幕間 Ⅱ
幕間 Ⅱ
嫌いじゃない。むしろ、好きだ。あたしはあの子が好き。大好き。でも、邪魔だった。すごく邪魔だった。だからずっと、水槽の中に入っていてもらうことにした。一緒に川で泳いだりなんか、できないと思ったから。そんなことしたら、あの子がどんなに素敵かって、ばれちゃうから。あの子がどんなにきれいに泳ぐのか、ばれちゃうから。
水槽なら大丈夫。外から見ているだけなら、あの子がきれいに泳ぐことは分かっちゃうかもしれないけど、そのきれいさが全部、ばれちゃうことは絶対にない。それに水槽にはあの子しかいないから、あの子が潮のおしゃべりを聞いた時、どんなに可愛く笑うのか、あの子がエイのジャンプを見た時、どんなふうに目を輝かせるのか、川と話している時のあの子がどんなに神秘的で、気高くて、あたしでもまいっちゃうくらいカッコいいのか、ばれちゃうことは絶対にない。
水槽に入れておけば、あの子は独り、ぶーんというポンプの音を聞きながら、段々ふやけていくだろう。最後には溶けてしまうだろう。
ナイスアイデア!
それであたしは水槽の持ち主がいない隙に、あの子を説得しようとした。みんなそれぞれ持ち場がある。人魚の持ち場は水の中。あなたの持ち場はこの水槽。
あの子は意外と簡単に納得してくれた。
自分でもその方が似合っていると思っていたのかもしれない。
説得は成功した!
あたしは喜んだ。背を向けて、ウキウキしながら地下室の階段を駆け上がった。ドアを開けて飛び出した。昼の光が痛いくらいまぶしかった。ちょっとひるんで、でもあたしはスキップするみたいに駆け出した。駆け出さずにはいられなかった。駆け出して、バン、とおもいっきり顔をぶつけた。鼻が潰れた気がした。片手で鼻を抑えて、もう片方の手を前へ伸ばした。触る。見えない壁があった。どこまでもどこまでも続く透明の壁があった。
ああ、やっぱり、そうなんだよね。
ああ、やっぱり、あたしも、水槽の中にいる。
ⓒ 2016 髙木解緒




