4:大変な日だ!(2)
すぐにとらえられた俺は、縛られ、村のはずれの家畜用の檻にとじこめられてしまっていた。
「あいつ、何者だ!!」
「みろ、耳が長いぞ。エルフみたい・・・だ。とにかく、ゼロじゃないぞ」
ひそひそと声が聞こえる。
「少々イケメンになったからって、ひがみか???わかった、へそピアスは俺が戴く。だれもこの部屋にはいれてあげないぞ!独り占めだ」
「残念だけど、ちょっと食べちゃった」
ロスが集団の中から現れる。
「お前は何者だ?」
「耳ピアスだ・・・・・今の面白くなかった?」
「ああ」
「じゃあ、おれじゃないかも」
「なら絶対ゼロなんだ。・・・・おい、なんでまた、そんなに変わっちまったんだ?」
「俺だってわからない!!いい女と寝たら全能感があるだろ!!感覚はあれだよ!!」
「そうか!!!わかりやすいな!!!」
「だろ?」
「本気で言ったとでも?」
村の男たちをかき分けて、副領主が檻の前にやってきた。
「やぁ、ゼロ君。君はゼロ君で間違えないんだよな?」
「はい、ねぇ、耳ピアスしてる?」
あきれ顔でこちらを見つめる副領主。
「こんな時まで冗談を言うんじゃない。どうして、君はこうなったんだ?そして、なぜ奴はお前を殺そうとし、領主と父を連れ去った?」
「わかりました。はなします」
「・・・わかった」
だが、一抹の不安があった。
「解剖だけはしないで」
副領主が人払いをし、騎士団長、副領主、俺のストッパーとしてロスが残り、俺の話を聞いた。
「にわかには信じられないが・・・変わっちまってるしな」
「ああ・・・・あれだけの力を手にして、女と寝た次の日の全能感と一緒にするなんて」
「ああ、最高にわかりやすいが・・・・・オーケー、黙ってます」
「・・・とにかくだ。私は君を信じなくてはならないだろう」
「突然ですね。なぜ?」
「副領主・・・」
「いいんだ。秘匿するにも、彼は全部知ってしまっているのだから」
「まさか?」
「ああ、セントラルより、各地の領主および貴族に連絡が。たしかに、西の帝国は消えた」
「なに!だって、奴らは」
驚くロスの気も理解できる。
帝国は王国と数百年争い続けているが、王国ともそん色ない軍隊を所属しており、彼らの敗北は王国の敗北の可能性を限りなく引き上げるものだからだ。
「そして、君の話。もう一つの、王国上層部しか知らない話とうまくつながる」
「どんな話ですか?」
「それに関しては、直接セントラルにいって、ゼロ君が確かめに行くのだ。自分の足で」
「な!!セントラルまで???こいつ一人で!わかりました、葬式の準備でもすればいいんですか?」
「落ち着け、彼一人とはいってない。ロス、お前もだ」
「俺も?」
「ああ。ロス、ゼロ君、此方の書類を」
蠟で封をされた少し大きめの封筒を渡された。
「なんですか?この封筒?ラブレターかな????誕生日カード???おー、字が多くて・・・」
「ばかだな、ゼロ。これはなぁ・・・・老眼が始まって」
「はぁ、読まんでいい。これはセントラルへの嘆願書だ。お前たちを助けるように、そして、領主と君の父上の奪還協力を求めているものだ。恐らく、陛下の謁見がかなえば、これはすぐに受理されるだろう」
「なるほど、ロスがいれば安心だ」
「なにを」
「おい、ロス!!ゴブリンだ!そして、オーク、助けて!!!!}
「・・・・」
「ただの冗談です」
「それでは、準備ができ次第、向かってくれ」
「あー、マジか」
「ああ、なにかもんだいでも?」
「副領主様、実はわたくし、彼女ができまして」
「へそピアスだろ?」
「別れなさい」
「オー・・・マジかよ」
