Hit.26 戦闘準備 ◆
季節外れのインフルエンザに感染しておりましたorz
「おはようございます。アケミさん、サクラさん、レイジくん!」
「おはようございます。アケミさん。サクラは寝坊しなかった?」
“青空ハッスル”へと到着した3人を、先に到着していたカレンとこころが手を振って出迎える。
こころは大興奮とばかりに瞳をキラキラさせながら、カレンはいつもより少しだけ口元を緩ませながら。到着したばかりのレイジたちを急き立てるように、早く早くと手招きしている。
フィールドオープンの時間からそう経ってはいないはずだが、2人とも既にBDUを着込み準備万端といった様子だった。
「おはよう、カレン。こころちゃん。サクラは寝坊はしなかったが、寝起きのあられもない姿をレイジに見られて悶絶してるよ」
「ちょぉ!? アケミさんそれは言わない約束ぅ」
「……自業自得」
「あの、2人とも早く受付行きましょう? その話を蒸し返すと俺も色々と立場がですね……」
恥ずかしがるサクラの頭をぐしゃぐしゃとかき回したアケミは豪快に笑う。レイジは自身の荷物が詰め込まれたバッグを車から取り出して背負い、カレンに向けて目線で火花を散らすサクラにため息を付きながらガンケースを手渡した。
レイジから手渡されたガンケースを握りしめたまま尚も唸り声を上げるサクラの頭を軽く撫でると、アケミも荷物を持ってセーフティエリアへと歩き出していく。
1人残されたサクラもカレンと荷物とを一瞬だけ見比べると、鼻を一つ鳴らして先を歩く2人を追い掛けていくのだった。
その場に残されたカレンとこころはあえて3人を追いかけず、どちらからともなく視線を交差させる。今の会話の意味を理解すべく、2人は黙ったまま見つめあう。
そしてほぼ同時に同じ結論に至ったのだろう。こころは眉をひそめ、カレンは苦虫を噛み潰したような表情でもってそれに応えた。
「あられもない、悶絶、レイジ君の立場。これらから導き出される結論は……むぅ」
「ん。アケミさんが一緒だからと油断した。こっちもうかうかしてられない」
「はいっ! 来月には例の装備を完成させますので……次回は私たちが反撃と参りましょう」
2人は既に、停戦協定を結んでいる。何を、と聞くのは野暮だろう。
心の奥底に反撃の炎を燻らせた少女たちは、決意新たに3人を追い掛けた。
駐車場から歩くことしばし、“青空ハッスル”のセーフティエリアへと足を踏み入れたレイジは、その余りの衝撃に思わず言葉を詰まらせた。
ただのサバゲーフィールドと一言で片付けるには余りにも広大で、かつ設備の整ったそのフィールドにレイジは目を奪われていた。
インターネットで仕入れた前情報によれば、フィールドの大きさは約4000坪……が建設中も含めて3フィールドあり、フィールドだけでも既にその面積は合計約12000坪。セーフティエリアや駐車場などを含めたフィールド総面積は更に広い。
よく大きさの比較として挙げられる東京ドームの面積が約15000坪だそうなので、東京ドーム1個分の面積に比肩すると言っても過言ではないだろう。
1つのフィールドでも100人程が一度にプレイすることが出来るため、それに伴いセーフティエリアの最大収容人数も200人を遥かに超える。
更に、更衣室やロッカー、水洗トイレが当たり前のように設置され、エアコン完備のVIPルームに東海地方では唯一のとあるミリタリーブランドの正規取扱店まであるという、文字通り桁外れの規模のフィールドなのである。
その大きさにレイジが言葉を失うのも無理のない話だった。
「おうレイジ。なーに立ち止まってんだ。早く受付の列に並ぼうぜ?」
「レイジ、ぼさっとしない」
「そうだよレイジくん。置いてっちゃうよー」
呆然とフィールドを見回すレイジの脇を次々と通り抜けていく先輩たち。その言葉に我に返ったレイジの背中を、最後尾を歩いていたこころがポンと押す。
「行こう、レイジ君! こんなフィールドでプレイできるなんて、私ドキドキしてきちゃった」
「うわっ、と。こころさん。手を握られると歩きにくいですって」
「ふあっ!? ご、ごめんレイジ君」
熱に浮かされたように頬を上気させたこころ。一瞬だけ握られた手は弾かれたように引っ込められて。照れ臭そうに視線を逸らしたまま、2人は先輩たちの元へと駆け出していった。
「それじゃあ、私とカレン先輩は向こうのテーブルで待ってますね」
