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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第3章
32/33

Hit.29 始まりの銃声 ◆

2ヶ月以上お待たせしてしまいました。

短めで心苦しいですが、なるべく早く続きも更新できるよう頑張ります。


ゲーム開始のアナウンスと共に、両チーム合わせて100人に迫るサバゲーマーたちが我先にとフィールド中央へ駆け出していく。

レイジたちサバゲー部の5人も遅れてなるものかと、スタートダッシュを決める人の波に合わせて突き進む。


レイジたちが事前に示し合わせたルートは3つ。

アケミとサクラが進むフィールド手前側の塹壕ルート、カレンが目指す中央の狙撃ポイント、そしてレイジとこころはフィールド奥側の森ルートから相手陣地への攻勢を仕掛けていく。


「レイジ君、サクラさんが言ってた森の中の家型バリケードが見えたよ」

「了解。まずはそこで敵の出鼻を挫こう!」


東西に長いAフィールド。丘上のスタート地点から見て北側、夏でも地表まで日の届かない鬱蒼とした木々の生い茂る林の中へと飛び込んだ2人は、アケミたち他のメンバーと打ち合わせていたバリケードに滑り込む。


フィールド中央のラインから見て森ルートの東西ほぼ同じ距離に位置するこの2つのバリケードは、文字通りAフィールドにおける絶対防衛線の1つといえる。

相手側のバリケードを占拠することができたならば、復活してきた相手の進軍ルートからどのバリケードに敵がいるのかまで。相手チームの動向が手に取るように分かる絶好のポジションと言っても過言ではない。


ゲーム開始の合図の瞬間には何人もの仲間と共に走り出した2人だったが、殆どは途中に生い茂るブッシュや迷路のように掘り込まれた塹壕の中へと消えていく。森ルートのバリケードまで一緒だったのは、ブリーフィング前に言葉を交わしたチノさんだけという状況だった。


『こちらサクラ、所定位置に到着。アケミさんはもう撃ち合い始めてる! どうぞ!』

『こちらカレン、所定位置への到着を確認した。中央挟んで北側の櫓の2階に1人、中央の塹壕内部に2人、南の櫓にも人影。どうぞ』


バリケードに空けられた小窓から銃の先端だけを出して前方を警戒しながら、無線機から流れてくる声にレイジは耳を傾ける。

こころとチノさんはバリケードの外、積み上げられた倒木と、太い木の根元にその身を隠しながら前方のバリケードに注意を払っていた。



挿絵(By みてみん)


「ッ! 前方のバリケードに敵影!」


小窓から銃口だけを出した立射の姿勢のまま光学機器が映した敵影の報告もそこそこに、レイジはトリガーを引き絞る。


ガツン、ガツンという衝撃がレイジの肩を震わせた。東京マルイ製の次世代電動ガンが持つ特徴であるリコイルショックだ。

実銃の反動を模したその機構に思わず口角が上がるも、見つめる先は林の奥のバリケード。その照準は一瞬たりとも敵影から離れない。


HK417アーリーバリアントが放ったBB弾は一直線に突き進み、林の奥のバリケードに空いた小窓、そこから今まさに顔を覗かせた敵の顔面を容赦なく撃ち抜いた。

ブースター越しに他の敵影が見えないことを確認して、レイジは止めていた息をほぅと吐き出す。

たまたま相手よりも早く狙いが付けられたが、バリケードへの到達時間がほんの少しでも遅ければ撃ち抜かれていたのは敵ではなくレイジの顔面だっただろう。


「……ワン、ダウン」


短く発した言葉は伏せる2人への報告か、それとも自身の戦果を確かめるためか。

新調した愛銃での初ゲーム、それも開始早々にヒットを取った相棒を労うように一撫ですると、ハンドガードを握り直して奥側のバリケードへと再び銃口を向けた。


「ここで向こう側のバリケードも抑えたいところですけど、チノさんはどう思いますか? 俺もこころさんもこのフィールドは今日が初めてで、どれくらいの増援が来るか予想できないんです」

