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1.第二王子の場合


「ヴァイス様のことが好きです。」

「僕は君のこと知らないんだけど・・・。」

「じゃ、お友達になって下さいませんか。」

「・・・いいけど。」


 彼女と出逢った日は僕の誕生日だった。真っ赤な顔をした彼女が可愛かったのを覚えている。挨拶以外で話しかけられてびっくりしたけれど、友達と呼べる存在が少ない僕は可愛い少女と友達になれたことがとても嬉しかった。体の弱い僕は、あまり外に出してもらえないから、パーティの日からよく遊びに来てくれるようになった友達(・・)が本当に嬉しかった。


 彼女はとても楽しそうに話をする。僕の話も嬉しそうに聞いてくれる。友達とはなんて素敵なんだろうと思った。


「これ、私が作ったお菓子なんですけど、召し上がって下さいませ。」


 彼女が持って来たお菓子を侍女が手際よく、皿に盛りつけてくれる。知識がない僕にはよくわからないが、ケーキの断面が赤く鮮やかで、白いクリームと混ざって、綺麗でわくわくした。


「ヴァイス様、ミトルベリーお好きでしたよね。旬の物を使ってみたのです。」


 僕はびっくりした。酸味が少し強いミトルベリーを好むなんて、誰にも言ったことがない。その後も彼女は「これもお好きでしたよね。」と、こないだ飲んだ時に美味しいと思った紅茶を持って来ていて、侍女に入れてくれるように頼んでいる。


「・・・美味しい。」

「良かったですわ!」


 彼女はとても嬉しそうに僕を見て笑う。僕も嬉しくなって、少し笑った。僕の笑顔と呼ぶには乏しい微笑に、彼女は幸せそうに少し頬が紅くなった。


 


 次の年も彼女は誕生日パーティーに来た。


「ヴァイス様のことが好きです。」


 可愛い笑顔で言われる。プレゼントは彼女のお手製のミトルベリーのタルトだろうか。後でゆっくり食べたいと思う。


「僕も、マリーメアのこと好きだよ。」

「本当ですか!じゃ、私と婚約してくれますか?」

「婚約?」

「はい!私をヴァイス様の奥さんにして欲しいです。」


 僕も彼女の事が好きだったけど、彼女のいう「婚約した恋人」と「今のままの友達」と何が違うのかわからなかった。


「よくわからないけど、友達じゃダメなの?」

「あ・・・、いえ、友達で嬉しいです。」


 彼女が笑ってくれたから僕も笑顔を返した。


 彼女は僕の誕生日にだけ「婚約」を強請る。王宮に遊びに来ている時は一切そんなそぶりを見せない。なぜなのだろう。だけど、あのやり取りが面倒なので、無いことが助かる。もしかしたら、彼女のことだから僕が面倒だと思っているのが分かったのかな。だったら、誕生日のも止めて欲しいんだけど。


