第10話 昨日の話は今日の預言??
これは、遠い遠い昔のこと。
とある街はずれの村に、1人の娘が住んでいました。
娘には、家族も友もいない。周りにいる人も、誰でもない。
それゆえ、何も知らない。何も分からず、何もできない。
ただそこにいる。それだけの娘であったのです。
そんなある日の事。1人の青年が話しかけてきました。
「なぁ。君はそこで何をしている?」
青年は、この娘を見て不安に思ったのです。
もちろん、この娘には言葉が分かりません。
娘は少しずつですが、答えようとしました。
「わたしは。なにして、ない。ここいる。」
青年は、その娘を助けようと思い、連れてゆく事を決意しました。
ですが、娘は何も感じませんでした。苦しさも、悲しさも。
それを知らない青年は、何度も何度も娘と喧嘩しました。
そうするうち、娘は青年を尊敬するようになりました。
少しずつ打ち解けていく2人。ついには、互いを信じ合うようになりました。
ですが、そんな日々も束の間、大きな戦争が起こりました。
2人は必死に生き抜きました。
ある時には、銃声が鳴り響き、燃え盛る町を越え、またある時には、剣がぶつかる音を聞きながら国境を走り抜けました。
そんな日々の中、娘に悲しみの感情が芽生えました。
どうしてこんなに苦しいのだろう。そう考えていた娘はついに、体までも傷つくようになりました。
青年は驚きました。心のない機械のようであった娘が、こんなにも感情的になったからだ。
だが、このままでは危ない。それは青年もよく分かっていました。
そんな青年の前に、預言の神が現れました。
『娘の命が危ない。救いたければ、時空の神に祈りを。』
青年は必死に走りました。
そして、1日もしないうちに神殿に辿り着きました。
「神よ。我が前に顕現せよ。」
青年の呼びかけに神が応えました。
『汝、大切なものを感じよ。それが救いなる力なり。』
青年は急いで娘の元に戻ろうとしました。
しかし、もうすでに遅かったのです。
「悲シイカラ……、壊ス……。モウ……、何モイラナイ。」
青年は考えました。どうすればこの世界は救われるか。そして、どうすれば娘を助け出せるのか。
ですが、答えは一つしか見つかりませんでした。
「我が最愛なる者よ。世界を救うため、無に帰ろう。そして再び、結ばれよう。いつか……、必ず。」
青年は娘を切りました。そして、青年自身も……。
この姿を見て、人々の戦争は終わりました。平和な時代に戻ったのです。
そして人々は祈りました。2人の『真なる勇者』に。いつか願いが叶うようにと。
「いかがでしたか?私のお話は。」
天真爛漫な美少女です。と言わんばかりに、こっちに笑顔を見せてくるアリス。
腹の底から怒りが湧いてきそうな、そんな話を聞いたばかりなのに、追い打ちをかけてくる。
「なんつーか。暗い話だったな。あと、お話って普通は「めでたしめでたし」的なフレーズで締めくくらないか?」
本当に、何とも言い難い。だって、バッドエンドみたいなもんだからな。
それに、このタイミング。……これって拷問の一種か何かなのか?
「反応としては正しいと思います。確かに答えにくいです。」
すでに納得しているようで、何も言い返そうとしない。さっきまでの勢いは、どこに行ってしまったのやら。
「それで、結局のところは何が言いたい?目的があるから話したんだろ。」
「はい、ここからが本題です。」
アリスの目が暗くなった。それが何を意味するのか。聞かなくても分かる答えである。
「あなたは、このお話を信じますか?」
信じる……か。
物語はフィクションとノンフィクション、この2つが基本だ。だがこの話は、判断する要素があるとは言えない。つまり、自分自身がどうか。それだけが問題なのである。
考えに考える。この物語の意味を。そうしなければ、アリスの真意は分からない。
そして、俺が出した答えは……。
「答えはYESだ。そうでなきゃ、俺に話した意味がない。それに、『お話を信じますか』って聞いてくる時点で、他とは何か違うものなんだろ。」
そう、これはお話だ。勇者に言う=現実ですってパターンだ。超がつくほどベタ。ホントにベタ。
「そんな言い方ひどいです。……でも、一応正解です。」
なんとか正しい答えを出せたようだ。
これで間違ってたら、アホだ。もしかしたら、3日ぐらい人に会えないぐらい恥ずかしい。
「実話と言うのもそうですが、このお話は一部の人にしか知られていないんです。」
「なら、わざわざ話す必要があったのか?」
「ありますっ!……っていうか、ありすぎですっ!」
興奮気味に体を乗り出すアリス。そのせいで、胸のあたりが見えそうになってしまう。
また変な罪を着せられないためにも目を逸らし、怪しまれないように話を続ける。それが、俺にできるすべてである。
「分かったから、早く説明してくれ。……頼む。」
「何を気にしていたのか分かりませんが、まぁいいです。」
どうにか座らせることができた。良い意味でも、悪い意味でもセーフ。俺は何も悪くない。
「この話をした理由はたった1つです。それは、あなたが世界を救わなければならないからです。」
は?
