Hit.2 サバゲーへの誘い ◆
金属を叩くようなリズミカルな音が、射撃場から響いてくる。
その音は時々早くなったり遅くなったり、時にはしなくなったり。不規則ながらも一定のリズムを刻んでいた。
作業的な無機質さは感じられず、むしろ音を奏でるのを楽しむような、聞く者にそんな印象を与える、そんなリズムだった。
楽しい。レイジはそう感じていた。
構えて、狙って、撃つ。言葉にしてしまえばたったそれだけのことなのに、どうしてこんなにも胸が沸き立つのだろう。
オモチャとはいえ、形や大きさ、動作や反動までも実物を精巧に模した銃。自身の手で狙いを定めて命中させるという未知の体験に、レイジは興奮を抑えきれなかった。
「楽しいでしょ、銃を撃つの。色んな銃を持った人間が何十人も集まって、敵と味方のチームに分かれて撃ち合う。それがサバイバルゲーム、サバゲーよ」
「銃を撃つ楽しさは、すごく良く分かりました。でも、人を撃ったり、自分が撃たれたりするのは、ちょっと怖そうです」
「相手を撃っていいのは、自分が撃たれる覚悟を持っている者だけよ。少なくとも、私はそう思ってる。それに、実際ゲーム中は緊張とアドレナリンがどばどば出てるお陰で大して痛くないのよ?撃たれるのも、サバゲーの楽しみの1つ!」
そう言いながら、サクラはレイジから受け取ったP226をカゴに戻すと、今度は拳銃ではない、大きな銃を取り出した。
よく見ると銃の両側に小さく白い文字でタ、3、レ、ア、と書かれている。時計で言えば、それぞれ2時、4時、8時、10時くらいの位置だろうか。
「我ら日本国民の誉れ、自衛隊の正式採用ライフル。89式小銃よ。これも東京マルイ製だね。色んなライフルがあるんだけど、この子が私の一番好きな銃だから、レイジくんにも一度は使ってみて欲しい」
サクラは少し照れくさそうにはにかむと、レイジに89式小銃と呼ばれたライフルをぐいぐいと押し付けてくる。
両手で受け取ると、先に撃った2種類の拳銃とは比べ物にならないくらい重たい。体感としては、最初に持ったデザートイーグルの3倍くらいはありそうだった。
「狙い方は、基本的にはハンドガンと一緒よ。リアサイトからフロントサイトが一直線になるように覗いて、的に合わせる。持ち方が拳銃とはだいぶ違うから、教えてあげるね」
そういうと、サクラはカゴから別の銃を取り出し、サッと構えた。
その所作はほとんど無駄な動きがなく、持ち方に迷いは見当たらない。
「まず、利き手はハンドガンと同じようにグリップを握る。反対の手は銃の前方、ハンドガードっていう細長い部分を下から支えるように持つの。銃の後方はストックって言うんだけど、このストックの1番後ろを利き手の肩に押し付けるようにして、銃全体が動かないように固定してね。最後にストックの上にほっぺたを載せてサイトで狙えば、ばっちりサマになるよ!」
教えてもらった通りに、銃を構えてみる。
心なしか、構えてみると何もせずにただ持っていた時に比べて、重さが気にならなくなったような気がした。
「構え方が分かったら、次は撃つ準備ね。ハンドガンと同じようにマガジンを差し込むのは一緒なんだけど、ライフルはどうやって撃つか選ぶレバーがあるの。銃の右側に金属製の矢印があって、『ア』を指してるでしょ?セレクターレバーって言うんだけど、それをカチカチっと反時計回りに回して、『タ』まで動かしてみて」
ちなみに、とサクラはそれぞれの文字の意味を説明してくれた。
アは安全、レは連射、3は一度に3連射、タは単発。をそれぞれ意味しているらしい。また、アタレ (当たれ)というゲン担ぎでもあるらしく、言葉遊びが好きな日本人らしいなぁとレイジが呟くと、サクラはよく分かってるねぇ!と嬉しそうにレイジの背中をバシバシと叩いてきた。
「ゴメンゴメン。その子の良さを分かってもらえて嬉しくて、つい。それじゃあ気を取り直して、撃ってみようか!その銃はさっきの子たちとは違ってモーターで動く電動ガンだから、リコイルも無くて素直だよ。5メートルの的は当てられるだろうから、順に遠くを狙っていってもいいかもね」
レイジは頷き、まずは先程も狙っていた5メートルの的に照準を合わせる。
拳銃とはまた違うずっしりとした重みに戸惑いながらも、その口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
タンッ! という軽い音と共に射出されたBB弾が、狙い違わず金属の的を叩く。
カーンという弾けるような音が耳に小気味良い。
続けざまに10メートル、20メートルと的を変えては、一心不乱に撃ち続けていく。
拳銃のように反動があるわけではないが、実銃さながらに両手で持って撃つという行為そのものに、レイジはまたも心を魅了されていた。
「本当は遠くのものを狙う時はスコープを付けたりするんだけど、今日は体験だしね。最後に、フルオートで好きなだけ撃ってもらって、終わりにしよっか」
サクラは装填されていた弾を全て撃ち切ったマガジンを抜き、新しいマガジンを差し込む。
ついでにセレクターレバーを操作して、『レ』に動かした。
ヒュカカカカカカカカッ!
