Hit.22 その銃の名はーー ◆
遂に主人公の愛銃が決まりました。
レイジの銃は本当に迷いましたが、満足です。
その銃の名はーーーーHK417アーリーバリアント。
カテゴリーはアサルトライフルに属しながらも、1メートルに迫る全長と4.5キロもの重量を誇るトイガンの中でも最重量級の一丁だ。
こころが選んだM4パトリオットが2キロ程度であることからも、その重量が如何に桁外れなのかが窺い知れるだろう。
このHK417アーリーバリアントも東京マルイ製の次世代電動ガンにラインナップされる製品であり、射撃時の反動や弾切れの際に自動でトリガーが引けなくなる機能が付与されているなど、実銃の特徴が精巧に再現されている。
「俺は、この銃にします」
その手に銃を掻き抱きながら、レイジは決意を込めた瞳をアケミたちに向ける。
「選んだからには、ちゃんと使いこなせよ? 後から泣き言なんて言いやがったら承知しないからな」
「……ドイツの科学力は世界一ッ!」
重いだの長いだのと、野暮なことを言うような輩は誰もいない。皆がみな、レイジの選択を快く祝福するだけだ。
「よかったです。レイジさんの愛銃が決まって。私、途中で大丈夫かとハラハラしちゃいました」
「こころちゃんの言う通りだよ。急に落ち込みだすから、お姉さん心配してクサいセリフまで言っちゃったじゃん!」
人目も憚らず堂々とレイジを諭したことが今になって羞恥心が湧き出したようで、頭を抱えて蹲るサクラ。
だがしかし、切り替えが早いのもまたサクラである。蹲って呻くこと5秒。ガバッと起き上がって復活する。
「よし! とりまレイジくんの愛銃も決まったし、次はパーツ選びに行くよ!」
「……え?」
「え? じゃないよ。今のその子は女の子で言えばスッピン。女の子がお化粧をするように、その子にもレイジくんだけのカスタムをしてあげなきゃ」
さも当然のように言ってのけるサクラに引きずられ、レイジたちは再びパーツコーナーへとやってくる。
さぁ選ぼう! と鼻息を荒くするサクラに若干引きながら、レイジはアケミの横顔を盗み見た。
「アケミさん、いいんですか? 銃は部費から出るって言ってくれましたけど……」
「気にすんな新兵。その辺はアタシが上手にやっとくからさ。むしろ今買わないと次からは自腹だぜ?」
もの凄く悪い顔をしてアケミが笑う。どの辺を上手くやるのだろうか……。
レイジは敢えて聞かなかったことにした。世の中には、知らない方がいい世界もあるのだ。
「それじゃあお言葉に甘えます。オプションパーツなんてまだ先だと思ってたので、何かオススメがあれば教えて下さい」
「そういうのはサクラが詳しいんだがな……。まぁ、アタシだったら最低限フォアグリップと光学機器は載せるかな。アイアンサイトも悪くはないが、ドットサイトやホロサイト、スコープなんかも慣れると狙いやすいぞ」
アタシは弾をばら撒くのが好きで、実はあんまり狙ってないんだよ。とアケミは頭を掻きながら独りごちる。
名前を呼ばれたサクラは待ってましたとばかりにやって来て、両手にパーツを持ちながらレイジに迫った。
「近距離戦ならドットかホロサイト。中・遠距離でスナイピングがしたいならスコープがオススメだよ!私のオススメはねぇーー」
「……サクラ、押し付けは良くない。決めるのはあくまでレイジ。レイジもこのエセガンマニアには惑わされないように」
ぬるぬるとした動きで両手の指をいやらしく波打たせながらサクラが迫るも、その襟首を小さな手がむんずと掴んだ。
カレンは小柄な体躯からは考えられないような力と威圧感でサクラを引き寄せると、問答無用とばかりに引き摺っていく。
「カレンちゃん待って!? 私にはレイジくんをサバゲー沼から出られないようにするという使命がぁぁぁ……」
「Halt den Mund」
パーツコーナーの隅へと連行されていくサクラを苦笑交じりに眺めながら、アケミはレイジの頭をくしゃりと撫でた。
「サクラはサクラで、後輩ができて嬉しいんだ。よく暴走するのは好意の裏返しだと思ってやってくれ」
「サクラさんには本当に良くしてもらってますよ。銃の話や戦術の話、いろんなことを教えてもらってます」
「アタシにとってもレイジは可愛い後輩だからな?女ばっかりのサバゲー部に入ってくれて、本当に感謝してるんだぞ。ったく、何を言わせるんだか。ホラ、さっさと好きなパーツ選んでこい」
アタシのところに居たってパーツは選んでやらんぞ、とアケミはレイジを片手で追い払う。
それでも一応は自分のオススメを教えてくれるところが、アケミの面倒見の良さが現れていた。
