだね。」
どこからか委員長が姿をみせた
「委員長!!これはいったいどういうことなんだ!」
「まぁ落ち着いて、蔵守君らしくないよ。」
なんだか委員長は昼間との性格と違って少し明るくなっている。
「まぁ海野さんから少しは聞いていると思うから簡単に説明するとこの子は神宮市のお稲荷様という神様に取り憑かれてたんだよ。それで神様とかに取り憑かれてしまった人の事を依代っていうんだよ。取り憑くっていっても両者の合意が必要だけどね。まぁ説明はこんなとこかな。」
「ふーん…っておいおい!てことは僕は委員長の依代になったっていうことは委員長……いやヒツギは……」
「……そうだよ…人間じゃないよ。でも少なくともさっきの神様みたいに悪いやつじゃないよ!信じてっていっても信じて貰えないだろうけど…むしろ私はあれみたいに人に取り憑いて悪事を働く奴を懲らしめてるんだよ。だから…ね?そこまで悪く思わないで?」
僕は正直何を信じていいのか分からなかった。こんなに非現実的なものを見て何が悪で正義かなんて。でも委員長は僕の事を助けてくれたのは事実だ
「いいよ…僕は委員長の事を信じるよ。」
「え?本当に!?ありがとう!」
「うん、じゃあさ少し聞いていいかな?海野にはお稲荷様っていう神様が取り憑いてたんだよね?でも僕は委員長に取り憑かれてないんだけど……あれはどういう事なの?」
「いや、私はちゃんと蔵守君に取り憑かさせて貰ったよ。」
そう言い委員長は僕の身体を指さすとこう言った。
「私はね…蔵守君の骨、骸骨に取り憑いたんだ。私はね神様みたいな大層なものじゃないの」
そう言って委員長はこっちに白い顔を見せてこう言った。
「私は妖怪 餓者髑髏っていうんだよ。」
それはどこの画像でみたものよりも綺麗な白い骸骨だった。
こうして僕達の依代と妖怪という奇妙な関係が始まった。