表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1話:告白を垣間見た

「私も...あなたと付き合いたい!」


この学園一番のアイドル、綾瀬紫音の告白。

逢魔時の美しい教室では、2人の男女が逢瀬をしていた。

夕暮れのことを「逢魔時」とか「王莽時」と表現するらしい。

夜になると妖怪や魔物と出会いそうになるから、「逢魔時」。

前漢を滅ぼすという中国の大事件を引き起こした、王莽になぞらえて、大災を感じさせる時間だからと、「王莽時」。

今思えばあの瞬間は、まさにこれらの言葉がふさわしい。


俺、赤井達也の青春はあのときをきっかけに大きく変わったのだ。


...そういえば言うのを忘れていたが、告白されたのは俺ではない。

クラスで一番目立たない、山田大貴だ。

俺はその綾瀬と山田の様子を、教室の窓から覗いていた。



=====《少し前》=====


「あ〜〜やっと終わった〜〜」


俺、赤井達也は生徒指導室から解放された。俺の性格上、毎日出される宿題を全てやってきたことはなく、そのことで先生によく怒られていた。先生もこいつがやってくるはずがないと観念したらしく、俺にその日までの宿題を、18時まで生徒指導室でやるようにと指示するようになった。


今日もそういう日だ。


「あ、そういや問題集教室に置いてきたままじゃん」


ふと忘れ物を思い出した俺は、自分の教室へと向かう。

通る教室・廊下には誰もいなく、校庭にも帰り支度している生徒と先生が数人いるだけだった。

少し物寂しい、嵐の前の静けさ。


「ん?」


教室に入ろうと扉に手をかけると、その窓から2人の人影が見えた。男と、女だ。夕暮れの光がきれいに教室に差し込んでいて、ムーディーな雰囲気が作り出されている。


「夕日が差し込む教室に男女...リア充臭半端ねぇ」


男女は向かい合っていた。お互いに手を握っているわけでもないし、肩を並べているわけでもない。

イチャイチャしているというよりこれは...


「告白、か...でもなんか釣り合わねーな」


男性の方は山田大貴。脂肪をたっぷり蓄えた感じの大柄な体格で、喋り方が少しボソボソとしているというのは覚えている。クラスで少し陰気な感じで、友達という友達はいない。勉学もスポーツもあまり目立たないし、注目されるには特徴がない。


「あれ、もう片方って...綾瀬!?!?!?」

綾瀬紫音。学園一のアイドルとして君臨している女神様。背は少し低めで、茶髪のショートボブ。ほんわりとしたオーラを持っていて、話し方も人を癒やすようにゆっくりとしゃべる。背が低いため、他の人と話すときは自然と上目遣いとなり、そのくっきりとした瞳で話しかけられた男子はドキッとしてしまう。俺も例外ではない...というより、好きだった。マジで好き。


悔しみを抑えつけながら観察を続けると、山田がいつもと違う雰囲気であることに気づいた。

ボサボサした頭とヨレヨレしたワイシャツをきている彼だったが、今日だけは少し様子が違う。髪はワックスできっちり整えて少し立たせているし、制服もアイロン掛けたてじゃないのかというぐらいにビシッとしていた。あと少し、痩せている気がする。


「俺と...付き合ってほしい」


急に山田の声が聞こえてきた。殺してやりたいという感情が芽生えるが、ぐっとこらえ、扉の陰に隠れながら、聞き耳を立てる。


「まだ3回しかデートしてないのに、急でごめん。でも君と一緒いたとき、本当に楽しくて、これからも一緒にいたいと思ったら...どうしても伝えたくなったんだ」


『おいこら3回もデートしてんのかよ、抜け駆けだぞ...』

重くしっかりとした声で、想いを伝えようとしている。そんな男気とは裏腹にただただ嫉妬しかできない赤井は、ぐぬぬとうなる。


「ううん、全然急じゃない。むしろ、もっと早く言ってほしかった。私は...私は、ずっと我慢してたんだから」


『!?!?!?!?』

いやまて落ち着け。どういうことだ。どんな男にもなびかないと言われていた麗しの綾瀬たんがデレを見せている。自分も当事者なんじゃないかと思うぐらいに心臓がドキドキしてしまい、顔が赤くなってしまう。しかし俺は事の顛末を見届けなければならないという謎な義務感に追われ、窓から少し、中を覗く。


「私も...あなたと付き合いたい!」


自分のためにためた想いをぶつけるかのように、綾瀬は叫んだ。


俺は長年生きてきて(といっても15年だが)、人の真剣な想いを耳にしたのは初めてだった。

時が止まったかのようだった。息をするのも忘れてしまい、2人の一挙一動に目を皿のようにして見張った。

綾瀬は眼を涙いっぱいにして、胸を上下させながら呼吸を整えていた。

山田は顔を真っ赤にしていた。


1分だろうか、5分だろうか、10分だろうか。

それぐらい経った頃、両者の真剣な眼差しは、互いを引き合い、確認しあっていた。

徐々に歩み寄り、手を差し伸べ、気恥ずかしそうにしながら、手をつないだ。

手を引き合いながら、肩を並べ、互いに、微笑み合っていた。


「く...爆発しろ」

認めたくはないが容姿は釣り合わなくとも、これから2人はうまくやっていけるような気がしてしまった。

初めて見る告白シーンが、まさか自分の好きな人が他の誰かに取られる瞬間だとか...

だがまぁ、ここは大人の対応だ・自分の恋心は諦めて、応援してやろう...


パタッ


乾いた上履きが廊下を叩いた音が、教室のもう一つの扉の方から聞こえた。


『誰かいるのか…?』


そう思って目をやったが、誰もいなかった。


『気のせいか...』

まぁこの教室の空気を誰も破ろうとは思えないだろう。俺以外に忘れ物を取りに来たやつが遠慮して去っていったに違いない。


「帰ろっか」


「うん」


新生カップルは手をつないだままそれぞれカバンを取り、教室を去ろうとした。

2人が向かう先が俺の方の出口だったため、俺はすぐに近くの階段を駆け上がった。


「でも山田くん、雰囲気変わったよね!」


「ははは、そうかな?紫音ちゃんに似合う男にならないとなって思っただけだよ」


そんなイチャラブな会話をしながら2人は俺に気づかず、下に降りっていった。

俺はそんな2人を、上の階から見送った。


「紫音ちゃん...か。末永く爆発しやがれ」


俺は祝いと呪いの言葉を2人に投げかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