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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第1章
15/33

Hit.14 鼓動は早く、旗は遠く

2週間も更新が空いてしまい、申し訳ございません。


早く最新話をお届けしたくて、早朝から更新です。

次からはペースを戻せるよう頑張ります。

 

「目標、敵フラッグ。激戦区を避けて前進します」


 レイジの言葉を受けてまず動き出したのは、サクラとアケミの前衛組だ。それぞれの得物を構えながら、周囲を警戒しつつ先陣を切る。

 アケミは前方を、サクラは左右に視線を飛ばしながらバリケードゾーンへと足を踏み入れる。まだ自陣だというのに、一つ一つのバリケードの裏に敵が潜んでいないかを丁寧に確認していく。


 手前から数えて4つほどのバリケードを超えた辺りだろうか。そろそろ先行する2人の姿が見えなくなりそうになったところで、アケミが振り返らずに後ろ手で手招きのジェスチャーをした。

 どうやら、2人の場所までは安全だということらしい。


「私はもうしばらくフラッグの防衛をしてから動き出す。後方は気にせず、横だけ注意して進めばいい」

「分かりました。みんな、行こう」


 頼もしいカレンの言葉に後押しされ、レイジたち中衛の4人も移動を開始する。

 前方はサクラとアケミ、後方はカレンという先輩に守られながらの進軍だが、油断は禁物だ。

 カレンの忠告通り横手方向と、念のため前方にも注意を払いながら、4人はアケミたちの待つバリケードへとたどり着いた。


「よし。アタシとサクラが今みたいに順次バリケードをクリアリングしていくから、後ろを付いて来るんだぞ。同じバリケードに入るには人数が多過ぎるから、2人ずつくらいで2箇所のバリケードに隠れるといい」


 アケミの指示を受け、レイジたちは頷く。

 今までにない緊張感のあるゲームだ。まだスタート地点から少し進んだだけなのに、銃のグリップを握るレイジの手は汗ばんでいる。

 太陽も中天を超え、春先といえど気温もだいぶ上がってきている。ゴーグル越しの視界も、気温か緊張によるためか少し曇り始めてきてしまっていた。

 横を見れば、こころやキタヤマたちも同じように深呼吸したり、力の入りすぎた身体をどうにかほぐそうと肩を回したりしている。


「キタヤマもナンジョウも、装備はすごい本格的なのにサバゲーは初心者なんだな……」

「ーーふぅ。あぁ、僕らはどちらかと言うとサバゲーマーじゃなくてミリタリーオタクなんだ。戦場を疑似体験したくて参加してみたけど、思ってた以上に過酷だよ」

「サバゲーというよりむしろアケミ隊長について行くのが過酷であります……」


 2人とも自身で迷彩服を選んで着てきたにも関わらず、軽装で動き回れるレイジを恨めしそうに眺めるのだった。

 キタヤマは迷彩服を着込んで身体を大きく見せているものの身体の線は細そうで、逆にナンジョウは全体的に太めなボディを迷彩服にパンパンに詰め込んでいる。残念ながら、お世辞にも2人とも運動は得意そうには見えなかった。


