第11話 昨日のルーンは今日の覚悟!!
拝啓、斎藤桃香様。
俺は今、再び『勇者』として、旅立とうとしています。
もちろん、1人ではありません。
元『魔王』(笑)リア。忍者っぽい忍者ティン。獣耳っ娘紅葉たん。ヤンデレ姫アリス。この4人が今の仲間です。
頼れるかどうかはさておき、とてもいい人たちであるのは、ほぼ確実だ。(『魔王』様除く。)
ここからの冒険がどうなっていくかなんて分からない……。でも、きっといつか帰れるだろう。
……なにせ、最重要パーティの1つになって、旅立ったのだから。
くれぐれも、桃香は死なないでくれよ。
歓声があたり一面に響いている。
俺たちのパーティ……いや、正確には俺とリアの2人の『勇者』が旅立つのに、多くの人間が駆け付けた。
まぁ、多くの人物は知らないんだが、それだけの期待があるってことだろう。
こうなってしまったのは、他でもないアリスさんのせいなのだ。
時は、数時間前に遡る。
アリスが俺の仲間になった後、アリスと爺さんを連れて来た道を戻ったんだが、それが問題だったのだ。
アリス曰く、「見つかったら『変態確定』」と主張してくるので、部屋に到着する前に、ティンの力を借りて脱出させる予定だったのだが、それが逆に不幸を招いてしまった。
もちろん、ティンの力を借りることも、爺さんとの『勇者会議』(爺さん命名)も何事なく終わった。
そのおかげで、こうして出発目前まで事を進めることができたとも言えるのだが。
……ティンにというのが間違いだった。
ティンの存在を知っていたアリスが、自分たちの脱出成功のために、ティンと協力関係を作っていたのだ。
『勇者出発』という広告を秘密裏に作成し、配っていた。これが事実である。
本当に、なんとも言えぬほどティン向けのミッションだ。おかげでもう町の外だと。
それによる影響がこれ。広告を見た人々は、俺たちに期待とか何だとかかんだとか、それぞれがすごくキラキラした眼差しを向けてくる。
そのせいで俺はとっても機嫌が悪い。
まったく、せっかくの静かな旅立ちが台無しだ。本当にそう叫びたい気分である。
その一方で、リアは「崇めよ~、称えよ~」なんて言って、調子に乗っている。
爺さんたちもノリノリである。ちゃっかり寄付金なんか集めていやがる。
俺以外全員ハッピーな状況なのも、またムカつく。
そんでもって、今のこの歓声が起こっている。
……マジでムカつく。
「ええ、皆さん。ついにこの日がやってきました。」
爺さんがありふれた言葉で語り始めた。
「本日、ついに『勇者』様方が旅立たれます。新たなる時代を切り開いてくれるであろうこのお二方の名は、カナタ様とリア様!盛大な拍手で旅立ちを称えましょう。皆さん拍手!」
爺さんの声に合わせ、パチパチと響く拍手が、歓声に交じって飛び交い始めた。
辺り一面が自分のオーディエンスだと思うと、何だか面倒になってくる。
「それでは、お2人からお言葉を。」
爺さんがこっちに話を振ってくる。
面倒だなと思い、言葉を躊躇っていると、リアが一歩前に出た。
「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」
急にリアが至近距離で叫んだため、少しばかり耳をおさえる。
各々が好き勝手に騒いでいた広場も、たった一言で驚きと不安に包み込まれた。
リアの好き勝手はあまり嬉しくないが、今回は褒めてやりたい。
そう思ったのだが……、
「あなたたちが心配するほど、私は弱くないわよ。私がかなわないやつなんかいないっ!」
あーあ……、
「私は世界最強の『魔……、じゃなくて、『勇者』よっ!だから安心しなさいっ!」
『魔王』と言ってはいけない自覚はあったらしく、最悪の事態は免れたようだ。
しかし、リアの言葉により、オーディエンス諸君が興奮気味になってしまった。「さすがだー」とか、「かっこいいー」とかいう歓声がガンガンと響いている。
リアもこいつらも、皆揃ってテンションアゲアゲらしい。ますます面倒なのは、言うまでもない。
「あ、そうだ。もう1つ言い忘れてたことがあったわ。」
「ん、どうかしたのか?」
「いやー……、この私でも言いにくいことなんだけど……。」
ちょっとだけ後ろを向きながら、リアが話し出す。
「カナタ……、」
急だった。
名前で呼ばれるのには慣れている。だが、リアに名前を呼ばれることなど、あったか無かったかも分からない。
しかも、あの『魔王』様である。
まぁ、少しは心に響くもんだな。
「ごめん……、」
は?
