5話:引き込み
長くなった...今度分割して整理するなどしてみます。
放課後…俺は晴天の空のもと、屋上に呼び出されていた。
屋上についた時には青井はすでにいた。
「…やっぱりお前か」
屋上で待ち受けていたのは、黒いカーテンのような長髪を風に靡かせる女性だった。彼女は俺の声に反応してこちらを振り向き、ニコッと笑った。
「初対面の人に失礼ね」
「勝手に俺のメアドを盗み取っているやつに言われたくねーよ」
金網から外を眺めていた青井はこちらに振り向き、歩み寄ってきた。
昨夜のメールはやはり青井だった。なにか根拠があったわけではないが、なんとなくそんな気がしていた。おそらく昨日のあの場面を見る限り、青井が恋愛相談所の主であることはおおよそ間違いはない。となれば、恋愛相談所にまつわる噂、『必ず恋を成就させる』が正しいとするならば、目の前にいるこいつには何かしらの技能を備えていることになる。例えば、ずば抜けた情報収集力とか...
といった予想は立てていたが、もしかしたら別件(恋のなんちゃら)での呼び出しかもしれないので、一応確認は取る。
「んで、なんでここに俺を呼び出したんだ。早く生徒指導室に籠もって宿題しなきゃいけねーんだよ」
青井恵の顔色を伺う。俺はここにいるのが青井であるという仮定が正しかった場合の、その理由についても考えていた。昨日の青井と山田との会話では『このことは誰にも話すな』と言っていた。俺はそれを偶然に見つけ、耳にしてしまったわけだが…それが青井に何らかの形でバレたと考えるのが妥当だろう。そして俺に対して、誰にも言うなと脅す…そんな展開か。
「昨日のことよ」
ほらきた。正解だ。
「あなた、21時ぐらいに公園の茂みにいたわよね?」
「あぁ…いたよ。お前と山田が不穏な話をしていたのも耳にした」
俺は隠すまでもないと思い、素直に答える。
「チッ」
…舌打ちかよ。
「あれを見られたのは私の失態だわ…いいわ、じゃあ私が最後に山田に言ったのも聞いているわよね」
「このことを誰にも話すな…」
「そうよ。あなたにそのお願いしにきたの」
青井は背は小さめだが、なぜか俺が見下されている気分になる。高圧的な言いようのせいだろうか。だが俺はその威圧にも負けない。あんなに面白い貴重な情報を入手したのだ。芳賀や黄と一緒に盛り上がりたいという気持ちもあって、一言答えた。
「やだ」
「…理由を聞いていいかしら」
青井の眉がピクッと動いた。少し刺激したら手元から暗器でも飛び出してきそうな雰囲気だ。だが残念だったな。俺は面白いものが好きなんだ。あと人を弄るのが大好き。
「あんなに面白い場面に出くわしたんだぞ。他の人に話してうちの学校の『恋愛相談所の真実』ってやつを噂してーじゃねーかよ」
「それ、あなたにとってなんのメリットもないと思うけど」
「いいんだよ。友達と特ダネについて語り合うほどおもしれーものないぞ。それを俺から奪うとはとんだふてーやろうだ」
「…変わってるわね」
まぁ相手が普通の人であるなら、誰にも言わないってことでおとなしくしていたかもしれない。だが目の前はあの青井恵だ。学校で一番噂されやすい、女王みたいなやつ。こんなやつの弱みを握れるなんて楽しいじゃないか。しかも得た情報は恋愛相談所だけじゃない。
「高校生が百万もの大金をやりとりしている写真とか撮ってやりたかったぜ」
「…それも見てたのね」
見た時は10万円ぐらいかと思っていたが、少し多めに言っておいた。高校生が大金のやり取りをしているというのは、どんな事情があれ、良いイメージはつかないだろう。
ここまではよかった。ここまでは青井をいじり、困らせて、その動揺した顔がすごくよかったのだが、今思い返すとしなきゃよかったと後悔している。
「あなたがそういうなら、こっちもカードを切るわ」
青井の目つきが鋭くなり、周りの空気が変わった。組んでいた腕を崩し、眼力強く、こちらをにらみつける。
「は?」
「あなた、綾瀬紫音のこと好きよね?」
「!?」
突然の指摘に俺は喉をつまらせた。綾瀬のことが好き、という話は黄にしかしたことがない。しかし黄みたいな生真面目なやつが、知り合いでもないこいつに話すわけもない...