 レイジとて運動が得意というわけではないが、この日のために筋トレやちょっとしたランニングをしてみたりもしたのだ。少しだけ得意げに笑うレイジなのだった。


 緊張がほぐれたのを見計らったのか、アケミはレイジの脇腹を小突いて会話を終わらせる。

 4人の視線が自分に集まったのを確認すると、満足そうに小さく頷いて口を開いた。


「サクラ、前進再開だ」

「了解。右手前方で射撃音アリ。戦闘中と思われます」

「む。側面に回り込んで、気付かれなければ倒そう。難しそうなら警戒しつつスルーしていい」


 サクラの報告にアケミは一瞬だけ眉根を寄せるも手早く指示を返して、2人は前進を再開した。

 レイジたちも前衛の2人に遅れまいと最大限の注意を払いながら、必死に進んでいくのだった。


 戦況に動きがあったのは、バリケードエリアを更に進み、市街地エリアに差しかかろうとした頃だ。

 バリケードから少しだけ顔を出して進路を見定めていたサクラが、サッと片手を振り上げて握り拳を作る。

 事前に取り決めていたサインのひとつ『敵発見、止まれ』の合図である。

 アケミは背後を一瞥しレイジたちがバリケードに隠れたのを確認すると、サクラが隠れるバリケードに身体を滑り込ませる。


「右手前方、目視できたのは2人。まだ気付かれてはいないっぽい。やる?」

「避けては通れそうにはないな。アタシは追撃を警戒する。サクラのいいタイミングでやってくれ」

「了解」


 サクラは短く返事をすると、89式小銃を構えて敵の隠れるバリケードの奥に狙いを定める。

 アケミは発砲に気づかれた際のカバーに回るために、見落とした敵が周囲にいないか索敵に専念する。

 時間にしてみればほんの数秒。しかし、周囲全てに注意を払っている時とは質の違う緊張がサクラの身体を支配する。

 他の全てをアケミに任せ、ただ一点だけを狙い撃つ。呼吸すら忘れて、永遠のような一瞬が過ぎていく。

 数秒、あるいは数十秒か。サクラが狙うその視線の先に、敵の姿が重なった。


「ーー撃ちます」

「おう。やっちまいな」


 止めていた息を細く短く吐き出すように、トリガーを引きしぼる。

 タタン、タタン、と1人につき2発。連続した短い発砲音が2度、放たれた。

 距離にして20メートルほどだろうか。89式小銃から撃ち出された弾は正確に敵の胴体に命中し、ヒットコールと共に2人を退場させた。

 息つく暇もなく、サクラは周囲の様子を伺う。


「発泡音に気付かれたかもしれない。アケミさん、早く動こう」

「そうだな。アタシはこのままここで周囲を警戒するから、レイジたちを連れて前に進め。カレンと合流したら、また戻ってくる」


 できることなら射撃したバリケードからは一刻も早く移動したいところだったが、後続のレイジたちを進ませるには今いるバリケードの裏を進むのが1番早い。アケミはその身を囮にしてでも他のメンバーを進ませるつもりだった。


「わかった。ねぇ、アケミさん」

「どうした?」

「今日のアケミさん、すごく楽しそう。超カッコいいよ」


 周囲に目を光らせるアケミの脇をすり抜けながらそう言うと、サクラは返事も待たずにレイジたちを迎えに行くのだった。

 残されたアケミは一瞬だけ考えるように空を見上げて、フェイスガードの奥の唇の端を釣り上げて笑みを浮かべた。


「ありがとな、サクラ。確かに、メチャクチャ楽しい」


 独り言のように呟いたその言葉は、誰に聞かれることもなくかき消えていった。



 レイジたちを引き連れたサクラは単身、市街地エリアを突き進む。

 フィールドの端ギリギリを進んでいるため、左手側を見ればすぐにフィールドの境界を示すブルーネットに手が届きそうだ。

 前方と右手側にのみ注意を向けていればいいというのは、全方位に注意しなければならないフィールドの中央を進むよりは幾らか心に余裕が生まれる。

 後方に味方を引き連れているというのも責任を感じる反面、すぐ近くに味方がいるという安心感をサクラにもたらしていた。


 進行方向の先にあるバリケードに走り込む人影。

 サクラはその影を目敏く見つけると、自身も手近なバリケードに身体を潜め、敵が顔を出しそうな場所に予め銃口を向ける。

 周囲を見ようと顔を上げた敵に向けて即座に発砲。すぐに銃と顔を引っ込める。

 ヒットコールが聞こえたことで撃破を確認し、今度はシグザウエルP226に持ち替えて3秒、後続がいないか警戒態勢を取る。


「ふぅ……。敵影なし、っと」


 小さく息を吐いて、緊張をほぐす。

 周囲への警戒は継続したまま、片手を振ってレイジたちを呼び寄せた。


 後方から進んできたレイジとこころを自身の隠れるバリケードに招き入れると、サクラは2人に前方を指差した。

 前方に広がるのは、敵陣側のバリケードエリア。そこを超えれば、敵チームのフラッグまではもう目と鼻の先と言えるだろう。


「残り時間もだいぶ少なくなってきてるから、ここからは少し早足で進むね。今から私が向こうのバリケードエリアの入り口をクリアリングしてくるから、中央方面の警戒をお願い」


 クリアリングできたら合図をするから。と言いかけたところで、フィールド中央方向からの発砲音。3人は思わず身体を縮こまらせたが、どうやらこちらを狙っているというわけではないようで、弾が飛んでくる気配はない。


 ならばどこを狙ったものだったのか。その答えは、考えるよりも早く明らかになった。

 レイジたちの潜むバリケードのすぐ後方から、BB弾の弾ける音と味方のヒットコールが上がる。

 その声は間違いなく、ナンジョウのものだった。


「キタヤマっ、大丈夫か!? 」


 残されたキタヤマに向けて思わず叫ぶも返事はない。再び声をあげようと大きく息を吸い込んだレイジを、サクラが止めた。


「しっ。あんまり大きな声を出すとこっちにも気付かれる。私が行くから、2人は先に進んで」

「でも……っ」


 尚も食い下がろうとするレイジだったが、キタヤマの声が聞こえてきたために慌てて口を噤む。


「南部! アケミさんが来るまでここは持ちこたえるから、先に行ってくれ」

「敵の位置を教えてくれ、みんなで倒して先にっ……!」


 戻ろうとするレイジの身体を押し留めて、サクラが檄を飛ばした。


「足止め役ごめんね! アケミさんたちもすぐ来るから、それまで頑張って! 」


 姿は見えないが、荒々しい声からキタヤマが逼迫した状況にあるのは想像に難くない。

 それでも、キタヤマはどこか楽しそうに、サクラにこう返すのだった。


「足止めをするのは構わんがーー別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「ーーええ、遠慮はいらないわ。ありったけ撃ち込んでやって」


 機転を利かせたサクラの言葉に、キタヤマは心から楽しそうに応戦を始めるのだった。

 側で聞いていたこころがフェイスガードの奥でむせていたが、それによって敵に気付かれる心配はどうやらなさそうだった。


 ナンジョウは倒され、アケミ、カレン、キタヤマとは分断された。すぐに動けるのは、残り3人。

 サクラを先頭にして、レイジたちは敵陣へと乗り込んでいく。


次回、フラッグ戦完結篇です。


レイジはフラッグをゲットすることが出来るのか。

死亡フラグを立てたキタヤマは生き残ることができるのか。

乞うご期待!


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