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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第2章
23/33

Hit.21 新兵の苦悩 ◆

お待たせしました。

一度書き上げた内容に大幅な加筆をしたため、更新が遅れました。

 

「さて。次はレイジくんの銃選び、いってみよう!」


 こころの銃を選び終えたレイジたちは名誉挽回とばかりに息巻くサクラの掛け声に背中を押され、トイガンコーナーへと戻って来ていた。


「レイジくんはどんな銃を選ぶのかな? 私とお揃いで89式にしちゃう?」

「それも悪くはないですけど。どうしようかな……」


 曖昧に笑って誤魔化すと、レイジはぐるりと周囲を見回して手近な銃を1丁手に取った。

 慣れた手つきで流れるように構えて射撃姿勢を取るその銃の名前は、SOPMOD M4。東京マルイが販売しているM4系ライフルの中でも人気の高い次世代電動ガンと呼ばれる種類の銃だ。

 普段はサバゲー部の備品であるコルトM4A1を愛用しているレイジからすれば、使い慣れたデザインとも言える。


挿絵(By みてみん)


 いつも通りの、安心感さえ覚えるその握り心地を確かめるように、レイジは満足げに頷く。

 その様子を見て、やや不満げな表情を見せたのはカレンだ。

 自衛隊装備を推すサクラに対抗するわけではないが、自身の装備をドイツ系で揃える彼女としても、アピールできる時にアピールしておきたいのかもしれない。


「……マルイの次世代M4。レイジは、M4が好き?」

「特別な思い入れがあるというわけでもないですよ。よく使ってるので、比較対象にはいいのかなぁと思っただけです」


 とある理由から少しだけ自虐的な笑みを浮かべて、レイジは答える。

 そんなレイジの心情を知ってか知らでか、安心したようにカレンが返す言葉にはいつも以上に優しげだった。


「初めての銃を悩むのは、みんな通る道。ボルトアクションライフルも検討してくれるなら、私は嬉しい」

「はい。後でそっちのコーナーも見に行きますね」

「ん。じっくり悩むといい」

「ありがとうございます。カレンさん」


 カレンの言葉に笑顔を返すも、すぐに口元を引き締め直す。

 獲物を狩る猛禽類のように、レイジは真剣な眼差しで壁に掛けられた銃を見やった。

 次に手に取ったのは、AK102。先程と同じく東京マルイ製の次世代電動ガン。アケミの愛銃であるAK74MNをカービンサイズにした上で、カスタマイズ製を高めた一丁だ。


挿絵(By みてみん)


 光学機器やフォアグリップなど、各種オプションパーツを取り付けられるよう専用のシステムによって拡張性を高め、閉所での戦闘を想定した折り畳み式のストックを有し、標準で480連の多弾倉マガジンが付いてくる初心者にもオススメの銃と言えるだろう。


 旧型のAK47はレイジも何度かサバゲーで使用したことがある。

 AK102もAK47と同様に違和感を持つことなく構え、セレクターレバーの操作にも手間取ることはない。

 むしろ、前方部分が短く切り詰められていることでAK47よりも取り回しが容易になっていることに驚きを覚える。


「AK102なら、アケミさんとマガジンが共有できるね。ドットサイトやフォアグリップも付けやすいし、いい銃だと思うよ!」

「そうですね。悪くないと思います。思いますけど、うーん……」


 しかし、何度か構えたり下ろしたりを繰り返す内にどこかしっくり来ない部分があったのかレイジは首を横に振りながら銃を元の位置に戻した。

 浮かない顔のレイジを見て、サクラはぽりぽりと頬を掻く。


「これは中々、レイジくんの相棒選びは難航しそうだねぇ」

「すみません。どうしても、しっくりくる銃が思い浮かばなくて……」

「いいってことよ! カレンちゃんも、じっくり悩めって言ってるしね。ちょっと気分を変えて、サブマシンガン系はどうかな?」

「サブマシンガン、ですか?」

「そうそう。カレンちゃんが持ってるMP5Kみたいな子たち。法律の定めがある以上エアガンの規格はどれも一緒だから、飛距離とか弾の速度にそこまで差はないんだ。フィールドで前線にバリバリ出るような戦い方をするなら、軽いサブマシンガンの方が動きやすいかもね」


