Hit.18 第1回サバゲー部会議
あけましておめでとうございます。
今年もハッピートリガー!をよろしくお願いします。
第2章の始まりです。
Urban-FrontBaseでの初めてのサバゲーから、少しばかりの時が経った。
大学の構内に咲いていた桜の花もすっかり散り終え、今ではその瑞々しく生い茂る葉が太陽の光を受け止めている。
季節は晩春から初夏へと移り変わる頃。サバイバルゲームにおいては、そろそろフィールドでガスガンが快調に動き出す、そんな季節だった。
今日の分の講義を受け終えたレイジは、通い慣れた足取りでサバゲー部の部室を目指す。
今日は射撃訓練か、それとも体力づくりのメニューでもこなそうか。そんな他愛もないことを考えながら、部室のドアをノックした。
「レイジです。入ります」
形式的な挨拶を口にして、ドアを開ける。室内にはアケミ、カレン、サクラ、そしてこころの4人が思い思いの席に座ってスマートフォンやパソコンを操作していた。
こころやカレンは部室で読書をしていることも多いのだが、サクラまでいるのは中々に珍しい。
自他共に認めるガンマニアであるサクラは、部室はほとんど荷物置き場で射撃場に入り浸っていることの方が多いからだ。
見ていたパソコンの画面から視線を上げたアケミは、レイジに空いている席に座るよう促した。
レイジは頷いて、手近な椅子に腰を下ろす。
全員が椅子に座ったことを確認すると、アケミは一度両手を合わせてパチンと音を鳴らして後輩たちの視線を集めた。
「よし、これで全員揃ったな。それじゃあ、今年度最初のサバゲー部の会議を始める。書記はカレン、頼んだ。司会進行はアタシがやろう。議案は、新入部員の装備についてだ」
「Jawohl」
ドイツ語で了解を意味する言葉で短く返したカレンがペンとノートを取り出すと、アケミは満足そうに頷いた。
「まずは、新入部員の軍拡についてだ。我らがサバゲー部の新入部員であるレイジとこころちゃんの2人には、いつもサバゲーに参加してくれて本当にありがとうの気持ちを込めて、サバゲー部から自分専用の銃を送りたいと思う」
備品として部費で購入するから、好きなヤツを選んでいいぞ! とアケミはニヤリと笑った。
その言葉を聞いたレイジとこころは、一瞬意味がわからないといった表情でアケミを見やる。
常日頃から先輩たちのオリジナルカスタムが施された銃を見てきている2人にとって、自分だけの銃はそれこそ憧れの存在だ。
もちろん、今2人が使っている部の備品のAK47やM4A1も悪い銃ではないが、いつかは自分専用の銃を。という願望は心の底に燻っていた。
スマホで気になる銃の製品情報やレビューを見ては、何度ため息をついたことだろうか。
そんな願望を叶える千載一遇のチャンスが、まさか向こうからやってきてくれるとは2人とも予想だにしていなかったのだろう。
アケミの言葉を聞いても、状況が飲み込めず目をぱちくりとさせているだけだった。
レイジとこころは頭の中で言葉の意味を反芻し、ようやく理解が追いつく。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「ありがとうございますアケミさん。大切にします!」
喜びを露わにする2人の姿にアケミは満足そうに笑みを浮かべると、こう続けた。
「ただし、部費から出してやれるのは各自一丁ずつだけだ。よく吟味するように。ちなみに、欲しい銃の目星はもう付けてたりするのか?」
「私は、こういう銃がいいな。というイメージはあるんですけど、具体的なものまでは決まってないです」
「俺は……ネットでカタログやレビューを見てはいるんですが、決めきれてないです」
アケミの問いかけにそれぞれ反応を返すレイジとこころ。ある程度自分のスタイルを決めつつあるこころとは対照的に、レイジはまだ悩んでいるようだった。
「最初の銃はみんなそうやって悩みながら決めていくんだ。レイジはそこのガンマニアに相談でもしてみたらどうだ。人と話すと、何か閃くかもしれないぞ?」
そう言ってアケミはサクラを顎で指した。指された方のサクラは少し考えた後、両手広げてレイジを手招きする。菩薩のような笑みを浮かべているが、目だけは全く笑っていない。まさしく沼の中で獲物を待ち受ける肉食動物のような笑顔だった。
「レイジくんおいでー?お姉さんとガンズトークしよ? 大丈夫、気が付けば自衛隊沼にどっぷりと浸かってるから安心して」
「サクラ、分かってると思うが選ぶのはあくまでレイジだからな? もしレイジの意見を無視して89式とか買わせたら、例の銃は資金援助なしだ」
「了解であります副部長閣下! 誠心誠意後輩にレクチャーします!」
さっきまでのねっちょりとした笑みはどこへやら。アケミの謎の脅しによって一瞬でキリリとした表情になって敬礼する。
キリリとしたのは表情だけで、その目だけは挙動不審に泳ぎまくっていた。
「……それじゃあ、この後少しサクラさんにアドバイスをもらいます。よろしくお願いします」
「大丈夫だよレイジくん。アレを引き合いに出されなくても銃のことなら私は真面目にレクチャーするから、ね?」
目まぐるしく変わるサクラの言動に若干引きながらも、レイジはどこか諦めた表情を浮かべて先輩にレクチャーを依頼するのだった。
「もし良ければ、今週末にアタシの実家のフィールドが懇意にしてるガンショップに行って銃を見ないか?気に入った銃が見つかれば買ってもいいし、銃以外の装備も充実してるから色々揃えるにも便利だぞ」
レイジの銃選びをサクラに丸投げしたのは流石に悪いと思ったのか、アケミが助け舟を出す。
アケミとしてはたまには頼れる先輩感を出そうと思ったのだが、その提案に予想外に食いついたのはサクラとカレンだった。
「同行します、アケミさん。こころにシューティググラスを見繕ってあげたい」
「じゃあ私も! 丁度P226の予備マガジンを買おうと思ってたんだー」
矢継ぎ早にカレンとサクラが付いて行くと声をあげたため、なし崩しに部員全員でアケミ御用達のガンショップへ行くことが決定してしまう。
展開に付いていけない新入部員2人は互いに目配せすると、肩をすくめて小さく苦笑し合うのだった。
思いがけず自分専用の銃を買う機会が舞い込んだレイジとこころは、果たしてどんな銃を選ぶのだろうか。
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