第1話 桃香の番ですっ!
気分転換に番外編書きました。
これは、他でもない。私のお話。
そう、カナくんに置いてかれちゃった、私のお話。
………というかその前に覚えてますー?私のこと。
まぁ、カナくんメインですから。そうですから。
でも、私のことも、ちょっとは気にかけてほしいです。
それではもう一度、自己紹介させてもらいますねー。
私は桃香!斎藤桃香です!
カナくんのお・さ・な・な・じ・みですっ!
私はヒロインじゃないとか思ってたそこのあなた!覚悟してくださいね!
私は、そう簡単にヒロインから除外なんてされませんよ!
いいですか!これは私の物語なんです!
カナくんを………、
『魔王』から取り戻すためのっ!
辺り一帯は光に包まれている。
それも、ただの光じゃない。召喚の光だ。
その光に、この場で唯一巻き込まれなかった少女。それが、彼女である。
「もー!何が何なのー?」
斎藤桃香16歳。
ごく普通の高校生であった彼女が何でこんなところにいるのか?
それは、召喚されたからである。
幼馴染であるカナタと共に、学校へ向かっていたある日のこと。突然2人は異世界に飛ばされた。
もちろん、最初は戸惑うばかりの日々である。
自分たちが何でこんな目に合わなければならないのか。なぜ自分たちが選ばれてしまったのか。本当に元の世界に戻れるのか。そんなことばかり考えてしまっていた。
でもそれは、カナタがいたことであっという間に解決した。
幼馴染との異世界生活。そんな展開、普通はありえない。
だからこそ、自分たちで生きよう。ここを生きて、いつか普通の生活ができるように頑張ろう。そう思えたのだ。
だが、そこにとある女が現れた。
その女は、何かあるとすぐにカナタのところに来る。そして何かよく分からないまま戦う。
そして何度も戦ううちに、少しずつカナタが影響を受けている。
このままではいけない!そう思った矢先にこうである。
私は寝坊によって、人生最大のミスをしてしまったのだ。
「ありゃ。だーれもいない。」
桃香は不思議そうに周りを探す。しかし、そこには何もない。
神柱とかいう神殿のくせに、石ころ1つもありゃしない。
「カナくぅーん!『邪魔王』様ー!」
カナタの名前を呼んでみるも、誰も反応しない。
完全な消失である。
あ、ちなみに『邪魔王』はリアのことだ。一応いるか確認しておいただけだ。彼女に興味はない。
「じゃあやっぱり、今の光って召喚の光だったんだー。……ってことはつまり!私置いてけぼりってこと!?そんなぁー。」
感嘆の声を神殿に響かせながら、桃香は自分の失態を悔やむ。
自分が朝、ちゃんと起きてればよかっただけの話なのだ。それゆえに、自分を責めてしまう。
さらに、召喚というこの非現実的な場面において、2人が召喚されたということは、とても大きな問題なのだ。
「うー。カナくんと奴が2人きりにー。」
2人が召喚されたということは、きっと、昔の自分たちと一緒である。そう、桃香は考えていた。
つまり、カナタの運命は2つに1つ。
1.『邪魔王』に殺される。
2.『邪魔王』ルート。
どちらかだ。
「ヤバいよぉ!私のカナくんがぁ!」
最悪のパターンは考えないことにする桃花。
となると、もう1つしかない。
「これは、一刻を争う超緊急事態だよっ!待っててねカナくん!今行くよ…………って、私はどうすれば?」
せっかく頑張ろうと思ったものの、どうしようもできないことに気づく。完全に空回りしてしまった。
とりあえず1回帰って考えることにする桃香であった。
ここは宿場町ウィア。冒険者の町と言われるほどの快適な町。
桃香は、カナタと共にここで暮らしていた。……昨日までは。
「ただいま!」
町の周りをぐるりと囲む壁。その端っこにある2つの門がこの町に入るときの検問所みたいになっている。
それをくぐると同時に、門番さん(内側)にあいさつするのは、桃香の習慣の1つであった。
「モモカ・サイトウ!そんなに慌ててどうしたんだい?それにカナタ・ミカゲは?」
少し息切れしている桃香に、門番さんが不安な表情を浮かべる。
「別にいーの!今からギルド行くんだから!こう見えても今機嫌悪いのー!急いでるからまた今度にしてー!」
