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1:食肉加工

この世の中には英雄がいる


比喩でなく、本当の意味で


そして、平凡なものがいる


悲しい暮らしをしているものがいる


この中で簡単に崩れるのは英雄の生き方だろうか?


悲しい暮らしだろうか?


いや、ざんねんながら


それは平凡な暮らしである。


平凡な生き方をしているものは、それをかみしめ、すでに失ったものがどれだけ切望するか考えるべきである。


作者より切望を込めて

ーーーーー


「危ない!」


おれは走った。


全身を包む黒い影


飛び去ったブラックドラゴンをぼんやりと見つめていた・・・・・・


「わっ!!」


また、自分の叫び声で目を覚ましてしまった。


それもこれも、あの夢を見たせいである。


トラウマは繰り返すのだ。


昔からの夢をかなえるため、俺と親友のリックは18にギルドに登録し、冒険者となった。


運よく、戦闘職だった俺たちは、順調にランクを上げていき、新米ながら名のあるコンビとなっていった。


そして、CからBランクに上がる試験を受けるため、ブラックドラゴンの魔力によって増えた魔物の討伐に向かったときだった。


調子に乗っていた俺たちは、周囲の期待もあって、できるだけ強力な魔物を探そうと、ブラックドラゴンの住処である山脈に近づいてしまったのだ。


しかし、それだけなら、特殊なことはしていない。


B~Aランクの冒険者なら山脈に入ることはざらだからだ。


しかし、不幸なことに、数十年間目撃されていなかったブラックドラゴンが現れてしまった。


そして、ブラックドラゴンはこちらを見つけると、ブレスを数発はなった。


その一発が、リックに当たりそうになった時、俺は走った。


ブラックドラゴンの攻撃から親友を守るためだ。


新米ながら、そこに踏み入れてしまった愚かさを悔いながら、おれはあの攻撃を喰らった。


突き飛ばした親友は無傷だったが、俺は全身に呪いを受けた。


それは、体が徐々に消えていく呪いだった。


なぜ走ったのか、なぜかばってしまったのか、いまとなってはわからない


だが、これが俺の人生を決めたと言えばそうだったのだ


誰も死ななかった


それを幸せと定義するならこの選択は正しかった


しかし、自分以外が夢をかなえ、自分の今の状況をみれば、僕の選択は間違えていたとしか言いようがないのかもしれない


リックの噂はこの村にも届く。


彼は王国指定の冒険者となるほどに成長し、英雄となったそうだ。


そして、おれは家業を継いだのだ。


顔を洗って、身支度を済ませて加工場に向かうと、すでに親父が魔物を捌いていた。


「おう、随分遅い出勤だな」


「馬鹿言うなって、幾らなんでもこんな時間から加工するのは早くないか?」


「昨日、騎士団がウォーウルフと交戦したらしくてな、此方の皆さんがそろってお越しだぜ」


「なっ!!! はぁ、今月一の大仕事になりそうだな、こりゃ」


「まったくだが、まぁ、仕方ないだろ。これで、しばらく、うちの村もくいっぱぐれることもなくなるしな」


この村には騎士団がある。


この村の近くにブラックドラゴンの住まう山脈があり、そこからあふれてくる魔物が時々この村を襲うため、王国が許可したのだ。


まぁ、近くといっても、ここから足でいけば7日もかかるが。


「始めるぞ」


「はいよ」


俺たちはワーウルフを捌き始めた。


数時間が立ち、三分の一ほどのワーウルフを捌き終わったころだった。


「おー、今回も凄いな」


「るせー、邪魔しに来たなら帰りやがれ」


「今日も期限斜めってとこだな、ゼロ」


こいつは、ロス。この村の騎士団に所属している


一応、若いながら強く、頭も切れると、この村でも人気の男だ。


「しかし、毎回、すごいことになるな。何日分だ?」


「まぁ、この数だと、15日くらいは村のみんなが肉を食えるんじゃないか?」


「なかなかだな、まぁ、俺たちが倒したわけだけど」


「そのせいで、良くも悪くも忙しくさせてもらってるよ」


ワーウルフの頭を切り落とし、内臓を取り除いて二つに切るところまでが俺たちの仕事である。肉の細かい加工は村の肉屋が行う。


「で、見ての通り暇なんだけど・・・」


「暇?それで?」


「嫌味だよ。早く用事をいえ!」


「俺も見ての通り、ずっと暇だったからきたんだ」


ずっと、討伐で忙しかった奴の嫌味は無視しよう。


「で、今日の夜、飲みにでもいかない?」


「はっきり言えば?ピアスの女だろ?」


「そうだよ。で?」


「いくよ」


肉を加工し、すべてを肉屋に送り、仕事が終わった。


「お疲れ」


「ああ、今日の飯はワーウルフのステーキだな」


「俺が作るよ。親父は休んでな」


家に帰り、俺は加工場から持ってきた肉を捌き、ステーキになる部位を取り出す。


「レアにしてくれよ!」


「わかってるよ、お客様」


たっぷりの油をたらした熱いフライパンに二枚の肉を入れる。


肉がじゅーと焼ける音に、おなかが反応し、音を立てる


味付けと臭みけしにハーブや塩コショウ、ワインをたらして出来上がりだ。


付け合わせに、おととい買った野菜でサラダも作っておく。


「飯、できたぜ」


「おう」


男二人の飯だから、いつもこんなものだ。昔、母が生きていたころはここにスープや副菜がもっとならんで、デザートが付く日もあったものだが。


