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ハッピートリガー!  作者: YuTalos
第1章
12/33

Hit.11 穏やかな時間 ◆

遅くなってしまい申し訳ございません。

今週は執筆時間が思うように取れず、突貫作業となってしまいました。


次回よりまたサバゲーが始まりますので、一休みと思ってお読み下さい。


 ゲームを終えて、レイジたちサバゲー部のメンバーがセーフティエリアの自席へと戻ってくる。

 ゾンビ行為を行っていたニシノとアズマは既に敷地外退去処分となった後、午前中最後のゲームだ。


 ゲーム内容は、前回と同じセミオート殲滅戦の裏面。自分たちが連れてきた新人が問題を起こした失態を挽回するかのようにアケミ、サクラ、カレンの3人が敵陣に乗り込んで獅子奮迅の活躍を見せ、その勢いに乗ったチームメンバー全員で攻め立ててレイジたち赤チームが勝利をもぎ取った。


 ゾンビ行為があったことなど霞んでしまうような苛烈で気持ちのいいゲームであり、敵味方関係なく、午前の締めとなるゲーム内容を称えあったのだった。


「うがー疲れた。アタシはもうダメだ、お腹減って死にそう」

「アケミさんずっと走り回ってましたもんね。何か飲み物買ってきましょうか?」

「おーぅレイジ、お前はいい奴だなぁ。飲み物はいいから、アタシのお昼ご飯を貰って来てくれぇ」


 いいですよ。とレイジは二つ返事で了承し、完全に伸びてテーブルと一体化しようとしているアケミから昼食の引き換えチケットを受け取る。

 同じように完全燃焼してテーブルに突っ伏しているサクラとカレンからもそれぞれチケットを受け取り、レイジは席から立ち上がった。


「あ、レイジさん。私も手伝います」


 お弁当を配っている運営本部へと向かうレイジを呼び止め、こころも席を離れてレイジの後を追いかける。

 4人分のお弁当をどうやって運ぼうかと考えていたので、レイジにとってはありがたい申し出だった。


 キタヤマとナンジョウについては、フィールドに来る前に駅前のコンビニで昼食を買ってしまっていたらしく、貴族のお嬢様がハンカチを噛んで悔しがるようにオニギリを食いちぎっていた。



 人数分の引き換えチケットを握りしめて、こころと2人でお弁当の受け渡しの列に並ぶ。

 列の先頭からはいい匂いが漂ってきていて、思わずレイジのお腹がきゅうと鳴った。

 その音を聞きつけ、こころが小さく吹き出す。


「こころさん今笑ったね!?」

「なんのことでしょうか?私にはさっぱり……あっ!」


 視線を逸らしてしらばっくれているこころだったが、きゅるきゅると自身の腹の虫が自己主張してしまい瞬間沸騰したように耳が赤く染まる。


「私だって、運動したらお腹くらい空きますっ。もう、恥ずかしいなぁ」


 耳だけでなく頰まで真っ赤にして、こころは顔を背ける。火照った顔を冷まそうと手団扇で扇ぐ姿がなんともいじらしい。


「こんないい匂い嗅いだら誰だってお腹が鳴るよ。早くお弁当受け取って戻ろう」


 そんなこころの姿に当てられたのかレイジまでも気恥ずかしくなってきてしまい、あらぬ方向を向いて早口でまくし立てた。

 2人してなんとなく気恥ずかしいまま列は進んでいき、しばらくしてレイジたちの番となる。


「えーと。唐揚げ丼2つ、カツ丼3つお願いします」

「はいよ。あぁ、レイジくんにこころちゃんじゃないかい。午前は不快な思いをさせて悪かったねぇ」


 お弁当を手渡し、運営スタッフでもあるアケミの母親が申し訳なさそうに手を合わせた。


「おばさんが悪いわけじゃないので、気にしないでください。私もレイジさんも、そんなこと気にならないくらい楽しんでますから。ね、レイジさん?」


 こころに返事を求められ、大丈夫です。しっかり楽しませてもらってますとレイジも返す。

 2人の返事を聞いて安心したのか、アケミの母親は顔を綻ばせた。


「それなら良かった。イヤになってもうここに来てもらえなくなったら、それこそたまったもんじゃないからねぇ。特別にサービスとかはできないけど、午後も楽しんでいってちょうだいね」


