表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨日の敵は今日の〇〇??  作者: 蓮野ツバキ
冒険の始まり編
11/22

第11話 昨日のルーンは今日の覚悟!!

 拝啓、斎藤桃香様。

 俺は今、再び『勇者』として、旅立とうとしています。

 もちろん、1人ではありません。

 元『魔王』(笑)リア。忍者っぽい忍者ティン。獣耳っ娘紅葉(もみじ)たん。ヤンデレ姫アリス。この4人が今の仲間です。

 頼れるかどうかはさておき、とてもいい人たちであるのは、ほぼ確実だ。(『魔王』様除く。)

 ここからの冒険がどうなっていくかなんて分からない……。でも、きっといつか帰れるだろう。

 ……なにせ、最重要パーティの1つになって、旅立ったのだから。

 くれぐれも、桃香は死なないでくれよ。






 歓声があたり一面に響いている。

 俺たちのパーティ……いや、正確には俺とリアの2人の『勇者』が旅立つのに、多くの人間が駆け付けた。

 まぁ、多くの人物は知らないんだが、それだけの期待があるってことだろう。

 こうなってしまったのは、他でもないアリスさんのせいなのだ。


 時は、数時間前に(さかのぼ)る。

 アリスが俺の仲間になった後、アリスと爺さんを連れて来た道を戻ったんだが、それが問題だったのだ。

 アリス(いわ)く、「見つかったら『変態確定』」と主張してくるので、部屋に到着する前に、ティンの力を借りて脱出させる予定だったのだが、それが逆に不幸を招いてしまった。

 もちろん、ティンの力を借りることも、爺さんとの『勇者会議』(爺さん命名)も何事なく終わった。

 そのおかげで、こうして出発目前まで事を進めることができたとも言えるのだが。

 ……ティンにというのが間違いだった。

 ティンの存在を知っていたアリスが、自分たちの脱出成功のために、ティンと協力関係を作っていたのだ。

 『勇者出発』という広告を秘密裏に作成し、配っていた。これが事実である。

 本当に、なんとも言えぬほどティン向けのミッションだ。おかげでもう町の外だと。

 それによる影響がこれ。広告を見た人々は、俺たちに期待とか何だとかかんだとか、それぞれがすごくキラキラした眼差しを向けてくる。

 そのせいで俺はとっても機嫌が悪い。

 まったく、せっかくの静かな旅立ちが台無しだ。本当にそう叫びたい気分である。

 その一方で、リアは「崇めよ~、称えよ~」なんて言って、調子に乗っている。

 爺さんたちもノリノリである。ちゃっかり寄付金なんか集めていやがる。

 俺以外全員ハッピーな状況なのも、またムカつく。

 そんでもって、今のこの歓声が起こっている。



 ……マジでムカつく。



「ええ、皆さん。ついにこの日がやってきました。」


 爺さんがありふれた言葉で語り始めた。


「本日、ついに『勇者』様方が旅立たれます。新たなる時代を切り開いてくれるであろうこのお二方の名は、カナタ様とリア様!盛大な拍手で旅立ちを称えましょう。皆さん拍手!」


 爺さんの声に合わせ、パチパチと響く拍手が、歓声に交じって飛び交い始めた。

 辺り一面が自分のオーディエンスだと思うと、何だか面倒になってくる。 


「それでは、お2人からお言葉を。」


 爺さんがこっちに話を振ってくる。

 面倒だなと思い、言葉を躊躇(ためら)っていると、リアが一歩前に出た。


「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


 急にリアが至近距離で叫んだため、少しばかり耳をおさえる。

 各々が好き勝手に騒いでいた広場も、たった一言で驚きと不安に包み込まれた。

 リアの好き勝手はあまり嬉しくないが、今回は褒めてやりたい。

 そう思ったのだが……、


「あなたたちが心配するほど、私は弱くないわよ。私がかなわないやつなんかいないっ!」


 あーあ……、


「私は世界最強の『魔……、じゃなくて、『勇者』よっ!だから安心しなさいっ!」


 『魔王』と言ってはいけない自覚はあったらしく、最悪の事態は免れたようだ。

 しかし、リアの言葉により、オーディエンス諸君が興奮気味になってしまった。「さすがだー」とか、「かっこいいー」とかいう歓声がガンガンと響いている。

 リアもこいつらも、皆揃ってテンションアゲアゲらしい。ますます面倒なのは、言うまでもない。


「あ、そうだ。もう1つ言い忘れてたことがあったわ。」

「ん、どうかしたのか?」

「いやー……、この私でも言いにくいことなんだけど……。」


 ちょっとだけ後ろを向きながら、リアが話し出す。


「カナタ……、」


 急だった。

 名前で呼ばれるのには慣れている。だが、リアに名前を呼ばれることなど、あったか無かったかも分からない。

 しかも、あの『魔王』様である。


 まぁ、少しは心に響くもんだな。


「ごめん……、」


 は?