どうしてこうなった、と頭を抱える彼が俺たち全員の感情を代弁していた。
次の日、俺は旅の荷物を整えることにした。
「荷物か、まぁ、一応、旅に必要なものは大体わかる。これだ」
俺は、部屋の隅に置いてある古ぼけた分厚い本(すべての女に通ずる最新テクニック集)を取り出した。
「おい、ゼロ、入るぞ!」
「おい、ロス、ノックは入ってからでも遅くないんだっけ?」
「もちろん・・・・・両親が言ってた!」
ロスが俺の持つ本に目を止める。
「おい、それ持ってくのか?」
「悪いか?」
「いや、・・・・貸してね」
「使ってないときならね」
「でも、汚れるかもよ。旅で」
「うわー、おいていこう」
「それがいいな」
俺たちは互いの家から水筒や、フライパン、マッチなど、日用品を持ち合わせ、リュックに詰めた。
数時間後、準備を終えた俺たちは村に出ていた。
「そういえば、本格的な旅はひさしぶりだなぁ」
「ああ、そういえば冒険者だったんだもんな。今回も、大体そのセットで行けるから、便利だろ?」
「なにいってんだよ、一緒に全部準備したろ?へそピアスにすべて消された?その、記憶能力とか」
「違うよ・・・・、お前の鎧とか、剣とかだ。確か、ギフトは得られたんだよな」
「ああ、お前は確か、騎士だっけ?」
「そうだよ、幸運なことにな。で、お前は・・・」
「俺はな・・・・ちょっとまて、俺、鎧なんて持ってないぞ?」
「は?」
「剣もだ。全部・・・ブラックドラゴンの谷だよ」
「オー、マジ?」
「ああ」
しばしの沈黙が流れる。
「村の鍛冶屋に急げ!」
「ああ!」
俺たちは村の鍛冶屋にやってきた。
「トムさん!!!!」
「ん?おう、ロスじゃねぇか、それと・・・お前さんは?エルフか?」
「違うよ、竜人っていう人種らしい。で、鎧がほしいんだけど」
「竜人っていえばおめぇ、エルフの始祖じゃねぇか?」
「そうなのか?」
「竜が人の遺伝子を持ったことによって、竜人が生まれ、そこから、エルフ、ドワーフ、ウィンディーネ、サラマンダーに進化したって、聞いたことがあるぜ」
「へ、へぇー」
「滅んだと聞いていたが、いるところにはいるんだな・・」
「ですね、あなたの鍛冶場です」
俺は、鎧と武器について交渉することにした。
「鎧を探しているんです」
「おお、ギフトは持ってるのか?」
ギフトとは、国があっせんする教会がその人物の内なる成長の可能性を示すもので、それによって得られた結果を職業と呼ぶ。
「はい、狩人です」
「狩人?おい、そんなの知らなかったぜ?剣士とかいってなかったか?大体、狩人なんて職業、聞いたことないぜ?」
「言ってないからな。っていうか、言えなかったんだよ。今日まで。俺の職業を知っているのは当時の司祭、俺、リックと数人の要人だけだ」
「はぁ?どういうことだ?それに、なぜ、隠したんだ?新しいギフトなんて、隠さなくてもいいじゃないか!!」
「この職業は、まぁ、いろいろあるんだよ。それで、チェーンメイルを一つ、それと・・・・弓あるか?」
「なんで言わない?・・・・オーケー、黙ってろってさ」
「弓はある。だが、チェーンメイルが実は品切れでな。革の鎧でもいいか?」
「なんの革だ?」
「ワーウルフだ!!」
「・・・・俺が捌いた」
「だから?」
「おれのナイフで避ける鎧は信用できない。・・・・・おい、あのドラゴンの革を使って、鎧を作ってくれ!!」
「まぁ、大丈夫だが、今からか?」
「悪い、だけど、緊急なんだ」
「そうか・・・・・よし、じゃあ、作ってやるよ」
「オー、マジ?やった!!」
「だが、その前に」
「ん?」
「革がない!」
この後俺は山に登り、ドラゴンの一部を解体したのだった。