4話:呼び出し
「あ、お帰りなさいお兄さん」
家に帰るとポニーテールを揺らす妹が出迎えてくれた。
両親を共に亡くしている俺は、妹と2人で団地の外れにあるアパートの一室で2人暮らししている。
ちなみに妹は受験を控えている中学3年生だ。苦学生であるから当然狙う先は公立ではあるのだが、俺と違い成績優秀な生徒会長様でもあったので、県内1位の公立高校を目指しているらしい。
「お兄さん、今日もお疲れ様です」
昭和時代の妻のように、俺の荷物を持ってくれようとしてくれている。俺はいいよとそれを振り払った。
当然狭いアパートの一室なので自分の部屋なんてものはなく、リビングと寝室の2つがあるだけだ。俺は荷物を自分の机の上に置いて、すぐにリビングの丸テーブルに座った。
「今日はクリームシチューです。温まるまで少しかかりますから、先にシャワーでもどうですか」
準備をしていた妹はキッチンのコンロに火を灯し、作っていたシチューを温め始める。
「いや、いいよ。本でも読んでる」
俺はそう言うと、カバンの中から本を取り出す。
「お兄さん、そうやって先のことばかりお勉強されるのはいいですけど、ちゃんと学校の宿題もやってくださいね。今日も夕方に先生からお電話来ましたよ」
「なんで先生がお前に電話してるんだよ…」
最近俺が宿題忘れが激しいと、先生は家に直接電話をかけてくる。一応先生も俺たちが両親を亡くしているということは知っているはずだが、執拗な頻度で電話をかけてくる。
「今日なんて、一度兄さんのことで家庭訪問していいいですか、って聞かれましたよ」
妹が母親代わりかのように対応してくれているが、俺の予想では...
「先生が単にお前に会いたいだけなんじゃないか?」
ということだ。うちの先生、ロリコン疑惑あり。
「そんなことないですよ。きっと先生は本当にお兄さんのことを心配しているに違いないですよ」
絶対嘘だ、あのロリコンにそんなことはありえない。この前だって中学生が高校見学に来たとき、女子中学生を自然と目で追っていたじゃねーか。まぁうちの妹はそこらの女性よりもかわいいとは思っている。俺もかわいいと思っているぐらいだからな。
「はい、できましたよ」
「わりぃ」
妹はシチューの入ったお皿を並べる。俺は本を閉じて手を合わせた。
『いただきます』
我が家の勉強タイムである。
妹は英語の長文問題をひたすら説いている。たぶん俺より英語できる。
一方で兄貴はノートに、今日考えたことをひたすら書いていた。
ブルルル
シャワーからできてちょうど、あまり聞こえ慣れない携帯のバイブ音が聞こえた。見てみると、メールが一通着信。このご時世、多くの高校生はメールなんてものは使わず、SNSでやり取りをするものだ。俺も例外なく。そのせいで、メールの着信音というのを久々に聞いた。メールを開いてみると、
「明日の昼休み、屋上に集合」
と一言。しかし誰だこのメールアドレスは。俺はSNSのアカウント名を他の人に教えたことはあるが、メールアドレスを誰かに教えたことはない。メールでのやり取りは今までしたことないので、今ここに出ているメアドについても見覚えはない。
やっぱり誰かにメアド教えたかなぁと考えていると、妹が横からそのメールを覗き見していた。
「…お兄さん、これ、なんですか」
「え、い、いや...」
「…お兄さんってモテるんですね」
「…は?」
「いえ、なんでもありません。いいえ、お兄さんはむしろそうあるべきなのでしょう。むしろ今までいなかったことがおかしかったというか…」
「待て待て何を勘違いしている」
「え、これって告白なんじゃないですか?」
「違うって」
「そ、そうですか…いえ、よかったです。いいえ、よくはないけど、よかったです」
「は?」
「なんでもありません!私もシャワー浴びてきます!」




