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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第2章
21/33

Hit.19 綺麗な花には水をあげましょう

 

 週末になり、レイジはサクラと共にアケミ御用達のガンショップへと向かっていた。

 2人とも大学近くに下宿していることもあり、大学で待ち合わせて電車での移動だ。

 最寄駅でアケミと合流し、アケミの車でガンショップまで行くことになっている。

 カレンとこころとは、ガンショップで落ち合う予定だった。


 電車に揺られながら、2人は肩を並べてぼんやりと後方へ流れていく景色を眺める。

 今日のサクラはベージュのシャツにデニムといった出で立ちで、ビッグシルエットのシャツをラフに着こなしている。シャツから見え隠れする鎖骨のラインは健康的で、普段よく目にする迷彩服姿からはかけ離れた女性らしい装いだ。


「アケミさんの家の近くのガンショップに行くのに、わざわざ迎えに来てもらうわけにもいかないですからね」

「そうだね〜。私が実家から自分の車を持って来ればレイジくんを乗せてあげられるんだけど、今までは特に必要じゃなかったからさ」

「サクラさん、車持ってるんですか?」

「私の実家、田舎だからね。無いと不便だからって大学の入学祝いにおじいちゃんが買ってくれちゃってさ。孫娘が都会の大学に下宿するとは思いもよらなかったのであった、まる!」


 冗談めかして言うサクラだったが、その時のおじいちゃんの顔を思い出したのか少しだけ心苦しそうに苦笑していた。

 レイジでさえ、ショックを受けるおじいちゃんの姿を想像するのは想像に難く無い。


「レイジくんが付いてきてくれるなら、今度取りに行こうかな? 山と田んぼしかないとこだけど、いいとこだよ」

「いいですけど……。俺を連れて行く意味ってあります?」

「それはホラ。『彼氏です!』ってちょっとでも紹介しておけば、何かあった時便利じゃん? 主に隠れ蓑として!」

「隠れ蓑って……」


 ウチは田舎すぎて、未だにおじいちゃんがお見合いの話とか持ってこようとするからね。とサクラは困ったように肩をすくめる。

 孫娘を溺愛するが故の行動なのは理解できなくもないが、おじいちゃん完全に空回りしてますよ。とレイジは心の中でサクラの祖父に念を送っておくのだった。


 いくつもの景色が過ぎ去って、2人の乗る電車はようやくアケミとの待ち合わせの駅へと到着した。

 ホームへと降り立ったサクラは一度大きく伸びをすると、後から降りてきたレイジの方を振り返ってクルリとその場で一回転する。


「やっと着いたね〜。電車なんて乗るの久しぶりだから、ちょっとテンション上がっちゃった。それはそうとレイジくん。君は、綺麗な花に水をやってはくれないのかい?」

「花……? 水……?」


 サクラの言葉の意図が汲み取れず、首を傾げて考え込むレイジ。そんなレイジの姿が不満なのか、頰を膨らませてサクラは自分を指差す。そこでようやく、花がサクラを意味するのだとレイジは察した。


「えーと、あの……今日もお綺麗です?」

「今日“も”!?」

「きょ、今日の服はとても似合ってて素敵だと思います!」

「うーん、45点くらいか。まぁ、今日のところは一番乗りということで許してあげよう後輩クン」


 ちゃんとみんなも褒めるんだぞ?と釘を指すと、一輪の花は心なしか嬉しそうにステップを踏みながら改札へ続く階段を上っていった。そしてぽかんとするレイジを置いて階段を登りきると、そのまま切符を改札に通しコンコースへと姿を消していく。

 サクラが視界から消えてからやっと我に返ったレイジは、慌ててサクラを追いかけて行った。



「置いてくなんてひどいですよサクラさん。駅まで一緒だったのに迷子とかシャレにもならないです」

「あはは。そりゃあ45点だから仕方ないね。80点くらいの気の利いたセリフが言えたら腕を組んであげても良かったのになぁ」


 改札を出たところで待っていたサクラと合流し、アケミとの待ち合わせ場所に向かう途中でレイジは先輩に苦情を申し立てるも、サクラはむしろ心外だと言わんばかりに首を振る。

 レイジもサクラが本気で置いていこうとしたわけではないことは理解しているためそれ以上言い返すことはなく、軽くため息を一つ吐き出して気持ちを切り替えた。


 コンコースからロータリーへと移動した2人は、アケミの車を探す。

 可愛らしいピンクと白のツートンカラーの軽自動車はすぐに見つかり、その運転席には眠そうにスマホをいじるアケミの姿があった。

 アケミの元へ駆け寄った2人は、車の窓を軽くノックする。音に気付いたアケミは顔をあげると、眠そうにあくびを一つして片手を振った。


「おー。おはよう2人とも。早く乗って、コンビニかどこかでアタシにカフェインを注入してくれー」

「アケミさん、眠そうですけどどうかしたんですか? あぁもう、頭もグシャグシャだし。後で櫛で梳かしますから、シャキッとしてください」

「いやぁ、昨夜AKバラしてたら止まらなくなっちゃってさー。運転中に事故ったらすまんな」


 そう言って再びあくびをするアケミ。服装も上下ジャージで髪だけはかろうじて団子状にまとめてあったが、寝癖があちこちで跳ね回っていた。口調もどことなく間延びしていることもあり、サクラとは別の意味で、普段の姿からはかけ離れた姿だった。


 レイジとサクラを乗せた車は駅のロータリーを出発し、アケミの運転で目的地であるガンショップを目指す。

 道中、緑でセイレーンなロゴが目印のコーヒーショップにカフェインと糖分の補給のために立ち寄り、レイジがコーヒーを買いに行っている間にサクラがアケミの身だしなみを最低限整える。