引き金を引くと、まるで数珠繋ぎになったように弾が飛び出し、的を叩きつける。
「うん、気持ちいい音! それがフルオート。実際のサバイバルゲームでは、セミオートとフルオートをゲーム毎に切り替えて戦うの。そのマガジンに残ってる弾の分は、好きに撃っちゃっていいよ」
後ろから聞こえてくるサクラの声にレイジは分かりましたと返事を返し、再び目の前の的へと精神を集中した。
「おう、やってるな新入生!」
射撃場の入り口から、よく通る女性の声が聞こえてくる。
レイジは銃を撃つ手を止め、ブースの台に銃を置いて振り返った。
腰まで届きそうな茶髪をポニーテールでまとめ、大きく盛り上がった胸元に手うちわでぱたぱたと風を送り込みながら、身長170センチ程の女性が射撃場へと入ってきた。
「あ、アケミさんお疲れ様です! サバゲーに興味を持ってくれそうな子はいましたか?」
アケミと呼ばれた長身の女性の後ろからもう1人、サクラよりも小柄な女性が顔を覗かせる。
肩下まで伸ばしたセミロングの髪を不機嫌そうに揺らし、やれやれとでも言わんばかりに大きなため息を漏らした。
「……ダメダメ。仁王立ちするアケミさんのオーラにビビって誰も近づいて来ない。むしろ逃げられた。今日の収穫はサクラが強引に連れて来たその子だけ」
2人は倉庫からパイプ椅子を出してくると、サクラの横に腰掛ける。
「カレンちゃん、私はカレンちゃんのそのしかめっ面の方がよっぽど怖いよ……。そんな顔は、こうしてやるー!」
サクラはカレンと呼ばれた小柄な女性に覆いかぶさると、しかめっ面をほぐすように頬をムニムニし始めた。
カレンの方はもう慣れっこなのか、もみくちゃにされても微動だにしない。
ただ1人、レイジだけが完全に蚊帳の外だった。
「サクラ、今日はカレンで遊ぶのは控えめにしておけ。新入生が困ってる。さて、初めまして、新入生クン。アタシは芥子田アケミ。3年生で、一応このサバゲー部で副部長を務めてる。よろしくな」
「……伽羅雛カレン。2年生。お前をサバゲーという沼に引きずり込む者」
「南部レイジです。アケミ先輩、カレン先輩、よろしくお願いします。その沼について行くと急に深い所に引きずり込まれそうな気がするのでやめて下さい……」
それぞれ挨拶を交わし、2人とも先輩と呼ばれるのはこそばゆいとのことで、今後はさん付けで呼ぶこととなった。
「ぐぬぬ。レイジくんは私が陸自沼に落とすって決めてるのに……!」
「AKはいいぞ、レイジ! AKはいい!」
「ボルトアクションライフルの魅力を叩き込む……」
三者三様、無垢な新入生を前に言いたい放題であった。
そうして時に銃を撃ち、時に談笑をしてすっかり打ち解けたレイジは、サクラ達と連絡先を交換し、射撃場を後にした。
帰り道、銃を撃った手にはまだ痺れるような感覚が残っている。
何度も何かを確かめるように手を握ったり、時節小さく頷いたり。
「もし、サバゲーに興味を持ってくれたなら、次の週末に部のメンバーでゲームを予約してるから、レイジくんも参加してみない? 返事は金曜日までにしてくれればいいよ」
帰り際にサクラに誘われたゲームも、参加してみてもいいかもしれない。
返事は金曜日までにしてくれればいいと言っていたが、行くなら早めの方がいいだろう。
「明日また行って、返事をしようかな」
大学生活は、面白くなりそうだ……。そんな根拠の無い自信が、レイジの胸に宿り始めていた。