今、コイツ謝ったのか?
コイツ、おかしくなったのか?
コワい……、何だかコワい。
そっと、リアがこちらに近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと。
止めろ。近づくなったら近づくな。
何だか恐ろしい。
止めてくれ、マジで嫌だ、助けて、ヘルプ!
止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!
「これ、燃やそうと思ったけど、返す……。」
「へ?」
「だーかーらー、返すっつってんでしょ!この少女趣味の変態!」
そう言って、リアが投げてきたのは……、
「あぁぁーーー!俺の……、俺のルーンちゃん!」
俺のなくしてたラバーストラップ。
この1つ前の世界で、桃香と共に1週間以上探し回ってた俺の宝物。
元の元の……つまり俺の完全なる故郷で、超が付くほどの大人気だったアニメのラバスト。しかも、限定500個しか販売されていない。
俺が召喚される前のネットオークションでのお値段は、なんと50万。
まさに、俺の家宝。
だが、それを何で?
「何でお前が?」
「うっさい!あなたと戦った後に、変なものが落ちてたから拾ったのよ。あと少ししたら焼却炉行きだったわ。」
「焼却炉!?」
ひどい……。
俺のルーンちゃんを。
がっくりとして、その場に膝をついてしまう。
だって焼却炉だぜ。ルーンちゃんが燃えるんだぜ。考えたくねぇ……。
だけど……、
「帰ってきたぁぁぁーーーーーー!ありがとうございますぅー!」
「なっ、何か変な口調になってるわよ!」
いつもとは全く逆の反応にリアも困り果てる。
まさに、立場が逆転した2人。カナタがボケで、リアがツッコミだ。
「はぁー。生き返るぅー。ルーンちゃんがカムバーック。」
それでも『勇者』はこれである。『魔王』にあきれられる『勇者』は、本当に『勇者』と呼べるのだろうか。
「さぁーて、野郎どもぅ!我が最愛なる月の女神様が帰ってきた今、俺は最強・無敗・無敵の三拍子だ!『勇者』である俺に救われる準備はできてるかぁー!」
再び歓声に飲まれる2人。今度は完全にリアが被害者だ。
リアはもう手が付けられないと悟ったらしく、腕を組んで溜息をついている。
そんな中、爺さんがこっちに近づいてきた。
「あの、そろそろお時間……。」
「ああ、そうだな!おい、野郎ども!ここで俺の帰還を楽しみに待っていろ!俺は必ずや、世界を救ってみせるからな!」
調子に乗って、村人たちに叫ぶカナタ。
旅立ってもいないのに、すでに勝利宣言をしているようなものである。
その証拠に、オーディエンスも爺さんもリアも。おまけに、隠れて聞いている3人も。カナタのハイテンションについていけない。
「行くぞ、リア!俺たちの最強までの道のりが、すぐそこに待っている!」
カナタは街に背を向け、リアの手を引いた。
急だったために、リアは少し体制を崩しかけてしまう。
「ちょっと、カナタっ!何で急に私の手を握るのよっ!ばかっ!」
リアは、少しばかり照れながらも、言葉でカナタに反撃する。
でもそれは、決して怒りの言葉ではない。
「…でもっ!」
『魔王』として、そして『勇者』として。
カナタに対する覚悟なのだから。
「今のあなたは十分にカッコいい主人公よっ!気に入ったわ!この世界でだけ、あなたの相棒になってあげる。だから世界、守っちゃいなさいっ!」
「もちろんだっ!」
2人は道を突き進む。
世界を守るために。
後ろは振り返らない。
戻ったときに、再び戦うために。
そして……、
2人でこの世界の、最強になるために。
冒険の始まり編はこのお話でラストです。次回からいよいよ新編突入になります。
年末に向けて、スパートかけていきます。よろしくお願いします。