 今、コイツ謝ったのか?

 コイツ、おかしくなったのか?

 コワい……、何だかコワい。


 そっと、リアがこちらに近づいてくる。

 ゆっくりと、ゆっくりと。


 止めろ。近づくなったら近づくな。

 何だか恐ろしい。

 止めてくれ、マジで嫌だ、助けて、ヘルプ!

 止めろおぉぉぉぉぉぉぉぉ!


「これ、燃やそうと思ったけど、返す……。」

「へ?」

「だーかーらー、返すっつってんでしょ!この少女趣味の変態(ロリコン)!」


 そう言って、リアが投げてきたのは……、


「あぁぁーーー!俺の……、俺のルーンちゃん!」


 俺のなくしてたラバーストラップ。

 この1つ前の世界で、桃香と共に1週間以上探し回ってた俺の宝物。

 元の元の……つまり俺の完全なる故郷で、超が付くほどの大人気だったアニメのラバスト。しかも、限定500個しか販売されていない。

 俺が召喚される前のネットオークションでのお値段は、なんと50万。

 まさに、俺の家宝。

 だが、それを何で?


「何でお前が?」

「うっさい!あなたと戦った後に、変なものが落ちてたから拾ったのよ。あと少ししたら焼却炉行きだったわ。」

「焼却炉!?」


 ひどい……。

 俺のルーンちゃんを。


 がっくりとして、その場に膝をついてしまう。

 だって焼却炉だぜ。ルーンちゃんが燃えるんだぜ。考えたくねぇ……。

 だけど……、


「帰ってきたぁぁぁーーーーーー!ありがとうございますぅー!」

「なっ、何か変な口調になってるわよ!」


 いつもとは全く逆の反応にリアも困り果てる。

 まさに、立場が逆転した2人。カナタがボケで、リアがツッコミだ。


「はぁー。生き返るぅー。ルーンちゃんがカムバーック。」


 それでも『勇者』はこれである。『魔王』にあきれられる『勇者』は、本当に『勇者』と呼べるのだろうか。


「さぁーて、野郎どもぅ!我が最愛なる月の女神様が帰ってきた今、俺は最強・無敗・無敵の三拍子だ!『勇者』である俺に救われる準備はできてるかぁー!」


 再び歓声に飲まれる2人。今度は完全にリアが被害者だ。

 リアはもう手が付けられないと悟ったらしく、腕を組んで溜息をついている。


 そんな中、爺さんがこっちに近づいてきた。


「あの、そろそろお時間……。」

「ああ、そうだな!おい、野郎ども!ここで俺の帰還を楽しみに待っていろ!俺は必ずや、世界を救ってみせるからな!」


 調子に乗って、村人たちに叫ぶカナタ。

 旅立ってもいないのに、すでに勝利宣言をしているようなものである。

 その証拠に、オーディエンスも爺さんもリアも。おまけに、隠れて聞いている3人も。カナタのハイテンションについていけない。


「行くぞ、リア!俺たちの最強までの道のりが、すぐそこに待っている!」


 カナタは街に背を向け、リアの手を引いた。

 急だったために、リアは少し体制を崩しかけてしまう。


「ちょっと、カナタっ!何で急に私の手を握るのよっ!ばかっ!」


 リアは、少しばかり照れながらも、言葉でカナタに反撃する。

 でもそれは、決して怒りの言葉ではない。


「…でもっ!」


 『魔王』として、そして『勇者』として。

 カナタに対する覚悟なのだから。


「今のあなたは十分にカッコいい主人公よっ!気に入ったわ!この世界でだけ、あなたの相棒になってあげる。だから世界、守っちゃいなさいっ!」

「もちろんだっ!」


 2人は道を突き進む。

 世界を守るために。

 後ろは振り返らない。

 戻ったときに、再び戦うために。


 そして……、



 2人でこの世界の、最強になるために。

冒険の始まり編はこのお話でラストです。次回からいよいよ新編突入になります。

年末に向けて、スパートかけていきます。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