 列の後ろに並んだ人を待たせていることもあり、2人はお礼を行ってその場を離れた。

 お弁当の丼をこころが2つ、レイジが3つ持ち、足早にテーブルへと戻っていく。


「アケミさーん。お待たせしました。お弁当持ってきましたよ」

「待ちくたびれたぞレイジ! なんてな。取りに行ってくれてありがとな。こころちゃんも、お手伝いご苦労さま、だ」


 丼を抱えてテーブルに戻ってくると、スポドリを飲み干して多少体力が回復したのか、アケミがいつもの笑顔で出迎えてくれる。

 先ほどまで突っ伏していたサクラとカレンも、美味しそうな匂いに誘われて顔を上げ、両手を広げてお弁当の配給を待ちわびている。


「レイジくぅん、早く私のカツ丼をぷりぃずぅ」

「私とこころは唐揚げ丼。飲み物は用意しておいたから、早く座って食べよう」


 アケミとサクラにカツ丼を、カレンには唐揚げ丼をそれぞれ手渡し、2人は苦笑しながら自分たちの席に腰掛ける。

 レイジとこころが座るのすら待ちきれなかったのか、サクラは既にお弁当の蓋を開けてカツ丼をモリモリと掻き込んでいる。その隣ではアケミも同様に、大きなカツを頬張っていた。


 レイジも一度両手を合わせいただきますと呟くと、カツ丼の入ったお弁当の蓋を持ち上げた。

 蓋を開けるとカツ丼のタレと卵のいい香りがふわりと舞い、レイジの鼻腔をくすぐる。


 丼によそわれたご飯を覆い隠すように、金色の卵に包まれた大きなトンカツがその存在感を主張していた。隅の方に慎ましく載せられたみつばが、金色ときつね色の2色に染められた丼に華を添えている。


 たまらずご飯と卵に割り箸を差し込み、大きくすくい上げる。半熟のとろりとした卵が白いご飯に絡み、否応無く食欲を刺激する。

 卵が零れ落ちる前にすかさず口に放り込むと、絡められた少し甘めのタレの旨みがレイジの口の中で爆発した。


 午前中いっぱい走り回ったこともあるだろう。久し振りに誰かと食べる嬉しさもあるだろう。だがしかし、それらを差し引いたとしても、レイジが口にしたカツ丼は絶品と言える味だった。


 夢中で味わい、次は衣にタレの染み込んだカツをご飯と共に持ち上げる。滴るほどにかけられたタレが、割り箸の先端をじゅわりと薄茶色に染め上げる。

 がぶりとかぶりつき、肉と脂の味を噛みしめる。低温でじっくり丁寧に揚げられたのだろうか、肉は歯を立てれば容易に嚙み切れるほどに柔らかく、衣から滴るタレが脂の旨味を引き立てる。


 気づけばレイジの口からは、ほぅとため息が漏れていた。


「……うまい」


 一言だけ呟くと、サクラに勝るとも劣らない猛烈な勢いでカツ丼を食らう。時折タレで辛くなった口をお茶で洗い流すも、ほぼ無心で食べ切ってしまったのだった。


 空になった丼をテーブルに置き、余韻を楽しんでいるところでふと我に返るレイジ。周囲を見回せば、誰もが食事の手を止めて、呆気にとられた様子でレイジを見ていた。


「えっ……? あ、あはは……」


 自分の食べっぷりを見られていたことに気づき、途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。


「フィールドで食べるご飯って、美味しいよねぇ。勢いよく食べちゃう気持ち分かるよ」

「……ん。いい食べっぷり。お姉さんの唐揚げも一個進呈する」

「ここの弁当は美味いだろ? ウチのフィールドはゲーム以外にも力入れてるからな! ま、食べ過ぎて午後動けないなんてことだけないようにな」


 三者三様に言い募られ、レイジはタジタジだ。

 カレンなどは面白がってに“あーん”でレイジに唐揚げを食べさせようとしてくる始末である。


「今週からアパートで独りで食べてたので、こうやって誰かと食べるのが久々で……。思わずグッときちゃいました。あーもう!恥ずかしいんでやめて下さいっ」


 しつこく“あーん”を迫るカレンから逃げるように両手を顔の前で交差して防御の構えをするレイジだったが、最後には左右をサクラとアケミにホールドされて鼻息荒く迫るカレンに唐揚げを口にねじ込まれる。というドタバタコントができ上がったのだった。


 全員が笑い合い、和やかな雰囲気で時間が過ぎていく。

 昼食を食べ終えた後はそれぞれ銃の調整やフィールド内で写真の撮影会など、ゲーム以外のことを思い思いに楽しんでいた。


「ーー休憩中のお客さまにご連絡します。午後1時より、午後のゲームを開始いたします。時間になりましたら、各自装備を整えてフィールドにお入りください」


 アナウンスと共に休憩は終わりを迎え、サバゲーマーたちは再び戦場に向かう準備を始めるのだった。


フィールドで食べる昼食はいいですね。

目の前には愛銃、手元には美味しそうなご飯。

カップ麺も悪くはないですが、今は多くのフィールドが温かい昼食の販売もしています。


挿絵(By みてみん)



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