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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第1章
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Hit.1 ボーイ・ミーツ・ガン ◆


「サバイバルゲーム、やりませんか!?」


 迷彩服の彼女は、そうレイジに問いかけた。

 身長は155センチくらいだろうか。体格はやや華奢で、肩口で丁寧に切り揃えられたボブカットの黒髪を揺らし、『サバイバルゲーム部』と書かれた看板を両手に持ったまま可愛らしく小首を傾げる。


「サバイバル、ゲーム?」

「そう! 通称『サバゲー』!簡単に言ってしまえば、オモチャの銃でBB弾を撃ち合う紳士と淑女の遊びです!」


 遊び、と。彼女は確かにそう言った。

 だけどその眼差しは真剣そのもので、レイジは少しだけ胸に込み上げてくるモノを感じた。

 目の前の女性にときめいたわけでは無いと、思いたい。


「少しだけ、興味があります」


 気が付けば、自然と口から言葉が出ていた。

 レイジの返事を聞いた迷彩服の彼女の顔が、みるみる喜色に染まっていく。


「1名様、射撃場(シューティングレンジ)にご案内っ! アケミさん、カレンちゃん、先に射撃場行ってるから! 後はよ・ろ・し・く!」


 何が「よ・ろ・し・く!」なのか分からないが、彼女は言うや否やレイジの手を引いて走り出す。

 急に手を掴まれたレイジは頰が熱くなる。

 18年の人生の記憶を遡っても女性に手を掴まれる経験なんて数える程も無く、ドキドキする隙さえ無く、無抵抗のままレイジは引きずられて行った。


 後に残されたのは、アケミ、カレンと呼ばれた2人。どちらも若干の苦笑いを浮かべながら、走り去る2人を見送っていた。


「よーし、アタシらも頑張って勧誘するか!」

「ん。ノルマ1人」



 大学構内 射撃場(シューティングレンジ)


 体育館の裏手、射撃場と書かれた看板のある建物の中に、レイジは連れて来られていた。

 よく見てみれば射“撃”場という看板は手作りで、横には大きく「弓道場」という看板が掲げられている。

 建物の中も殆どは弓道場であり、一部分だけが改装され、弓道場との仕切りが設けられていた。


 物珍しそうにあちこちを眺めるレイジ。

 目の前には小さく仕切られた台が3つ並んでおり、その奥には5、10、20、30、40、50と数字が書かれた立て看板と、人間の上半身を模した金属製の的のようなものが一定間隔で並べられていた。恐らく、数字は台からの距離を表しているのだろう。

 そして、射撃場(シューティングレンジ)にレイジを連れてきた張本人は、倉庫らしき部屋の中で忙しなく動き回っていた。


「……最初のインパクトが大事よね。とっつきやすいハンドガンで、なおかつリコイルの大きい子となると、やっぱりこの子? 長物も触ってもらいたいし、最近暖かくなってきたからこの際ガスブロもイッちゃう?」


 鼻歌が聞こえてきそうなくらい、上機嫌な様子である。

 倉庫を覗き込もうとするレイジと目が合うと、彼女はちょいちょいと手招きした。


「手、見せてみ?」


 倉庫の中を見せてくれる訳では無かったらしい。

 少しガッカリしつつも、言われた通りに迷彩服の彼女に自分の手を見せるレイジ。

 まぁイケそうね。などと呟くと、次はブース内のパイプ椅子を指差し、座るよう促す。

 どうやら座って待っててということらしい。


 パイプ椅子に腰掛け、更に待つこと数分。

 ゴリゴリ、ゴトンと重たい音を立てて倉庫の扉が閉まり、大きなカゴにいくつかの銃を入れて、彼女は戻ってきた。


「お待たせ! ……えーと。ゴメン! 名前、まだ聞いてなかったね」

「あ、はい。南部(なんぶ)レイジ。レイジって言います。先輩のお名前も教えてもらえないでしょうか?」


 レイジがそう問い掛けると、彼女はしまった!という顔をした後、とびきりの笑顔でこう答えた。


「私の名前は、八雲(やくも)サクラ。2年生よ。よろしくね、レイジくん!」



「さて、お互い自己紹介も済ませたことだし、早速! エアガンを撃ってみようじゃぁ、ありませんかっ! っとその前にはい、これ。ゴーグル付けてね。弾が目に入ると最悪失明しちゃうから、射撃場の中では外したらダメだよ」