ご馳走を堪能した後、こっそりと俺はパブに向かった。


「よう」


「やっときたか」


村で人気の騎士とはいえ、この男は一人で女と話せないやつなのだ。


「それで、あの子は?」


「今日もいるらしい。おれ、アタックするよ」


「おう。アタっ(て崩れやがれ)ク、頑張れよ」


「なんか、小声でいった?」


「いや?」


ロスはテーブルから女に声をかけ始めたのを見届け、俺はグラスを傾けた。


数時間後、ロスと女は家で飲みなおすと出ていき、俺は町から来たというAランクの冒険者の話を聞いていた。


この村には、たまに山脈での依頼を終えた冒険者が立ち寄り、町での話を聞くことができるのだ。


その男の周りには、パブで飲んでいた数人が集まり、話を聞いていた。


「しかし、今回の討伐だけど、魔物の数が少しすくなかったな」


「どういうことだ?」


「いつもなら大量の魔物に囲まれてもおかしくないんだがそんなこともなくて・・・・なんというか、空気が違ったんだ」


「空気?空気なんか、どこもおんなじじゃないか?」


「いや、」


気が付くと俺は口を開いていた。


「あそこは空気が違うんだよ。なんというか、説明できないけど、戦わなきゃ生き残れない、そんな気分になるんだ」


「・・・よく知ってるな。村の人って、まさか、山脈まで行ったりするのか?」


「いや、こいつはむかしCランクの冒険者だったんだよ」


話を聞いていた村の男が説明する


「そうなのか、なんでまた、この村に?Cランクなら、冒険者としても十分才能があったろうに」


「なぜなら、このうでだからだよ」


俺は包帯を巻いていた腕を見せる」


「…義手」


「ああ、ブラックドラゴンにな」


「あんた、まさか龍殺しのリックの仲間だった男か?」


「知ってるのか?」


「知ってるよ!才能がなくて、ついていけなくなったってやめたっていう、腰抜け野郎だろ!!」


男の周りの冒険者が一斉に笑う


「違う、おれはアイツをかばって」


「その腕の話は知らなかったが、腕の一本くらい、なくすのはよくある話だぜ??それくらいでやめちまったのなら、噂は本当だったってことだな。大方、お前がCランクになれたのも、リックのおかげなんだろ」


嘲笑が遠く聞こえる。


人間、本当に起こったときはこうなるのだろう。


気が付くと俺は冒険者に殴れかかっていた。


だが、俺は忘れていた。こいつらがBランク、現役の自分よりも強いことを


殴られて床に転がった俺は、徐々に遠ざかる意識のなか、そいつらの笑い声を聞いていた。


次の日、村では、俺の話が本当は嘘だったという噂が広まっていた。


噂というものは怖い。むきになって否定しても、その人に証拠を渡せるわけでもないし、さらに噂は強く力を持っていくからだ。


俺は加工場にこもり、仕事に熱中することで腹立たしさを忘れようとした。


その日の夜、ロスがやってきた。


「おう」


「なんだ?」


「ステーキでも食わせてくれ。持ち合わせがなくてな」


「わかったよ」


俺は加工場の台所でステーキを作り、ロスに渡した。


「おー、うまそうだな」


明るく振舞おうとするロスだが、これもこいつまで噂が届いている証拠だろう。


「ロス、噂だけど」


「嘘だってんだろ、知ってるよ」


「・・・・・信じてくれるのか?」


「当たり前だろ、友達だし」


「ロス・・・・」


「ちょっと待って、やっぱり、友達だからっていうより、見たからだな」


「ん?」


「お前を背負って帰ってきたリックを見つけたのは新米だった俺だったろ?リックから直接話も聞いたしな」


「そうだっけ?」


「そうだよ。それで、あいつらを逮捕しようと思ったんだけどな、残念だけど、正当防衛だって言われてな」


「まぁ・・・」


「だけど、おれはアイツらが気に食わん。大体、Bランクのくせに義手の加工屋の攻撃をいなせないなんて、考えられない。わざと強めに攻撃したんだろう」


「だよな」


「まぁ、元気出せよ。むかつくのはわかるけどさ。なんなら、俺が一緒に文句言いに行くよ」


「いや、いいよ。俺が一人で行く」


「はぁ?やめとけよ。危ないぜ?」


「このままじゃ、腹の虫も収まらないしな。大丈夫だ。文句言ったら出ていく」


俺は、引き留めるロスをなだめ、パブに向かった。


近づくにつれ、足が震えた。


手もだ。


直接、怒る勇気なんてなかった。


俺は、パブのまえで悩んだ後、そっと離れ、家に帰り、ベッドに入った。



太陽が昇っても、俺は眠れずにいた。


苛立たしい気持ちを抑えられず、仕事をサボリ、俺は山に向かった。


4時間ほどかけ、俺は山の頂上へとたどり着いた。


昔から、イラついたときはこうやって、山を登っていた。そうすれば、いつも気持ちが晴れた。


だけど、頂上についても、気持ちは収まらなかった。


「なんで・・・なんであいつが、あいつだけが英雄になって、俺が辱められなければいけないんだ!おれがたすけなきゃ、あいつはもう死んでるんだぞ!それなのに、見舞いにも来ないなんて、あのくそ野郎!!!!」


大木を殴りつけた拳から血が流れる。


その血が流れ落ちた、その時だった。


大きな黒い塊が空から落ちてきたのは。













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