 今日もマリーメアは僕に逢いに王宮へ来る。


「ヴァイス様、先日の植物の本を見つけましたわ。」

「ありがとう、マリーメア!」

「さっそく、庭に参りましょう。」


 僕が嬉しくなることをしてくれるマリーメアとずっと友達で居たいと思った。



 三年目の僕の誕生日にも彼女は同じことを言う。


「ヴァイス様のことが・・・好きです。」


「僕も、マリーメアのこと好きだよ。」


 少し困った顔でマリーメアは微笑んだ。


「私を、婚約者にしてくださいませんか?」


「また、その話なの?僕は今の関係でいいと思うんだけど。」


「・・・はい。」


 その後は、特に何の問題もなくパーティーは終わった。




 四年目。彼女は来なかった。


 不思議に思った僕は、父上に彼女のことを聞いてみた。体調が悪いとかは聞いていない。


「あぁ、マリーメア嬢か。彼女はもう嫁いだのではなかったか?」


「え?」


「お前と仲が良かったから、お前さえよければ彼女を迎えてもよかったんだがな。彼女も今年が最後だったからな・・・。」


「最後・・・?」


「ん?あぁ、今年で彼女は十五だ。あそこの娘は、十五までに相手を決められなければ、父親の選んだ相手と結婚するのが習わしだったはずだ。」


「・・・・・。」


「マリーメア嬢はお前を伴侶に選んでいたようだったが、お前が興味なさそうだったから、特には何も言わなかったんだが、どうした?」


「いえ、なんでもないです。」


 ふらりと、父上の側から離れた。目だけがキョロキョロと辺りを見回す。僕の誕生日に来てくれた『父上』と縁がある人々。誰も僕を見ていない。彼らの関心があるのは、父上と嫡男である兄上だけ。


 ―――僕を見てくれていたのは、彼女だけだった。


 毎年、僕の誕生日にはマリーメアが居て、彼女が可愛い声で「妻に」と強請るのが、ずっと続くと思ていた。


 彼女が来ない誕生日なんて、想像もしていなかった。



 二か月ほど前の、兄上の婚約者が開催した夜会で逢った時の彼女を思い出す。


 その日もいつもと同じ。気づくと彼女は僕の側で笑っていた。でも別れ際に


「ヴァイス様。・・・さようなら。」

「あぁ、マリーメア。また王宮で。」


 笑顔と共に、ふんわりとおじきをしたマリーメアにどきりとしたっけ。こんなに彼女は綺麗だっただろうかと、しばし見とれてしまった。


 だけど、マリーメアはいつものように、次を望む挨拶は返さなかった。いつもなら、またお逢いできる日を楽しみにしておりますわ。と両手を合わせて、僕を見つめるのに。


 だから、だから僕は。


 四年目の今日は、またあの台詞を言うのなら婚約ぐらいはしてもいいかと。マリーメアの我がままを聞いてやってもいいかと。そういう気分だったのに。


 聞いてない。聞いてない。マリーメアが結婚するなんて。

 僕に内緒でいなくなるなんて!



 ―――イライラする。



「ヴァイス、どうかしたのか?」


「あ、兄上。いえ・・・」


「あれだな。マリーメアちゃんが来なくなって、しょんぼりしてたんだろう?」


「いえ、そんなことは!」


 でも、兄上はくすくす笑って、残酷な事を僕に告げた。


「でも、お前はマリーメアちゃんを振ったんだよな?何度も、何度も、妻にする機会はあったのに。」


「・・・・。」


「昨年のお前の誕生日な。マリーメアちゃん、こっそり泣いてたんだぞ。」


「え?!」


「丁度、廊下でばったり逢ってしまってな。」


 コクリと、兄上は手に持っていた赤い酒に口をつけた。


「お前のことは大好きで諦めきれないけど、きっぱり振られたから諦める為に泣いていると笑っていた。」


「・・・振ってなど。」


「俺も見てたけど、友達のままでいいって言っただろう?彼女と恋愛関係になる気はないってことだろう。」


「・・・・。」


 兄上の言葉に、去年の彼女が脳裏に思い出される。少し、席を外していた。あの時、



 ―――泣いていたのか?



 だって、だって、僕は彼女の事情を知らなかった!どうしようもなかったんだ!教えてくれていれば、僕だって・・・・。


 ぐしゃぐしゃと兄上が僕の頭を掻きまわす。


「彼女のことは忘れろ。それがお前の為だ。」


 最後にぽんぽんと、僕の頭を叩くと、兄上は他の客の相手をしだした。兄上に言われたけど、忘れられそうになかった。


 僕の頭の中は、マリーメアがどうしたらまた、僕の側で笑ってくれるかを考えることに必死だったから。


 だけど、マリーメアはもうこの国にはいなかった。隣国の王子の妃になったそうだ。僕には「君を振ってなんかいない」と弁解する機会もないのか。


 忘れないと、忘れないと、忘れないと。


 僕は君を忘れることが本当にできるんだろうか?



読んで頂いたことに感謝を。

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