ちゃんと泣く
頼ちゃんとの暮らしもだいぶ慣れて1年が過ぎた。頼ちゃんは小5になった。この1年で身長がぐんと伸び、155cmになった。
相変わらず俺はお昼に弁当を持っていき、地味に過ごしている。持っていかないと頼ちゃんが怒るのだ。
それにやはり家に子どもがいると、飲み会への参加は最小限にならざるを得ない。ワーキングマザーの気持ちが良くわかる。
でも送別会とか必要最小限はどんなに遅くなろうとも参加する。頼ちゃんは送別会と言えば絶対参加すべきとまるで大人みたいなことを言う。きっとアイツがそう教えたんだと思う。
親だけでなく、唯一の肉親を亡くして辛いはずなのに、頼ちゃんはこの1年泣かなかった。最初は一緒の生活をするのに必死で、俺も気付かなかったが、ある日ふと気付いたんだ。
子供なのに…泣いていない。
きっと我慢してるんだと思う。どこかのタイミングできちんと泣いておかないと、後に引き摺るんじゃないかと俺は心配だ。
ある日の朝、頼ちゃんがトイレから出て来なくなった。
「どうした?お腹痛いのか?」
普段俺が出勤してから頼ちゃんが登校するが、まだ6時半だ。トイレで頼ちゃんがすすり泣いているようだ。でも悲しくて泣いているような泣き方ではない。
おふくろから事前に聞いて用意していたビニール袋と頼ちゃんのパジャマの下をトイレのドアノブに引っ掛け、頼ちゃんに声を掛けた。
「頼ちゃん、必要な物はドアノブに掛けた。学校で習ったろ?落ち着いて着替えろ」
俺はトイレから離れて頼ちゃんのベッドのシーツを変えた。そしてお湯で洗って汚れを取った後、洗濯機を回した。
しばらくして頼ちゃんが泣き顔でトイレから出て来た。
「せいちゃん…ありがと。なんでわかったの?」
ここはちゃんと答えないと思春期の女の子を傷付けることになる。ちょっと緊張した。
「おふくろから事前に指導受けたからね。今のはおふくろからの指示だよ。それに俺には妹いるしね」
あくまでもおふくろを前面に出した。
妹がいる、というのも女の子にとっては安心材料だと思う。
「おばさんにありがとうって言わなきゃ…」
「あ、頼ちゃん、洗うときはお湯で洗え。水だと凝固するぞ」
「ぎょうこ?」
「固まるってこと。水だとダメでお湯がいいんだ」
「そうなの?」
「うん、そう教わった」
あえて血という単語を使わないようにした。これもおふくろの指導だ。
「せいちゃん…今日お弁当作れなかった…。ごめんなさい」
半べそで頼ちゃんが言う。
頭をぽんぽんとして「たまには外食もいいさ」と言った。(正直ちょっと嬉しい)
俺はまだ若手なのでいつも早めに出社する。だから7時に家を出るが、会社から保健室の先生へ電話して、頼ちゃんへのフォローをお願いしておいた。
女の子を男が育てるのは本当に難しい。
これはおふくろから散々言われてた。
その日は根回ししまくって定時退社した。
早く帰ると頼ちゃんが嬉しそうにし、一緒に晩御飯を食べた。
「平日にせいちゃんと一緒にご飯食べるのはなかなか無いね。嬉しい」
とにこにこしていた。
「頼ちゃん…毎日1人で晩御飯食べさせてごめんな」
「お兄ちゃんの時もそうだったから平気」
「アイツがいなくて…寂しいか?」
「…せいちゃんがいるから大丈夫…」
「…寂しかったら泣いていいんだぞ?」
「…」
じっと俯いてた。
俺は立ち上がると頼ちゃんの頭をぎゅうっとし、ぽんぽんとした。
「せいちゃん、やめてよ!」
「だめ」
「せいちゃん…やめてよ、せいちゃん…」
だんだん泣き声になり、頼ちゃんが泣き出した。
初めて頼ちゃんはちゃんと泣いた。
普段気が強いが、今日初めて生理になって弱気になったから、余計ちゃんと泣けたんだと思う。
「せいちゃんの意地悪…」
とその後ふて腐れてたが、ちゃんと泣けて良かったと俺は思った。