 サクラの献身的な介護により、レイジが車に戻る頃には雰囲気だけはすっかりいつものアケミへと戻っていた。


 湯気の立ち昇るコーヒーをちびりと口に含み、アケミはその熱さに眉根を寄せる。

 ミルクと砂糖をたっぷりと入れたコーヒーが身体に染み渡ったようで、彼女の口から思わず大きな吐息がこぼれた。


「ゔぁ〜生き返る。悪いなレイジ、コーヒー奢って貰っちゃって。サクラも髪を整えてくれてサンキュ」

「車を出して貰ってるんで、これくらいいいですよ。それより、昨夜AKをバラしてたってのはどういうことなんですか?」

「ああ、そのことか。ちょっと待ってな。通りに出るから……っと、よし」


 コーヒーをドリンクホルダーに置き、ガンショップに向けてアケミは運転を再開する。


「元々、今日はアタシのAK74MNの欲しかったカスタムパーツが届いたって連絡があったから1人でガンショップに行く予定だったんだよ。んで、そのパーツを付けるのに一度今のカスタムを分解する必要があったから待ちきれずに昨夜バラしてた訳だ」

「予めバラしておいて帰ったらすぐ取り付けるってことですか。俺はまだカスタムできる自分の銃が無いんで、羨ましい限りですよ」


 心底羨ましい。といった様子でレイジがため息を漏らすと、運転の傍らコーヒーを呷っていたアケミは笑い声をあげる。


「今日はその“自分の銃”を選びに行くんだろ? 買ったら最後、今日からカスタムのことを考えて眠れなくなるから心配すんなって」

「そうだよレイジくん。持って、構えて、狙って。どんなカスタムパーツが自分に合うか考えてるだけで時間なんてあっという間に過ぎちゃうんだから」


 私なんて未だに毎日通販サイトと睨めっこしてるんだからね?とレイジの隣でサクラは意味もなく胸を張る。

 意図せず胸が強調されたことにより思わず目を泳がせるレイジだったが、レイジの視線に目敏く気付いたサクラが「きゃー。レイジさんのえっち!」と声を上げてレイジの脇腹を突っつく。

 バックミラー越しにそのやりとりを見ていたアケミは、笑顔のままこめかみに青筋を浮かべた。


「テメェらアタシの運転中にイチャつくとはいい度胸だな。なんなら今すぐ車から降りて続きをしてもらってもアタシは構わないんだが?あぁん?」


 えらくドスの効いた声にサクラとレイジは震え上がり車から放り出されないよう必死に謝ったのは、言うまでもないだろう。



 県下最大級! というのぼり旗がはためく駐車場の一角に車を止めると、運転席に座るアケミは紙コップを傾けて中に残ったコーヒーを一息に飲み干した。

 そのままクシャリと紙コップを握りつぶし、車内に備え付けられたゴミ箱へと放り込む。

 エンジンを切り周囲を見回すも、カレンとこころが見当たらなかったのかカバンからスマホを取り出して画面をタップする。

 2人に連絡を取っていたのだろうか、しばらくして1つ頷くと後ろを振り返って狭い車内で背筋を伸ばして器用に正座をするサクラとレイジに声をかけた。


「カレンとこころちゃん、後5分くらいで着くってよ。先に入るのもなんだし、少し待ってみんな揃ってから入ろうか」

「「了解であります!」」


 すっかり従順になった後輩たちに苦笑しながら、アケミは車外へと降り立った。

 後部座席で正座をしていた2人もそれに続き、痺れた足でふらつきながら車から這い出してくる。

 産まれたての子鹿のようによろよろと歩く2人を尻目に、アケミは眩しそうに空を見上げた。

 季節は初夏。雲ひとつない青空がどこまでも広がっていた。


 車にもたれかかるようにして足の痺れが抜けるのを待つ2人と、青空を見上げるアケミたち3人に遅れること数分後。一台の車が駐車場へと入ってくる。

 ワルサーP38が相棒の有名な怪盗も映画で乗り回していたドイツ製のミニな車だ。


 運転席から颯爽と降りてきたのはカレンだ。

 シンプルな黒いワンピースをそつなく着こなし、小柄ながら大人びた雰囲気を感じさせるその姿に、サクラが思わずうめき声をあげる。


 助手席から降りてきたこころは、自分の装備を選ぶということもあってか、普段サバゲーで着ているようなデニムに白いブラウスを合わせていた。

 初めてのガンショップに興奮を隠せないでいるようで、レイジたちに気付くと大きく手を振って走り寄ってきた。


「おはようございます。アケミさん、サクラさん、それにレイジさんも。今日はよろしくお願いします」

「おはよう、こころちゃん。カレンも運転お疲れ」

「おはようございます、アケミさん。サクラとレイジも、おはよう。こころとの遠出は楽しいから、大丈夫です。それに今日はこころの装備を選ぶ大事な日。この日のために気合いを入れてきた。」


 普段は口下手で自分から挨拶をすることが少ないカレンだが、今日は珍しくアケミ以外にも饒舌に話しかけていた。心なしか、頬も紅潮しているように見える。

 レイジたちもそれぞれ挨拶を返す。これでようやくいつものメンバーが揃い踏みとなった。


「それじゃあ全員揃ったことだし、レイジとこころちゃんの装備探しと洒落込むとするかっ!」


 アケミの号令と共に、5人はガンショップのドアをくぐるのだった。



お店に入るまで書ききれませんでした。

キャラが勝手に動いて喋り出すんです……。


お読み頂きありがとうございます。


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