青井はこちらの一瞬の表情の変化を読み取り、畳み掛け始める。
「なんでわかった、って顔ね。でも愚問よ。私はあなたのいう『恋愛相談所』の主。当然人の視線や行動を見て、誰が誰を好きというのは観察していて自然にわかるわ。あなたに言われなくともね」
「…んなもん憶測だろ」
「でもさっきのあなたの動揺ほどの証拠はないと思うけど?」
「…」
くそ...なんだこいつ。勝手に何を推測してやがる...
と思うが、一方でそれが嘘とも言いがたかった。昨日も今日も、2人がイチャついている姿を見て、心がズキンと傷んだ。すごい熱愛...というわけではないので、失恋で落ち込むというほどには至らなかったが、昨日今日と心は穏やかではなかったのは事実なのだ。
「その綾瀬紫音が今じゃクラスで不人気だっった山田に取られて、不満じゃないかしら」
「…別に」
「そう?ちなみにあの二人、キスまで済ませたって」
「!?」
は!?キ、キス!?俺たちの学園のアイドルの綾瀬さんが???そそそそそんなことないだろ、いや絶対ない。そもそも前と付き合っていた彼氏とさえも恥かしさのあまりに唇を渡さなかったって噂だったんだぞ。いや、だからこれはあれだ、青井の嘘だ。
「あ、これあげる」
「あ!?」
青井はピッと一枚の写真を俺の足元に飛ばした。俺はそれを広い上げて見てみると、信じられないものが写っていた。
「な、ななななななな、なんだよこれ!?!?」
「エロいでしょ」
「ふっざけんな!」
それは、一枚の写真。俺たちの教室での、山田と綾瀬のキスシーンを収めたものだった。かなり高性能なカメラで撮影したものらしく、エロエロな雰囲気がよく伝わる。
「お前これストーカーだろ!綾瀬に言うぞ!」
「いいけど、私が撮ったっていう証拠ないわよ?綾瀬さんはむしろあなたが撮ったって疑うんじゃないかしら」
「くっ…」
うぜぇ、マジでうぜぇ。なんだこいつ俺をおちょくりやがって。
「ふふっ、ただキスしたって聞いただけでその反応なんだから、けっこう恋愛については奥手なのね」
「うるせーよ」
「彼女、いたことないんでしょ?」
「くっ…」
かなり痛いところを突かれた。彼女いない歴=年齢である俺にはそこは強く劣等感を持っている。いいじゃねーかよ。今年度はまだ始まったばかりだ。来年もある。大学もある。これから数年間に彼女作れば問題ない、大丈夫。
「大丈夫よ。奇特な人からすれば、今のあなたの顔は可愛く見えるから」
「うるせーぞ!!!」
青井はハハハと笑った。そんな笑い方するんだ...
「とにかくあなたが本当に綾瀬さんが好きなことがわかったわ。よかった。これが嘘の情報だったら私の立場も危うかったから」
「…くそ」
「ごめんごめん、いじりすぎたわ」
青井はこちらに近づいてきて、笑顔で俺の頭をなで始める。俺のほうが少し背が高いので、彼女が背伸びする形になってはいるが…彼女の顔は笑顔でも、目は笑っていなかった。
もともと俺が青井をいじってやろうと思って始まった話題だったが、いつの間にか形勢逆転していた。さすが恋愛相談所の主、恐るべし...
「やめろ」
手を振り払って少し遠ざかる。残念そうな顔を作っているが、目はまだ笑っていない。
青井はこちらから離れ、屋上の金網に近づいて外を眺めた。そしてうーんと背伸びをして、口を開く。
「さて、これで状況は五分五分。私はあなたが持っている情報を握りつぶしたい。そしてあなたの願いは綾瀬さんが好き。等価交換できそうじゃない」
「…どういうことだ」
「あなたは私のことを誰にも言わない。私はあなたと綾瀬さんをくっつける。こういう条件でどうかしら?」
なるほど、恋愛相談所の主らしい提案だ。しかし...