 サクラと名乗った女性は、カゴからスキー用のゴーグルのようなものを2つ取り出すと、1つを自分に装着し、もう1つをレイジに手渡す。


「ゴーグルよし。さぁ、さぁさぁさぁ! 記念すべき初射撃、お姉さんと一緒に大人の階段登っちゃおう?」


 レイジは理解した。この人のテンション、ヤベェと。

 大学に入学して、すぐに女性の先輩に声を掛けられてホイホイと付いて行く。

 そりゃあちょっとはドキドキするでしょ!?

 手も握られ(掴まれただけです)ちゃったし!

 この胸のトキメキを返せぇぇぇ!

 などと胸の内で苦悩するレイジを全く気にすることなく、サクラが取り出したのは一挺の拳銃だった。


 レイジとて、小さい頃に戦争ごっこと称してエアガンで撃ち合った経験はある。しかし、差し出されたその銃には思わず目が釘付けになった。

 その銃は、拳銃と呼ぶにはあまりにも大きく、過去に触れたことのあるどの銃よりも重厚な存在感を放っていた。


「東京マルイのガスブローバックハンドガン、デザートイーグル.50AEだ。受け取りたまえ、アンダーソン君」


挿絵(By みてみん)


 有名な銃だ。銃の種類なんて殆ど分からないレイジですら、この銃は見たことがある。


「ぼってりとした太い銃把(グリップ)、丸みを帯びた銃口(マズルフェイス)、重厚感溢れるデザイン。正にハンドキャノンという比喩が相応しい銃だと思わんかね、アンダーソン君」

「いや、俺はアンダーソンなんて名前じゃないんですけど……。元ネタくらいは分かりますけどね」

「よろしい。ならばこのマガジンを入れて、向こうの1番近い的に向けてまずは好きなように撃ってみたまえ。私のオススメは、映画のように片手でカッコよく連射だ。男の子なら出来るだろう?アンダーソン君」


「俺の名前は、レイジだ…!」

 などとカッコよく言い返す気概はレイジには無く、愛想笑いを返しながらマガジンと呼ばれる弾の入った金属の塊を受け取る。


 銃に受け取ったマガジンをどう入れるのか迷っていると、サクラがジェスチャーで入れ方を教えてくれる。

 右手で銃に見立てて輪っかを作り、左手をマガジンに見立てて人差し指を右手の輪っかの中に……っておいやめろ。それ以上は倫理規定に抵触する!

 ニヤニヤと笑うサクラから紅潮した頰や耳を隠すように、レイジは身を翻して彼女に背を向けた。

 タチの悪い確信犯はさておき、教えられた通りに右手で銃のグリップを握る。グリップの下部に空いた穴からマガジンを差し込み、カチリと音がするまで押し込む。

 マガジンがすっぽ抜けないことを確認し、左手で銃の上部、スライドと呼ばれる部分を後ろに引き、手を離す。

 すると銃は内部のバネの力で元に戻ろうとし、自動的にマガジンから弾を1発だけ拾い上げ、スライドする前の位置に戻る。装填の完了だ。


 レイジは銃をしっかりと握り……握り……。


「サクラ先輩。この銃、すごく持ちにくい気がするんですけど!?」

「さん付けでいいよ。ま、初めてはそんなもんさアンダーソン君。例の映画俳優だって普通に持ってたじゃないか。あ、言い忘れたけど、スライドを引くのは最初だけでいいよ。2回目以降は引き金を引けば出るからね」


 説明してくれる時は素に戻るんだな、この人。

 弄ばれているような気がしないでも無いが、何せ初めての体験だ。

 レイジはあれこれ考えるのを止めて、昔見た例の映画を思い出す。

 あのエージェントのように構え、5メートル程先の的に銃を向け、引き金を引き絞った。


 バシンッ!


「っ……!」


 乾いた音と共に、強く握りしめた銃が手の中で大きく跳ね上がる。

 驚いたレイジは、続けざまに引き金を2度、3度と引き続けた。


 バシンッ! バシンッ! バシンッ!