 そう言いながら、サクラがサブマシンガンコーナーから一風変わった未来的なデザインの銃を持ってくる。


 その銃の名前は、P-90。実銃においてはベルギーのFNハースタル社が製造するパーソナル・ディフェンス・ウェポン(PDW)に属する銃器だ。


 PDWは銃のカテゴリーとしてはサブマシンガンとアサルトライフルの中間に位置すると言われている。

 サブマシンガンが拳銃用の銃弾を使用するのに対して、P-90は専用のライフル弾を使用することにより、拳銃弾よりも貫通力に優れているのが特徴である。


 また、P-90の知名度としてはとあるアニメでピンク色の塗装が施されたこの銃が『ピーちゃん』の愛称で親しまれていることから、サバゲーにおいても人気が高い。


挿絵(By みてみん)


「一般的なアサルトライフルとかと違って持ち方にコツがいるけど、慣れればすごく撃ちやすいよ。私もこの銃のシルエットが好きで、一丁持ってるんだ」


 サクラから差し出されたその銃を手に取り、レイジはしげしげと眺める。

 アサルトライフルには無いコンパクトさと丸みを帯びた独特の形状。グリップの形は特徴的だが、人間工学に基づいた設計をされていて握ってみて違和感を感じることはない。


「変わったデザインですけど、思った以上に手に馴染む感じがします」

「でしょでしょ! アタッカーを目指すなら、かなりオススメだよ!」


 一瞬だけ、レイジは苦しそうに奥歯を噛み締める。


「ーーッ」

「ん? 何か言った?」

「あ、いえ。何でもないです! 一応、他の銃ももう少し見てみます。せっかくこれだけたくさんの銃があるんだから、触らないと損ですよね」


 動揺を悟られまいと大袈裟なリアクションと笑顔で濁して、レイジはP-90を元の場所へと戻しに行く。

 表情では隠せたつもりでいても、その後ろ姿には焦りと苦悩が深々と刻まれていた。

 痛々しいその背中を、3人は顔を見合わせて心配そうな面持ちで眺めるのだった。


 それから、レイジたちはショットガンやスナイパーライフルのコーナーにも足を運んだ。

 ショットガンコーナーではエアーコッキングによるポンプアクションだけでなく、ガスや電動のショットガンも手に取ってみたり。

 スナイパーライフルコーナーではカレンが普段からは考えられないほどの熱弁を振るってアピールしたり。


 しかしながら、レイジは様々な銃を手に取るもやはり首を横に振る。

 心配したサクラたちが理由を尋ねるも、自分に合うか分からない。との一点張りだった。


 レイジとて、決める気が無くて適当にいくつもの銃を手に取っているわけではない。

 むしろ実際は真逆で、銃選びで一番苦しんでいたのは、他ならぬレイジ自身なのであった。


 Urban(アーバン)-Front(-フロント)Base(ベース)での人生初のサバゲーを皮切りに、何度かサバゲー部の面々とフィールドに出かけては経験を積み重ねていったレイジだったが、未だに自分のなりたいサバゲーマー像とでも言うものが見出せないでいたのだ。