なるべく色々なポジションをやりたいというレイジの欲張りな要望に応えるようにアケミが提案したのは、ホロサイトという倍率のない照準器に、ブースターと呼ばれる光学機器を組み合わせたものだった。
ブースターとは、いわば照準の付いていないスコープのようなものだ。
ドットサイトやホロサイトのような倍率のない等倍の照準器の手前に装着してブースター越しにサイトを覗き込むことで、まるで高倍率のスコープを使用しているかのように狙いを付けることができる。
スコープとの大きな違いは、一度付けると簡単には外せないスコープに対して、ボタンを押したりロックを外したりというワンアクションで倍率を元に戻すことができるのだ。
ポジションによって、前線に出て攻める時はホロサイトだけ。守備に回る時はブースターを併用してミドルスナイパーのように立ち回る。
HK417アーリーバリアントという銃を使いこなしたいレイジにとって、最も的確な助言といえるのかもしれない。
レイジは更に、ワンタッチでバイポッドに変形するフォアグリップを選択した。
重たい銃を支えるためのフォアグリップに、銃を台座や地面に固定して狙いやすくするためのバイポッドの機能を融合させたものだ。
初めて銃を選ぶにしてはある意味ピーキーなそのパーツのチョイスに、傍で見ていたアケミだけでなく戻ってきたサクラとカレンまでもが驚嘆したのは、レイジは知る由もなかった。
ただ1人、いまいち良くわかっていないこころだけが、パーツを選ぶレイジを楽しそうに眺めていた。
レイジとこころ、2人の銃を選んだ一行が最後に足を踏み入れたのはハンドガンのコーナーだった。
2人が選んだM4パトリオットとHK417アーリーバリアントは、既に店長に預けてある。久々の大口のお客様だと、オーバーオールの中年マッチョは強面の顔に満面の笑みを浮かべていた。
銃のことなら私に任せてと、サクラが三度息巻く。だが、首根っこをカレンにガッチリとホールドされているからか今回は流石に大人しい。
「ハンドガンは一応、セカンダリとか、サイドアームって呼ばれてるの。主にプライマリの保険みたいなものかな。ガスで動くものが多いけど、エアーコッキングとか、電動のものも幾つかあるよ」
「ガスガンは部の倉庫に山ほどあるから選ぶなら電動にしとくといいぞ。ガスガンは気温が下がると使えなくなるが、電動なら冬でも使える」
サクラとアケミの言葉に、分かりました。とレイジとこころは頷く。2人とも普段の射撃練習やサバゲー時に使うのはライフルばかりで、ハンドガンは実はあまり手に取ったことがない。
射撃場の倉庫も普段はあまり立ち入らないため、どれくらいの種類があるのかも実はよく把握していないのだった。
「そういえば、どうして倉庫にそんなにたくさんのハンドガンがあるんですか?」
「あ、あー……。それはな……」
珍しく、アケミが言い淀んだ。
「……倉庫にあるハンドガンの大半は、ウチの部長の私物なんだ。サバゲー中に持ち切れないから、使いたいのがあれば自由に使っていいって言われてる」
「今更ですけど、ウチの部の部長さんてどんな人なんですか?就活中だとは聞いたことがあるんですが……」
こころの疑問にレイジも同調する。言われてみれば、入部して以降2人とも一度も部長に会ったことが無いのだった。
部長のことを訊かれたアケミは挙動不審に視線を彷徨わせ、何と言ったものかと腕組みして唸っている。
「サクラ、任せた。お前部長に可愛がってもらってたろ」
「アケミさん丸投げっ!? か、カレンちゃんにパスッ! 私より部長のお気に入りだったし!」
「部長に後を任されたのはアケミさん。説明責任を果たすべき」
可愛がってもらってたとか、お気に入りとか、ともすれば不穏な気配の単語を織り交ぜながら3人の先輩たちが互いに部長の説明を押し付け合う。
まだ部長に会ったことのない2人からすれば、非常に不安になる光景だった。
しばしの擦り付け合いの後、無事に敗北したアケミが諦めたかのように大きくため息をつく。
「部長は……アレだ。変態なんだ。スタイルはデュアルハンドガンナー。特にガスのハンドガンが好きだな。ゲーム開始から最前線に突っ込んでって、バカスカ撃ちまくる。……以上!」
一息に言い切って、これ以上は一言も喋らん! とばかりに口の前で手でバツを作るアケミ。
レイジとこころは僅かな期待を込めてサクラとカレンを見るも、2人我関せず。とそっぽを向いて口笛を吹いていた。実にわざとらしい。
「はぁ。サバゲーのスタイルよりも、どういう人かを教えてもらいたいんですが……」
「そこはアタシからは言えねぇ。その内に就活終わって戻ってくるだろうから、直接会って確かめるんだな。その方が、きっとあの人も喜ぶだろうし」