 連続で発射された弾は、狙った的を大きく外れ、あらぬ方向へと飛び跳ねていった。


「どう? 初めてガスガンを撃った気分は?」


 サクラの声に振り返ると、滅茶苦茶ニヤニヤしている悪い笑顔の先輩がいた。

 レイジは理解した。この人、テンションだけじゃなくてタチも悪いと。


「昔撃ったエアガンとは全く違いますね。手が痺れるくらいの衝撃で、びっくりしました。まるで本物みたいです……。あ、いや、本物なんて見たことも無いんですけど」

「そうだろうそうだろう。何てったって市販されてるハンドガンの中でも随一のリコイルだからね、その子は。手のサイズに合わないから、尚更狙いにくかろう」

「やっぱりワザと持ちにくいのを選んだんですね……。でも確かに、凄い衝撃でした」


 レイジの回答に満足したのか、サクラは何度も大きく頷くと、次いで別の拳銃をレイジに手渡した。

 先程撃ったデザートイーグルに比べると、全体的にスリムで、角ばったシルエットの銃。

 グリップを握ってみると程よくスマートで、レイジの手にもしっかりと収まり握りやすい。


「その銃の名前は、東京マルイのシグザウエルP226 E2。自衛隊が正式採用しているP220の後継機で、グリップが細身なのもあって日本人の手の大きさにマッチしていて持ちやすい銃よ。それじゃあ、銃の持ち方と狙い方を教えてあげるから、次は的に当てる快感を味わってみようか」


挿絵(By みてみん)


 言うが早いか、サクラはレイジに身を寄せ、そのまま自分の両手でレイジの両手ごと銃を握る。必然的に、サクラはレイジに抱きつくような格好に。

 慌てたのはレイジである。

 顔は近いわ抱きつかれているわ手を握られているわで、最早レイジの思考回路はショート寸前だ。

 呪うなら、彼女いない歴=年齢の自分自身を呪うがいい!


「あ、当たってます先輩っ」

「何言ってんの! 当てるに決まってるでしょう!?」


 しどろもどろになりながらもかろうじて絞り出した苦言は、見当違いの返事に一瞬で吹き飛ばされていった。


「レイジくん。両手に力が入り過ぎ。銃を構える時は、右手は優しく包み込むの。力を入れるのは引き金を引く時だけよ。保持するのは、左手の役割」


 そう言いながら、レイジの持ち方を修正していく。

 イメージとしては、湯呑みを持つような感じだ。

 右手で拳銃と握手をするようにやんわりとグリップを握り、左手でグリップの下部と右手を包み込んで固定する。

 脇を軽く締めて、撃った際の反動(リコイル)で腕が跳ね上がらないようにするのも忘れない。

 持ち方を修正したサクラはレイジから身体を離し、片手で銃を下から少し押し上げ、レイジの目線の高さに合わせる。


「狙う時は、片目じゃなくて両目でまっすぐ的を見て。人間の目には『利き目』があって、利き目で狙いを付けて、もう片方の目で周囲をなんとなく見るようにするのが上手に狙うコツよ。スライドの上の前後の白い丸がある所がそれぞれフロントサイト、リアサイトっていうんだけど、その白丸がちょうど横並びになった時に真ん中の白丸、フロントサイトの先に弾が飛んで行くわ」


 お下品なセリフでレイジをからかっていた時とは打って変わって真面目に、かつ的確に狙い方を教えていくサクラ。

 そこには、レイジが最初に見た真剣な眼差しがあった。

 手を掴まれて引きずられていった時よりも、身体を密着させて体温を感じた時よりも、そのひたむきな視線に、レイジは思わずドキリとする。

 純粋にカッコイイと、そう思った。


 サクラの視線に促されるままに、レイジは引き金を引く。先程当て損なった的をしっかりと見据え、軽く引く。


 カシュン。という乾いた発射音から一瞬遅れて、小気味良い金属音が射撃場に響き渡った。

本作における銃の効果音等については、作者の主観によるものが大きいです。

ご自身のイメージとかけ離れていたとしても、温かい目でお読み頂けますと幸いです。



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