表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨日の敵は今日の〇〇??  作者: 蓮野ツバキ
冒険の始まり編
9/22

第9話 昨日の爺は今日のロマン??

大変お待たせいたしました。

 今、俺たちは再び、長い廊下を歩いている。

 本当に長い廊下である。何度も立ち止まりたくなってしまった。

 だが、爺さんに負けた感じがして、なんかムカつくので、俺はひたすらに歩いているのだ。

 なので、歩いている間、この不思議な爺さんとこれまでの経緯をまとめてみた。


 あの後、爺さんが目覚めた事で、やっとどうにかなると思っていたのだが、リアによって破壊されつくした部屋を見て、爺さんは再び「気絶」という名の眠りについてしまった。

 その数分後、何とか持ち直す事に成功した爺さんに軽く事情の説明をした。

 それを聞いて、とりあえずの処置を決めてくれた。「とりま、お金はいりません」と言っている。

 さすが爺さん、頭がいい。……が、爺さんがそんな言葉を使っている事に、少しばかり気が引けた。

 あと、リアをこの部屋に残し、2人きりで話そうと言ってくれた。

 俺もその方が助かるので、難なく了承した。いやー、ホントにありがたい。

 リアには悪いが、睡眠薬をちょっと拝借。すぐに落ちた。

 何だか『魔王』らしくない。これじゃあまるで、刑事ドラマで誘拐されるヒロインだ。

 隠れているティンと紅葉に、リアの見張りをするよう頼む。

 爺さんたちが悪人だとは思えないが、さすがにちょっとな……。

 そうしてようやく、爺さんと2人で移動し始めたんだが……


「なぁ爺さん。こんなに遠い所に、部屋なんてあるのか?」

「そうですが何か?」


 当然とばかりに返事を返してくる。

 しかも、全く曇りのない声で。

 こんなに歩いているのに、何だかおかしい。


「いや、何でもない。やけに遠すぎだと思ってな。」

「ええ、まあ。疲れてくれれば何でも。」

「え?」


 今、俺の勘違いじゃなきゃ、疲れてくれればとか言わなかったか?


「爺さん。怒らねぇから、正直にもっかい言ってみろ。

「疲れてください。」

「ん。」

「いいから早く疲れやがれ!この厄介勇者!」

「本音漏れてんじゃねぇか!つーか、爺さんの方が疲れておかしくなってんじゃねぇか!」

「ツカレテナドオランヨ!」

「片言になっちゃってるよ!とにかく休めよ!」

「ハイハイ。分かったってママ。」

「あー。ヤバいなこれ。どうしたらいいんだ。」


 一度、辺りを見回してみる。そうすると、何かおかしな部屋を見つけた。

 何か怪しい雰囲気をしているが、爺さんを休めるには持ってこいな感じだ。

 ノックをしてみるが、返事がない。とりあえず、部屋の扉を押してみる。

 部屋の主が誰かは知らないが、開いていたので入らせてもらう。


「失礼しまーす。」


 部屋の明かりは点いている。爺さんを高級そうなソファーに寝かせ、俺はさらに部屋の奥に進んでいく。


 ポチャン。


 何か奥にあるらしい。

 不安だが、この部屋の主かもしれないので、そっと近づいてみる。


「どなたかいらっしゃいますかー。」


 ポチャン。


 まただ。さっきと同じ音。

 聞こえた方には、いくつかの扉がある。

 一番奥には、外に続いていそうな横窓も。


 ポチャン。


 こっちかっ!


 思わず反応し、一番奥のスライドドアを開ける。


「っ!」


 カナタが目にしたのは、露天風呂だった。

 そして、そこから見える、きれいな絶景。

 カナタは改めて、この世界を認識した。


 東に見える大山脈。エベレストよりはるかに高い。

 北の方には、かすかに雪が降っている。しかも、空からも陸からも降っている。

 西には、神社やお寺のような建物が見える。まさに、故郷を思い出す。


「すげぇ。」


 カナタも思わず絶句してしまう。

 なんて美しい世界なんだろうと。


 ポチャン。


「っ!……って、蛇口から水滴が落ちてるだけじゃねぇか。」


 カナタは安心した。なぜなら、ここに誰かいるって事があってはならない事だからである。

 もし、カナタがただの変態になってしまう事態が起きれば、それほど面倒な事はない。

 それゆえの安心だった。


 だが、それゆえの油断でもあった。


「たぁぁぁぁーーーーーーーーー。」

「ごふぉう。」


 後ろから、誰かがタックルしてきたのだった。

 カナタはそのまま、風呂にドボンする。


「ぶはぁ。」


 カナタは慌てて息を吸う。……が、


「てやぁぁぁぁーーーーーーーーー。」


 また沈められる。


「ゴボボボボ。」


 そのまま、タオルで手首を巻かれ、拘束される。

 さらに、もう1つタオルがあったのか、目隠しまでかけられる。


「誰なんですかっ!」

「ゲホッ、っゲホッ。」

「質問に答えてください!」


 誰だって、溺れたらこうなる事は目に見えている。

 なのに、質問に答えろだと。……ふざけんな!

 こっちだってお前が誰か聞きてぇよ!