アケミの言い方からするに、決して仲が悪いという訳ではないらしい。
疑問を投げかけて、かえって疑問が深まってしまったが、先輩たちが固く口を閉ざしてしまっている以上なんともしようがない。
レイジとこころは気持ちを切り替えて、陳列されているハンドガンに視線を移したのだった。
古今東西、様々な国のハンドガンが並ぶ陳列棚を興味津々と眺める2人。
古いものでは100年以上前に設計されたものから、2000年代に入ってから開発された最新型のものまで、各トイガンメーカーのラインナップは多岐に渡る。
ハンドガンと一括りにするとは言え、その形状は様々だ。
使用する銃弾の大きさや運用するシチュエーション、各国の設計思想によって大きな違いが出るのも、ハンドガンの特徴と言えるだろう。
そんな大量のハンドガンの中から目に留まったものを一つ一つ手に取りながら、ふと思い付いたようにこころはレイジにある提案をする。
「レイジさん。よかったら同じ銃を選びませんか? もしゲーム中にリロードが必要になった時にマガジンが共用だと便利だと思うんです」
「あ、それいいかも。だったら、こころさんの手に収まる銃に候補を絞ろうか」
こころの提案にレイジも二つ返事で快諾する。
電動ガンがオススメだと言うサクラとアケミの言葉を参考に、2人は電動ハンドガンの中からお揃いの銃を選ぶことにしたようだ。
電動ハンドガンの中から2人が候補として選んだのは、東京マルイ製の3丁。それぞれハイキャパE ガバメントモデル、H&K USP、グロック18Cという名前の銃だ。
「ハイキャパは、結構グリップが太めですね。私にはちょっと持ちにくい感じがします」
ハイキャパEを持ちながら、こころが呟く。
両手で持てば撃てないこともないが、咄嗟に片手でホルスターから引き抜いた時にもしかしたら落とすかもしれないとこころは付け加えた。
「なら、ハイキャパは候補から外そうか。残るはUSPかグロックだけど、グリップの持ちやすさは両方同じくらいだね。こころさんはどっちが好みのデザインとかはある?」
「私は……どっちかと言えばH&K USPでしょうか。 好みというよりも、折角なのでカレン先輩と同じメーカーの銃を持ってみたいです」
「ん……。こころはいい子」
こころの言葉に胸を打たれたのか、両手を胸の前で組んで何度も頷くカレン。
レイジも特に異論はなく、むしろHK417アーリーバリアントとも同じメーカーであることから装備に統一性が出ていい。とまで考えていた。
それじゃあ……。と声を掛けようとしたレイジの元へ、店長のヒゲマッチョが1枚のポスターを持ってやってくる。
「そこの兄ちゃんとお嬢ちゃん、H&K社の電動ハンドガンを探してるんだろ? もしよかったら、もうすぐ発売する新商品のコイツはどうだい?」
そういってマッチョ店長が手に持ったポスターを広げると、現れたのは一丁の大型自動拳銃。
その名はHK45。
実銃においてはHK417やUSPと同じH&K社が、USPシリーズの後継機として開発した大型のハンドガンだった。
「一応言っとくが、コイツはまだ未入荷でな。握り心地や使い勝手はまだ何とも言えんが、ガスガンのHK45は大型のハンドガンとは思えないほど持ちやすい。新商品だから当然、フィールドで被ることも少ない。使ってみた感想をウチの店でレビューしてくれるんなら、安くしとくぜ?」
“期間限定”と“新商品”という言葉の誘惑に弱いのは日本人の性だろうか。思いもかけない提案に、2人の視線はポスターに釘付けになった。
畳み掛けるようにずずいとにじり寄るオーバーオールヒゲ店長の笑顔が眩しい。
否、レイジとこころの瞳も、どことなくキラキラと輝いているようにも見える。
「レイジさん。私……!」
「こころさん。俺、これにしたい……っ!」
「よし来た。毎度ありぃっ!」
それは店長の策略か、好意か。気付けば互いに目配せし、いい笑顔でサムズアップするレイジとこころなのだった。
銃のオプションパーツは、作者の趣味が大いに入っています。
カスタマイズの仕方は、ユーザーに委ねられていますからね。
レイジも気に入らないと思えば付け替えるでしょう。
そして今更ながら話題に上ったサバゲー部の部長。果たしてどんな人物なのでしょうか?
登場予定はありますが、未定です。
最後に登場したHK45は現実世界の17日後、2019年2月19日発売です。時間軸はあべこべですが、折角なので新商品として登場させてみました。
『面白かった!』『続きが気になる!』と思ったらブックマークしたり、下の評価ボタンを押して応援していただけると作者の励みになります!