「3人……かぁ。ちょっと心許ない人数だね」


フルフェイスマスクに隠れた双眸で奥側のバリケードを見据えながら、チノさんは返事を返す。

もしかしたら制圧できるかも……。と淡い期待を抱いていたレイジは、チノさんの言葉に悔しさを露わにして視線の先のバリケードを睨め付けた。


「相手チーム側の復活地点が、この林をまっすぐ行った奥なのですよ。モチロン落とせるに越したことは無いのですが、落とせたとしても一瞬で取り返されそう。かな?」


復活無しのフラッグ戦なら迷わず落としに行くけどね。とチノさんは付け加え、仲間への現状報告のためか自身が装備している無線機に向けて一言二言呟いた。


次に言葉を発したのは、積み上げられた倒木に身を隠したこころだ。

膝立ちの姿勢でM4パトリオットを構えたまま、先ほどカレンからの報告にあった櫓を指し示す。


「レイジ君、そこからカレン先輩が言ってた櫓2階の人を狙えないかな?」

「櫓の小窓の角度が絶妙で、ここからじゃ難しいかな。無警戒に顔を出してくれればさっきみたいに撃ち抜けると思うけど……っとぉ!?」


小窓から銃を突き出し、ブースター越しに櫓を見ていたレイジは、遠くに聞こえた銃声に反応してレイジは慌てて銃を引っ込める。

先ほどの意趣返しのように小窓を射抜いたBB弾が、バリケードの内側で弾けてバチバチと音を立てる。


隠れたバリケードの別の出入り口から外の様子を見ようとするも、再び銃声。堪らず出入り口の裏側へと飛び退くと、一瞬遅れてレイジが居た場所で複数の土煙が舞い上がった。


「敵、正面。森のバリケードに2人……ううん。3人目が今入った。チノさんの言う通り、やっぱり戻ってくるのが早い」


木の根元にじっと伏せていたこころはまだ見つかってはいないようで、銃口をバリケードに向けながら冷静に敵の数を伝えてくる。


「多分、裏側にまだいる。少なくとも5人くらいだと見積もっておいた方がいいかも」


フルオートで撃てるとはいえ、人数ではこちらが不利。全員倒し切る前に反撃を食らう可能性を考えて、こころは眉を顰めながら引き金にかけていた人差し指の力を僅かに抜いた。


襲いくる銃撃の合間を縫って散発的に森の奥のバリケードに向けてBB弾を撃ち返しながらレイジは自分が囮になることを提案するも、無駄死ににしかならないとこころに却下される。


「相手が1人ならそれでもいいけど、数で負けてる以上それは悪手だと思う。増援か、どこからか援護射撃でもあれば……あっ」


何事かを思い付いたのか、こころは身動ぎしながら胸元を探る。手に取ったのは、ブリーフィング前に手渡された無線機。

無線機のマイク部分に口元を寄せながら、こころは祈るように通話のためのスイッチを押し込んだ。


『……こちらはこころ。現在森の中のバリケード付近に潜伏中。レイジ君が見つかって今撃たれてます。中央ライン挟んで反対側のバリケードに敵影、援護射撃を求む』


スイッチをから指を離し、しばらく待つ。動きや声で見つかってしまうのではないかという恐怖心から、こころの心臓は早鐘を打ったように鳴り響いている。


『こちらサクラ! 今アケミさんと一緒に「オラオラオラァ! もっと撃ち込めぇ!」塹壕挟んで撃ち合い中! ちょっと手が回らないかな、ごめんね!』

『……こちらカレン。丘上からは木が邪魔で撃ち込めない』


次々と飛び込んで来る戦況報告だが、ゲーム開始直後ということもあってか誰もが目の前の戦場に張り付いている。こころが求めてる援護などは到底期待できなかった。


肩を落としたこころを見かねて、匍匐前進で彼女の元へとやってきたチノさんがポンと背中を叩く。


「落ち込んだ顔してると、美人さんが台無しですよ。さっき連絡があって、私の友達が復活した味方を引き連れてこっちに来てくれるって。だから、もう少しだけ頑張ろう」


こころだけに見えるようにフルフェイスゴーグル越しににこりと笑うと、チノさんはコルセットリグに付けたマガジンポーチから予備マガジンを取り出してこころの手に押し付ける。


「せっかくのフルオート戦、楽しまないと損ですよ。お姉さんが1マガジン奢ってあげるから、ヒットされるまでに撃ち切っちゃおう!」


チノさんの言葉の意味を瞬時に理解したこころは、思い描いた戦術を伝えるために再び無線機に手を伸ばした。



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