陽介
「いただきまーす!」
その声が家の中を縦横無尽に響き渡る。
我が家の朝ご飯は一家の長男・陽介の大きい声で始まりを告げていた。
我が家は辺鄙な田舎町にあるので、どんなに大きな声を上げても怒られることは無かった。
むしろ家族はその大声を毎朝楽しみにして、食事の準備をしていた。
陽介は虫取りや冒険が好きな元気な少年だった。
でも陽介の「いただきまーす!」の声は日に日に小さくなっていった。
最近だと寧ろその陽介の声は無く、家庭は無言のまま朝ご飯を迎えることが多い。
ここ数日は朝ご飯すらも一緒に食べることをしなくなってしまった。
夫は朝になっても帰ってこなくなり、
次第に陽介のその声が聞こえなくなってしまったからだ。
今、聞こえるのは夫の怒鳴り声。
それに怯える娘の悲鳴。
そしてその二人を支えなければならない私。
どうしてこんなことになってしまったの。
どうして陽介は「いただきます」を言ってくれなくなったの。
ねえ、戻ってきてよ。
陽介。