 ……まぁ、俺がコイツの立場でも、こうするだろうが。


「聞いてるんですか!し・つ・も・ん・にっ、答えてくださいっ!」

「分かった!分かったから!素直に質問に答えるから!だから、そこをどいてくれ!」

「本当ですか?」

「本当だ、本当。だから、どいてくれ。」

「……分かりました。ですが、変な事をしたら、あなたの公的な立場は無に帰りますから。くれぐれも逃げないでくださいね。」

「ああ、了解した。」


 カナタ必死の訴えが通じた。

 のしかかっている彼女がどき、目隠しをかけられたまま露天風呂の壁際に移動させられる。

 その場に座れと言うので、座る。露天風呂なので、床がひんやり冷たい。ちょっとの我慢だと歯を食いしばる。


「さぁ、たっぷりと事情を聞きましょうか。私にウソは厳禁ですからね。」


 自信満々と言わんばかりに、俺の手を配管に括り付けるが、すごく下手である。

 俺が本気を出さず、隠密に逃げる事も可能であるが、今の状況で逃げたら、余計な罪を償わせられる気がする。

 なので、ここはあえて乗ってみる事にした。


「何から話せばいい?」

「ふふーん、それぐらい自分で考えてください。」

「じゃあ、俺の身元からだ。俺は一応、『勇者』の1人であるココ・ナツベコンウル・ト・ソウル。」


 試しに嘘をついてみる。

 結果は……、


「はい、ココナッツさん。あなたはどうしてこの『緋境(ひきょう)』に?」


 信じやがった。バカだなコイツ。


「バカじゃないです!お風呂場に入ってくる変態さんに言われたく…うぐっ。」


 口をおさえたのか、急に言葉が途切れる。

 それよりも、驚キ桃ノ木……、心を読まれるなんてな。

 まぁ、今日は驚きすぎて疲れたから、もう反応できないんで。ここはスルーで。


「もう!スルーはひどいです!こうなったらもう、強行作戦です!」

「おいおい。ちょっと待ってくれ。答えないとは言ってないじゃないか。」

「でも、ウソつきでしたよね。御影カナタさん。」

「まぁ、正直嘗めてたからな。ココナッツ×ベーコン×究極魂(ウルト〇ソウル)でいけると思ってた。悪かった。」

「ココナッツとベーコンはともかく、ウルトなんとかってなんですか?」

「気にしなくていい。俺の好きなもん詰め合わせセットって感じだから。」

「分かりました。でも、いつの間にか口調が変わってます。尋問中だって、忘れないでください。」

「そうだな。尋問中だったな。」

「そうです。次に同じ事したら、容赦なく叫びますから。覚悟しておいてくださいね。」


 数分後。自信たっぷりな彼女に、ゆっくりと尋問された結果、何とか状況は分かってもらえた。

 『変態未遂』という形での許しだが、それでも納得してくれて、ありがたいものである。

 彼女が着替えを済ませ、やっと解放されると思っていたのだが、爺さんの状況を確認してからとなった。まぁ、爺さんはぐっすりだったが。

 そしてやっと、俺の目に光が入ってきた。


「ううん。やっぱり眩しいな。」

「大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。」


 カナタが顔を上げると、華憐と言わんばかりの美少女がいた。

 白金の髪をなびかせ、そこに凛として佇んでいる。

 部屋の窓から差し込む光が、彼女をより輝かせている。その姿はまるで、おとぎ話に出てくる少女である。


「何ですか、じっと見て……。」

「い、いや。その、初めてお前の姿を見たからな。」


 思わずじっと見てしまっていたようだ。


「まぁ、お風呂場で見られてない分マシですけど。」


 ちょっと照れくさそうな顔をして、こっちを見つめる。

 『魔王』様より断然可愛い。


「っー!こっちばっかり見ないでください!それにやっぱり変態じゃないですか!」

「おまっ、心を読むな!こっちが接しずらいじゃねぇか!」

「私の方こそですよ!もう!」


 ……ぷっ、くすくす。


「ちょ、お前、笑ってんじゃねぇ。」

「そっちこそですよ。ココナッツさん。」


 久しぶりに笑えた。思ったより面白いやつだな。


「面白いですか?」

「ああ、何となくだが。あと、もうココナッツは止めてくれ。」

「そうですね。じゃあ、何て呼べばいいですか?」

「俺は御影カナタ。カナタでいい。」

「分かりました、カナタさん。私はアリス・ミュエル。ありすって呼ばれてます。」


 ありすって、本当に名前がメルヘンチックだな。可愛いからまぁ……、許す。


「ありがとうございます。そんな褒め方をされた人は初めてです。」

「そうか?お前ならすぐに言われそうだが。」

「それ以前の問題です。この世界のおとぎ話に、そんなものはないですから。」

「ほう。じゃあ、お前はどこで知ったんだ?」

「それは……、秘密です♪」


 上目づかいでこっちを見てくる。やっぱり、どこかの誰かさんとは比べ物にならない。


「ところで、さっき言っていた中に、ティンさんという方がいらっしゃいませんでした?」

「そうだ。確かにうちのパーティー……と言っていいのか分からないが、ティンっていうやつがいる。クエストの依頼人的な感じだが。」

「クエスト?ふーん、そうなんですか。」

「おいおい、何だ急に。ティンと知り合いか?」

「いえ、知り合いではないですが、お名前だけは。」

「そうか。」


 ティンが有名人かどうかは知らないが、それなりに知り合いはいるかもしれない。

 ていうか、勝手に、友達が少ないなんて決めつける俺が悪かったな。


「その事はともかく、今回の一件をノーカウントにする、もう1つの条件を言ってもよろしいですか?」

「ああ、何だ?」

「話す前にちょっとだけ、私のお話を聞いていただいてもいいですか?」

「もちろん。爺さんが復活するまで、俺は何もできないしな。」

「そうですか。では……、」


 そう言って、急に彼女は語り始めた。

 この世界の、大切な秘密を。

きりが悪いので一回投稿します。

話の内容は次回です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