第9話 昨日の爺は今日のロマン??
大変お待たせいたしました。
今、俺たちは再び、長い廊下を歩いている。
本当に長い廊下である。何度も立ち止まりたくなってしまった。
だが、爺さんに負けた感じがして、なんかムカつくので、俺はひたすらに歩いているのだ。
なので、歩いている間、この不思議な爺さんとこれまでの経緯をまとめてみた。
あの後、爺さんが目覚めた事で、やっとどうにかなると思っていたのだが、リアによって破壊されつくした部屋を見て、爺さんは再び「気絶」という名の眠りについてしまった。
その数分後、何とか持ち直す事に成功した爺さんに軽く事情の説明をした。
それを聞いて、とりあえずの処置を決めてくれた。「とりま、お金はいりません」と言っている。
さすが爺さん、頭がいい。……が、爺さんがそんな言葉を使っている事に、少しばかり気が引けた。
あと、リアをこの部屋に残し、2人きりで話そうと言ってくれた。
俺もその方が助かるので、難なく了承した。いやー、ホントにありがたい。
リアには悪いが、睡眠薬をちょっと拝借。すぐに落ちた。
何だか『魔王』らしくない。これじゃあまるで、刑事ドラマで誘拐されるヒロインだ。
隠れているティンと紅葉に、リアの見張りをするよう頼む。
爺さんたちが悪人だとは思えないが、さすがにちょっとな……。
そうしてようやく、爺さんと2人で移動し始めたんだが……
「なぁ爺さん。こんなに遠い所に、部屋なんてあるのか?」
「そうですが何か?」
当然とばかりに返事を返してくる。
しかも、全く曇りのない声で。
こんなに歩いているのに、何だかおかしい。
「いや、何でもない。やけに遠すぎだと思ってな。」
「ええ、まあ。疲れてくれれば何でも。」
「え?」
今、俺の勘違いじゃなきゃ、疲れてくれればとか言わなかったか?
「爺さん。怒らねぇから、正直にもっかい言ってみろ。
「疲れてください。」
「ん。」
「いいから早く疲れやがれ!この厄介勇者!」
「本音漏れてんじゃねぇか!つーか、爺さんの方が疲れておかしくなってんじゃねぇか!」
「ツカレテナドオランヨ!」
「片言になっちゃってるよ!とにかく休めよ!」
「ハイハイ。分かったってママ。」
「あー。ヤバいなこれ。どうしたらいいんだ。」
一度、辺りを見回してみる。そうすると、何かおかしな部屋を見つけた。
何か怪しい雰囲気をしているが、爺さんを休めるには持ってこいな感じだ。
ノックをしてみるが、返事がない。とりあえず、部屋の扉を押してみる。
部屋の主が誰かは知らないが、開いていたので入らせてもらう。
「失礼しまーす。」
部屋の明かりは点いている。爺さんを高級そうなソファーに寝かせ、俺はさらに部屋の奥に進んでいく。
ポチャン。
何か奥にあるらしい。
不安だが、この部屋の主かもしれないので、そっと近づいてみる。
「どなたかいらっしゃいますかー。」
ポチャン。
まただ。さっきと同じ音。
聞こえた方には、いくつかの扉がある。
一番奥には、外に続いていそうな横窓も。
ポチャン。
こっちかっ!
思わず反応し、一番奥のスライドドアを開ける。
「っ!」
カナタが目にしたのは、露天風呂だった。
そして、そこから見える、きれいな絶景。
カナタは改めて、この世界を認識した。
東に見える大山脈。エベレストよりはるかに高い。
北の方には、かすかに雪が降っている。しかも、空からも陸からも降っている。
西には、神社やお寺のような建物が見える。まさに、故郷を思い出す。
「すげぇ。」
カナタも思わず絶句してしまう。
なんて美しい世界なんだろうと。
ポチャン。
「っ!……って、蛇口から水滴が落ちてるだけじゃねぇか。」
カナタは安心した。なぜなら、ここに誰かいるって事があってはならない事だからである。
もし、カナタがただの変態になってしまう事態が起きれば、それほど面倒な事はない。
それゆえの安心だった。
だが、それゆえの油断でもあった。
「たぁぁぁぁーーーーーーーーー。」
「ごふぉう。」
後ろから、誰かがタックルしてきたのだった。
カナタはそのまま、風呂にドボンする。
「ぶはぁ。」
カナタは慌てて息を吸う。……が、
「てやぁぁぁぁーーーーーーーーー。」
また沈められる。
「ゴボボボボ。」
そのまま、タオルで手首を巻かれ、拘束される。
さらに、もう1つタオルがあったのか、目隠しまでかけられる。
「誰なんですかっ!」
「ゲホッ、っゲホッ。」
「質問に答えてください!」
誰だって、溺れたらこうなる事は目に見えている。
なのに、質問に答えろだと。……ふざけんな!
こっちだってお前が誰か聞きてぇよ!