「あ、ああ。」
普段ならありえない対応をしながら、まっすぐにギルドに向かう桃香。
その目には、焦りと悔しさがたっぷりだった。
町に入って一直線。中央通りのど真ん中にあるのが、ここウィアのギルドである。
ギルドに到着するやいなや、受付にいる金髪の女性のところに向かう。抱きついて……そして泣く。
「カナくんがさらわれたよぉ!負けヒロインになるのだけは嫌だぁ!カナくんは私のだよぉ!」
「ちょ、どうしたのモモ!何で泣いてるのよ!」
「カナくぅーん!」
泣いた時間は、およそ30分だとギルドの客は後に語る。
そして、桃香の抱きつく胸を見て、人々はその人物の威圧感を感じていた。
憎しみ、苦しみ、悲しみ。そんなものすら簡単に超越してしまうほどの、恐ろしい覇気を。
泣くことおよそ3時間。やっと泣き止んだ桃香は、その受付嬢、リエス・テューに事情を説明した。
彼女はトップクラスの受付嬢で、その上、成績優秀才色兼備。いわゆるお嬢様でもある。ちなみに、美女ランキングでは、いつもトップ5に入っているとか聞いたこともある。
そんな彼女と出会ったきっかけが……胸だ。
「胸を大きくしたいからぁ!あなたみたいにぃ!教えてよぉ!」と泣き叫んできたことは、今でも鮮明に覚えている。
彼女はまだ、私の胸を敵視しているのだが、それでもこそ世界では、親友とも言える存在なのだ。
「なるほど、そういうことだったの。」
リエスは呆れた様子で、桃香の話を聞いていた。
あまりに余計なことだらけだった話から、状況と思いだけをしっかり聞き出す。
楽勝な様子で聞いていられるのも、彼女がトップクラスである証明である。
「それは困ったわね。何か異世界へ向かう方法を一刻も早く見つけなきゃだわ。」
「リーちゃんありがとぉ!」
リエスに感謝を述べる桃香。安心した表情になり、いつもの調子も戻って来る。
親友がいることだけが、今の桃香にとっての支えでもある。
「で、早速なんだけど。これ、見てもらえる?」
リエスは、胸ポケットから依頼書を取り出す。
その中身を見て、桃香は驚きの表情を浮かべる。
何を隠そう。それは、異世界へ繋がる鍵『オルティオ』についての依頼書だった。
「リーちゃん!これって!」
「そうよモモ。これは『オルティオ』についての依頼書。貴重なものだから、あなたたちに届けろって言われてたの。これがあれば、あなたたちも帰れるかもって。」
リエスは、ばつが悪そうに横を向く。
「今日ここに来るって聞いたから、それを待ってたんだけど……。それがまさか、こんなことになるなんて。一歩手遅れだったわね。」
「そんなぁ。」
桃香の顔がまた不機嫌になっていく。
それを見たリエスは何とかしなければと、必死に慰める。
「ま、まぁでも、これがあればいいわけよ。これを探せばいいだけ。たったそれだけで、あなたの大切な人が救えるの。それにさ、これはチャンスでもあるのよ。」
「えー、チャンスって?」
「あなたの言ってた『邪魔王』、彼女だけ残してくればいいじゃない。そうすれば、あなたの独り勝ちよ。他に邪魔は入らないわ。」
「確かに!」
パッと明るくなった桃香に、ほっと安堵するリエス。2人は改めて目を合わせる。
お互いの意思を確認するために、そして、2人が真の友情で結ばれていることを確認するために。
そして桃香は決意することにした。
「分かった。その依頼引き受ける。」
「オッケー。でも、きっと大変な旅になる。そんな予感がする。だから私もついていくことにするわ。よろしくね。」
「こっちこそだよ!さぁ、リーちゃん、こうしてる間にも、カナくんはピンチだよ!早く行く準備しよっ!」
桃香はリエスを連れ、馴染みの武具店に向かう。
時間はもう夜。明日の出発に向けて、2人はそこで道具を揃える。
そして、武具店からの帰り、桃香は月に向かって呟いた。
「待っててねカナくん。必ず行くから。」
決意の言葉を胸に、桃香は月に向かって歩き始める。
月の光に包まれた彼女は、まるで天使のようだった。
桃香編もスタートさせました。
たまに書いていこうと思ってます。
こっちもどうぞ、よろしくお願いします。