「…お前が山田と綾瀬をくっつけてるじゃねーかよ。もう綾瀬は彼氏持ちだ」
「別れさせればいいじゃない」
「な…」
こっちを振り向いてそういった青井の表情は、今日一番の輝きを放っていた。
今日このときまで恋人がいたことがないから、恋愛の駆け引きなんてルールなんてよくわかっていない。が、人の恋愛に首を突っ込んで、突き合わせたり、別れさせたりなど、自由自在に操る存在があっていいのか。
「ムカつくな」
俺は悪態をつき、青井を睨みつける。
「何が?」
「恋愛をぐちぐち弄り回しているお前がだよ」
「そうかしら?私はお客様からのご依頼に答えて、その対価をもらっているだけよ」
「それに振り回されている相手はどうなるんだよ」
「相手…?あぁ、ご依頼主の想い人のことね。私は対象者と言っているけど、まぁいいんじゃない?あなた一昨日、山田くんの告白も見てたなら、そのときの綾瀬さんの反応も知ってるわよね?」
「…それも知ってるのかよ」
俺が告白の現場にいることもバレていた。
彼女の言う通り、あのときの綾瀬は心の底から山田を求めていた。山田といるときの彼女は、今までに見たことがない明るさがあり、幸せそうだった。それがたとえ、作られたものだとしても...
「お前、人の恋愛に首突っ込んでじゃねーぞ」
「純情ね〜。さすが童貞。そんなんだから彼女できないのよ」
「…」
童貞だとかなんとかいちいちうるさい…
「じゃあこうしましょう。私の仕事を手伝ってみない?」
「…は?」
「私の仕事はれっきとした仕事よ。あなたがバイトで時給1000円で雇われているところを、時給1200円で雇ってあげるわ」
「…お前…」
「あなたが両親を亡くした苦学生というのも知っているわ。駅前の喫茶店でバイトしているのも、わずかな遺産をやりくりしているのも、妹さんと一緒に一生懸命生きているっていうのも」
どんだけの情報収集力だよ。もはやクラス全員に対してストーカーしてるんじゃねーのか。一日一善みたいに一日一人。しょーもない趣味だな。
「あなたが私の仕事を手伝えば、私という存在も理解できるかもしれない。そのときはさっき行ったとあなたの願う人とあなたをくっつけてあげる。理解できなかったとしても、その間のバイト代はあなたにとって助けになるはずよ。違う?」
確かにお金はほしい。マジでほしい。妹の学費は十分に稼ぎきったつもりではあるが、今度は自分が大学に行くための学費を稼がなきゃいけない。今の学力では正直国立が危ういので、私立が濃厚なんじゃないかと思っているので、より一層稼がなきゃいけない。
「まぁとはいっても素人と一緒に仕事するのも私としてはつらいから、できれば5回までってお願いしたいところね。まぁだいたい時給換算したら数十万円は手元に残るんじゃないかしら」
魅力的な提案だった。っていうか高校生がそんなに稼いでいいのか。そしてこいつはどんな稼ぎ方をしているんだ。依頼主はどこからお金を出しているんだ。いろいろと疑問が湧いてきたが、それは一旦置いておくとして、俺はこの提案を受ける受けないでどちらが自分にメリットがあるのかを計算した。そして...
「…いいだろう」
受けることによって金銭的メリット、知的好奇心、さらには依頼も1回は受けてくれるらしい。一方受けないことで得られるんは、この高圧的な女を闇に葬るという、S的な満足しか得られない。言わない代わりに直接金銭的メリットを得ることも考えたが、そんな恐喝なんてことをやってしまったら、自分の別の非が生まれてしまうため、あまり実行したくない。となるとやはり受け入れるほうがいいだろう。というか、受けないことによるメリットがしょぼすぎる。
「ちゃんと引き際わかってるわね。もしこれで聞き入れてくれなかったらあなたの大切な妹さんを、どうしようもないクズニートと両想いにさせえところだったわ」
…受けといてよかった。
よくよく考えてみればこいつには俺には知られていない武器がいろいろとあるわけだ。まともにやりやって勝てるはずがない。俺は完全に、言いくるめられてしまった。
今思えば、青井に俺が綾瀬が好きということを指摘されてから流れが変わった。
っていうか、単純に俺が黙っておけばよかったんじゃないか?
よくわからないうちに、あいつの仕事を手伝うことも追加されている。
「…なんでこうなったんだ」
ほんと、わけわからない。