「りょーかい。2人とも場所取りありがとな」
既に受付を済ませていたカレンとこころの2人とは一瞬別れ、アケミ、サクラ、レイジの3人は受付の列へと並ぶ。
この辺りの流れは、どこのフィールドも大体同じだ。予約した名前を確認して、お金を払う。レンタルするものがあれば受け取るのも、このタイミングだ。
アケミたちは手早く受付を済ませると。カレンたちが確保していたセーフティエリアのテーブルの1つに荷物を運び込んだ。
荷物を置いた3人は続けてフィールドに備え付けられた更衣室でBDUに着替えると、席に戻って荷物から各々の装備を取り出してテキパキと準備をし始める。自分の装備は自分で準備する、それが部のルールだ。
電動の銃にはバッテリーを接続し、ガスの銃には専用のガスを注入する。マガジンに弾を込めて専用のポーチに挿し、ベストを着込んで使用感を確認する。その作業をひとつひとつ終えるごとにゲームの始まりが近づいてきているようで、レイジの心は否応無く昂ぶるのだ。
「アケミさん、準備終わったので弾速測定に行ってきます」
「あいよ。アタシはちょっと別に準備したいものがあるから、ついでにAKも測定してきてもらえないか?」
「了解です。マガジンも借りて行きますね」
「あっ、レイジ君ちょっと待ってて。私も一緒に行くよ」
両肩に己の愛銃HK417アーリーバリアントとアケミのAK74MNを担いで歩き出そうとするレイジを呼び止めて、M4パトリオットのマガジンに弾を込めていたこころも立ち上がる。
机に置いてあったM4パトリオットのスリングを掴み上げると、ショルダーバッグかと見紛うばかりの軽やかな動きでスリングを肩にかけてレイジの後に続いた。
お揃いのハイランダー迷彩を身に纏ったレイジとこころは、フィールドに入ってすぐの所で行われている弾速測定の待機列の最後尾まで歩いてきた。
何度か遊んだことのあるUrban-FrontBaseと同じく、スタッフに促されるまま測定器に向けて2、3度発砲。規定値を超えていないことを確認してもらい、チェック済みのシールを銃に貼ってもらう。
最初の頃は銃のセーフティの外し方さえも分からず手間取ったこともあったが、今では慣れたものだ。
「お! ハイランダー迷彩なんて珍しいですね。もしかして、カップルさんですか?」
「かっぷる!? ち、違いますっ。レイジ君とはだ、大学の部活が一緒なだけで、カップルとかそいうのじゃないですっ」
あまり見かけないハイランダー迷彩の、しかも男女ペアとあってか、弾速測定を担当していたフィールドスタッフからカップルかと問いかけられ、こころが慌てて否定する。
「2人とも、4月から大学のサバゲー部に入部した初心者サバゲーマーなんです。このフィールドも今日が初めてなので、今日はよろしくお願いします」
「そうでしたか。それは失礼しました。僕はフィールドスタッフのヨヅキと言います。初めてご来場して下さったお客様には個別で記念撮影をしていますので、またお声をかけますね」
僕の他にもう1人カメラマンがいるので、もしかしたらそっちかもしれませんが。とヨヅキは苦笑する。
新装備をカッコよく撮影してもらえるなら大歓迎だと2人もヨヅキに笑顔を返して、弾速測定の場を後にした。
「アケミさん、AKの弾速測定終わりましたよ。ここに置いておきますね」
「おう、ありがとな。アタシの方はまだもう少し時間がかかるから、適当にヒマを潰しててくれ」
アケミたちの居るテーブルに戻ってきたレイジ
とこころだが、アケミとサクラは手に持った小さな機械と説明書を見比べて忙しそうにしていた。
手元の時計を見やるも、まだブリーフィングの時間には少しあるようだ。
どうしたものかと思案に暮れるレイジの肩を、カレンがつんと突く。
「顔見知りを見かけたから挨拶に行くけど、レイジも来る? 面白い人も多いから、行って損はさせない」
「ついでにカレン先輩が少し案内してくれるって。レイジ君も一緒にどうかな?」
軍服姿で背筋をピシリと伸ばしたカレンと、その後ろで探索したくてウズウズしているこころ。そんな2人に誘われて、レイジは再び立ち上がるのだった。
前話からかなりお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
リハビリも兼ねて、少し短めのお話で物足りないかと思いますが、どうかご容赦下さい。
来週こそは、来週こそは!