「あの、……この世界に来て1番最初に聞いた事なんですけど。」
「そこ重要!テストにはでないけど1番重要!」
「はい!」
なんか、気分的に先生みたいだ。
そしてやっぱり、この世界でも子どもたちの天敵は存在するらしい。
「あなたはいつか、この人と同じ宿命になります。なぜなら、今までの勇者もそうだったからです。」
「同じ……ってことは……、」
言葉に詰まってしまう。こんなの俺でもビビるわ。
「俺と俺の大切なやつが、消えるってことなのか……。」
「はい、残念ながら。しかも今回は、戦争が起こりそうなところまで同じです。それを、伝えなければ……と。」
マジか……、俺って死ぬのか。そんな事、考えてもみなかった。
いや、それこそ異世界の恐怖を考えてなかっただけか。
どちらにせよ、ヤバいってことだ。
「偶然にも、私から話に行く前にこうやって話してしまったのも、少し危険です。」
忠告を、吐き出すように伝えられる。でも、言っていることは正しいようだ。
「ああ、そうかもな。」
……終わった。この世界での『勇者』ライフのおしまいだ。
ついて3日も経たないで『死確定』って、俺ってば、結局のところはダメな人間なのかもな。
いっその事、『勇者』止めよっかなー。そしたら生きられるかも。
そんなことを考えていると、突如アリスが変なことを言い出した。
「……なので、私も行きます!」
はい?わっつはっぷん?
なんでそーなんの?
「ですから、この私がついてくって言ってるんです!」
「いや、だって俺、死ぬんだぞ。恐くないのか?」
「……ん…です。」
「え?」
「本望ですーーーーーーーーーー!!!!!」
アリスが大声で叫ぶ。
急だったので、耳を抑え損ねた。ちょっと耳が痛い。
「私、『緋境』の天子なんです。だから、閉じ込められてるんです。」
「ちょっ、ストップ。『緋境』とか天子とか、まったく意味分からん。」
アリスの話に待ったをかける。分からないことは、分かる人に聞く……、小学校の恩師から教わったことだ。まぁ、今何してんだか知らんが。
「うーん。場所の名前と、それを担当する人って感じですね。世界にいくつかあって、『勇者』の召喚に必要不可欠な存在なんです。」
「……それ、……抜けたらヤバいやつじゃん。」
このパターンでいくと、たぶん世界が崩壊の危機になる。
……しかも、たったそれだけの理由で。あの恐ろしい話の意味もゼロにして。
「ヤバくないです。一度『勇者』を召喚してしまうと、しばらく召喚はできないので大丈夫です。私が保証します。」
またもや心を読まれたのか、自信たっぷりの眼差しをこちらに向けるアリス。
心を読む能力……つまり、だいたいの情報は彼女の手の中なのである。
それを駆使すれば、どんなことも判断がつくわけだ。
よって、この情報も正しい。そう考えてもおかしくないレベルにアリスはいるのかもしれない。
「それに私、あなたにえっちなことをされました。なのでお嫁にいけません。」
「そんなことしてねぇ!」
俺の言葉にギロッとして目を向けられた。……引き下がるしかないようだ。
「すみません、反省してます。」
「惜しかったですね。あと1秒で、『少女にいじめられながら生きよ!ドMになろう!セット』の刑でした。」
それはいけない、いろんな意味で。
一部からの人気は絶大なんだろうが、俺は勘弁だ。
「それはそうと、あなたの世界では仮釈放というものがあるそうですね。」
あっ、いけない。情報読まれた。
「なので代わりに、その処分にいたします。私の監視つきで。」
なるほど。それなら簡単についていける理由ができると。
面倒だが、正直俺も楽な方法だ。今の俺にとって、1番正しい選択なのかもしれない。
すでに3人仲間がいるが、紅葉に戦闘行為はさせたくない。そうなると、1人でも戦力が増えると心強い。
あの、巫女さんだかなんだかも、訳の分からない称号だが、なんか強さを秘めている気がする。
「……分かった、この話乗った。アリスが嫌になるまでついてこい。……いや、ついてきてください……。」
またやってしまった。しかも今度は、相当お怒りのご様子で。
「はい。『私が嫌になるまで』ご一緒します。『変態未遂』のカナタさん♪」
…………やっぱり、そうなるよな。
次回、旅立ち。
ここからまだまだ盛り上げていきます。