……まぁ、俺がコイツの立場でも、こうするだろうが。
「聞いてるんですか!し・つ・も・ん・にっ、答えてくださいっ!」
「分かった!分かったから!素直に質問に答えるから!だから、そこをどいてくれ!」
「本当ですか?」
「本当だ、本当。だから、どいてくれ。」
「……分かりました。ですが、変な事をしたら、あなたの公的な立場は無に帰りますから。くれぐれも逃げないでくださいね。」
「ああ、了解した。」
カナタ必死の訴えが通じた。
のしかかっている彼女がどき、目隠しをかけられたまま露天風呂の壁際に移動させられる。
その場に座れと言うので、座る。露天風呂なので、床がひんやり冷たい。ちょっとの我慢だと歯を食いしばる。
「さぁ、たっぷりと事情を聞きましょうか。私にウソは厳禁ですからね。」
自信満々と言わんばかりに、俺の手を配管に括り付けるが、すごく下手である。
俺が本気を出さず、隠密に逃げる事も可能であるが、今の状況で逃げたら、余計な罪を償わせられる気がする。
なので、ここはあえて乗ってみる事にした。
「何から話せばいい?」
「ふふーん、それぐらい自分で考えてください。」
「じゃあ、俺の身元からだ。俺は一応、『勇者』の1人であるココ・ナツベコンウル・ト・ソウル。」
試しに嘘をついてみる。
結果は……、
「はい、ココナッツさん。あなたはどうしてこの『緋境』に?」
信じやがった。バカだなコイツ。
「バカじゃないです!お風呂場に入ってくる変態さんに言われたく…うぐっ。」
口をおさえたのか、急に言葉が途切れる。
それよりも、驚キ桃ノ木……、心を読まれるなんてな。
まぁ、今日は驚きすぎて疲れたから、もう反応できないんで。ここはスルーで。
「もう!スルーはひどいです!こうなったらもう、強行作戦です!」
「おいおい。ちょっと待ってくれ。答えないとは言ってないじゃないか。」
「でも、ウソつきでしたよね。御影カナタさん。」
「まぁ、正直嘗めてたからな。ココナッツ×ベーコン×究極魂でいけると思ってた。悪かった。」
「ココナッツとベーコンはともかく、ウルトなんとかってなんですか?」
「気にしなくていい。俺の好きなもん詰め合わせセットって感じだから。」
「分かりました。でも、いつの間にか口調が変わってます。尋問中だって、忘れないでください。」
「そうだな。尋問中だったな。」
「そうです。次に同じ事したら、容赦なく叫びますから。覚悟しておいてくださいね。」
数分後。自信たっぷりな彼女に、ゆっくりと尋問された結果、何とか状況は分かってもらえた。
『変態未遂』という形での許しだが、それでも納得してくれて、ありがたいものである。
彼女が着替えを済ませ、やっと解放されると思っていたのだが、爺さんの状況を確認してからとなった。まぁ、爺さんはぐっすりだったが。
そしてやっと、俺の目に光が入ってきた。
「ううん。やっぱり眩しいな。」
「大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。」
カナタが顔を上げると、華憐と言わんばかりの美少女がいた。
白金の髪をなびかせ、そこに凛として佇んでいる。
部屋の窓から差し込む光が、彼女をより輝かせている。その姿はまるで、おとぎ話に出てくる少女である。
「何ですか、じっと見て……。」
「い、いや。その、初めてお前の姿を見たからな。」
思わずじっと見てしまっていたようだ。
「まぁ、お風呂場で見られてない分マシですけど。」
ちょっと照れくさそうな顔をして、こっちを見つめる。
『魔王』様より断然可愛い。
「っー!こっちばっかり見ないでください!それにやっぱり変態じゃないですか!」
「おまっ、心を読むな!こっちが接しずらいじゃねぇか!」
「私の方こそですよ!もう!」
……ぷっ、くすくす。
「ちょ、お前、笑ってんじゃねぇ。」
「そっちこそですよ。ココナッツさん。」
久しぶりに笑えた。思ったより面白いやつだな。
「面白いですか?」
「ああ、何となくだが。あと、もうココナッツは止めてくれ。」
「そうですね。じゃあ、何て呼べばいいですか?」
「俺は御影カナタ。カナタでいい。」
「分かりました、カナタさん。私はアリス・ミュエル。ありすって呼ばれてます。」
ありすって、本当に名前がメルヘンチックだな。可愛いからまぁ……、許す。
「ありがとうございます。そんな褒め方をされた人は初めてです。」
「そうか?お前ならすぐに言われそうだが。」
「それ以前の問題です。この世界のおとぎ話に、そんなものはないですから。」
「ほう。じゃあ、お前はどこで知ったんだ?」
「それは……、秘密です♪」
上目づかいでこっちを見てくる。やっぱり、どこかの誰かさんとは比べ物にならない。
「ところで、さっき言っていた中に、ティンさんという方がいらっしゃいませんでした?」
「そうだ。確かにうちのパーティー……と言っていいのか分からないが、ティンっていうやつがいる。クエストの依頼人的な感じだが。」
「クエスト?ふーん、そうなんですか。」
「おいおい、何だ急に。ティンと知り合いか?」
「いえ、知り合いではないですが、お名前だけは。」
「そうか。」
ティンが有名人かどうかは知らないが、それなりに知り合いはいるかもしれない。
ていうか、勝手に、友達が少ないなんて決めつける俺が悪かったな。
「その事はともかく、今回の一件をノーカウントにする、もう1つの条件を言ってもよろしいですか?」
「ああ、何だ?」
「話す前にちょっとだけ、私のお話を聞いていただいてもいいですか?」
「もちろん。爺さんが復活するまで、俺は何もできないしな。」
「そうですか。では……、」
そう言って、急に彼女は語り始めた。
この世界の、大切な秘密を。
きりが悪いので一回投稿します。
話の内容は次回です。