 フィールドでのゲーム中はまだ単独行動は少なく、サバゲー部の先輩の誰かと行動を共にする時間が多くを占める。

 自身を作戦の歯車のひとつとして思い付いた作戦を提案することは何度かありもしたが、自分からこの動きをしたいと役割を毎回主体的に決めているわけではなかった。

 サクラといる時はアタッカーを。カレンといる時はスナイパーを。アケミといる時は籠城戦や味方の援護を。

 3人がそれぞれ得意とするスタイルを学ぼうとしてはいたものの、結果としてはどっちつかずな状態になってしまっていた。



「サクラさん、カレンさん、こころさん、すみません。せっかく一緒に選んでもらってるのに。今日決められるか分からないので、また今度1人で来ます」


 心配そうに見つめる3人の視線に耐えかねたのか、遂にレイジは頭を下げる。

 レイジ自身も優柔不断で情けないとは思うものの、決められない以上は仕方ない。そう思っての謝罪だった。


 そんなレイジの肩を、サクラが優しく叩く。


「レイジくん。頭を上げて?」

「いや、でも……」


 カレンがぶっきらぼうに頭を撫でて、こころが遠慮がちに声をかける。


「ん。いいから上げる」

「レイジ君。顔を上げてください。大丈夫、誰もレイジさんを責めたりしません」


 恐る恐る顔を上げたレイジだったが、待ち構えていたのは3人の不満そうな顔などではなく、「やれやれ、しょうがないなぁ」と言わんばかりの若干の呆れと慈愛に満ちた微笑みだった。

 笑顔を浮かべたまま、サクラとカレンがレイジの両頬を同時に摘む。子供のイタズラを諭す母親のような、優しげな摘み方だ。

 こころは先輩たちのその行動に一瞬面食らうも、ついでとばかりに両手で口元を押し上げた。


「笑え、レイジ」

「そんな辛そうな顔で銃を選んでも、楽しくないよ?」

「左右に同じく、です」


 些か歪ではあるが、無理やり笑顔を作らされたレイジ。

 自分たちでやったにも関わらず不恰好なその笑顔がおかしいのか思わず吹き出した3人に釣られて、レイジも自分から笑い返すのだった。


 その後、我に返って急に気恥ずかしくなった美少女(本人談)たちに頰肉を限界まで伸ばされるという得難い体験をしたものの、どうにか引き千切られる前に解放された両頬をさすりながら、レイジは改めてトイガンコーナーを見渡す。


「迷ったら、自分がカッコいいと思う銃を選べばいいんだよ」


 落ち着きを取り戻したレイジに、サクラはそう言った。

 スタイルや役割なんて後付けで構わない。自分が持ちたい、撃ちたい。そう思った銃でサバゲーを楽しむことこそが何よりも大切なのだと。


 その言葉にハッとするレイジ。サクラの傍らに立つカレンも、そうだと言わんばかりに何度も頷いていた。

 溢れそうになる気持ちをぐっと堪えて、レイジは頷く。その顔にはもう、焦りや苦悩は見えない。吹っ切れたような清々しい顔つきだった。

 

「分かりました。難しいことは考えずに、純粋に俺がカッコいいと思う銃を探し「何しんみりしてんだよレイジッ!」ーー痛ってぇ!?」


 突如として店内に響き渡る破裂音と、尻を押さえて蹲るレイジ。

 突如襲来したアケミとその振り抜かれた右腕が、何が起こったのかを何よりも雄弁に語っていた。

 なんというかもう……色々と台無しだった。

 シリアスブレイカーアケミ、恐るべしである。



「いやぁ、悪い悪い。なんかしみったれた雰囲気だったから、思わずな?」

「思わずな? じゃないですよアケミさん!」

「はっはっは」


 全力ではたかれた尻を押さえながら、笑い転げるアケミに対して流石のレイジも抗議を唱える。

 一緒にいた3人もその様子には苦笑を返す他なかったが、アケミの破天荒な行動によってその場の雰囲気が明るくなったのは間違いなかった。

 やり方に些か以上の難があったことは否めないが。


「それで、レイジの銃は決まったのか?」


 思う存分笑った後、アケミおもむろに問いかける。その口元には、いつものニヤリとした表情。まるで、答えなんて最初から分かりきっているかのよう。

 問われたレイジは、少し考えて首を横に振った。


「実はまだなんです。でも、きっとすぐ見つかりますよ」


 返事を聞いたアケミは、楽しそうにハッと笑う。


「いい顔だな。お前のその顔、アタシは好きだぜ。それなら、早くアタシに見せてくれよ。お前の相棒を」

「はいっ!」


 レイジは、自身の相棒となる銃を選んだ。


 その銃の名はーー。


レイジが選んだ銃は、来週までのお楽しみです。

吹っ切れた彼は、果たしてどの銃を選ぶのでしょうか。


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