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昨日の敵は今日の〇〇??  作者: 蓮野ツバキ
冒険の始まり編
10/22

第10話 昨日の話は今日の預言??

 これは、遠い遠い昔のこと。

 とある街はずれの村に、1人の娘が住んでいました。

 娘には、家族も友もいない。周りにいる人も、誰でもない。

 それゆえ、何も知らない。何も分からず、何もできない。

 ただそこにいる。それだけの娘であったのです。

 そんなある日の事。1人の青年が話しかけてきました。

 「なぁ。君はそこで何をしている?」

 青年は、この娘を見て不安に思ったのです。

 もちろん、この娘には言葉が分かりません。

 娘は少しずつですが、答えようとしました。

 「わたしは。なにして、ない。ここいる。」

 青年は、その娘を助けようと思い、連れてゆく事を決意しました。

 ですが、娘は何も感じませんでした。苦しさも、悲しさも。

 それを知らない青年は、何度も何度も娘と喧嘩しました。

 そうするうち、娘は青年を尊敬するようになりました。

 少しずつ打ち解けていく2人。ついには、互いを信じ合うようになりました。

 ですが、そんな日々も束の間、大きな戦争が起こりました。

 2人は必死に生き抜きました。

 ある時には、銃声が鳴り響き、燃え盛る町を越え、またある時には、剣がぶつかる音を聞きながら国境を走り抜けました。

 そんな日々の中、娘に悲しみの感情が芽生えました。

 どうしてこんなに苦しいのだろう。そう考えていた娘はついに、体までも傷つくようになりました。

 青年は驚きました。心のない機械のようであった娘が、こんなにも感情的になったからだ。

 だが、このままでは危ない。それは青年もよく分かっていました。

 そんな青年の前に、預言の神が現れました。

 『娘の命が危ない。救いたければ、時空の神に祈りを。』

 青年は必死に走りました。

 そして、1日もしないうちに神殿に辿り着きました。

 「神よ。我が前に顕現せよ。」

 青年の呼びかけに神が応えました。

 『汝、大切なものを感じよ。それが救いなる力なり。』

 青年は急いで娘の元に戻ろうとしました。

 しかし、もうすでに遅かったのです。


 「悲シイカラ……、壊ス……。モウ……、何モイラナイ。」


 青年は考えました。どうすればこの世界は救われるか。そして、どうすれば娘を助け出せるのか。

 ですが、答えは一つしか見つかりませんでした。

 「我が最愛なる者よ。世界を救うため、無に帰ろう。そして再び、結ばれよう。いつか……、必ず。」

 青年は娘を切りました。そして、青年自身も……。

 この姿を見て、人々の戦争は終わりました。平和な時代に戻ったのです。

 そして人々は祈りました。2人の『真なる勇者』に。いつか願いが叶うようにと。






「いかがでしたか?私のお話は。」


 天真爛漫な美少女です。と言わんばかりに、こっちに笑顔を見せてくるアリス。

 腹の底から怒りが湧いてきそうな、そんな話を聞いたばかりなのに、追い打ちをかけてくる。


「なんつーか。暗い話だったな。あと、お話って普通は「めでたしめでたし」的なフレーズで締めくくらないか?」


 本当に、何とも言い難い。だって、バッドエンドみたいなもんだからな。

 それに、このタイミング。……これって拷問の一種か何かなのか?


「反応としては正しいと思います。確かに答えにくいです。」


 すでに納得しているようで、何も言い返そうとしない。さっきまでの勢いは、どこに行ってしまったのやら。


「それで、結局のところは何が言いたい?目的があるから話したんだろ。」

「はい、ここからが本題です。」


 アリスの目が暗くなった。それが何を意味するのか。聞かなくても分かる答えである。


「あなたは、このお話を信じますか?」


 信じる……か。

 物語はフィクションとノンフィクション、この2つが基本だ。だがこの話は、判断する要素があるとは言えない。つまり、自分自身がどうか。それだけが問題なのである。

 考えに考える。この物語の意味を。そうしなければ、アリスの真意は分からない。

 そして、俺が出した答えは……。


「答えはYESだ。そうでなきゃ、俺に話した意味がない。それに、『お話を信じますか』って聞いてくる時点で、他とは何か違うものなんだろ。」


 そう、これはお話だ。勇者に言う=現実ですってパターンだ。超がつくほどベタ。ホントにベタ。


「そんな言い方ひどいです。……でも、一応正解です。」


 なんとか正しい答えを出せたようだ。

 これで間違ってたら、アホだ。もしかしたら、3日ぐらい人に会えないぐらい恥ずかしい。


「実話と言うのもそうですが、このお話は一部の人にしか知られていないんです。」

「なら、わざわざ話す必要があったのか?」

「ありますっ!……っていうか、ありすぎですっ!」


 興奮気味に体を乗り出すアリス。そのせいで、胸のあたりが見えそうになってしまう。

 また変な罪を着せられないためにも目を()らし、怪しまれないように話を続ける。それが、俺にできるすべてである。


「分かったから、早く説明してくれ。……頼む。」

「何を気にしていたのか分かりませんが、まぁいいです。」


 どうにか座らせることができた。良い意味でも、悪い意味でもセーフ。俺は何も悪くない。


「この話をした理由はたった1つです。それは、あなたが世界を救わなければならないからです。」


 は?


「あの、……この世界に来て1番最初に聞いた事なんですけど。」

「そこ重要!テストにはでないけど1番重要!」

「はい!」


 なんか、気分的に先生みたいだ。

 そしてやっぱり、この世界でも子どもたちの天敵は存在するらしい。


「あなたはいつか、この人と同じ宿命になります。なぜなら、今までの勇者もそうだったからです。」

「同じ……ってことは……、」


 言葉に詰まってしまう。こんなの俺でもビビるわ。


「俺と俺の大切なやつが、消えるってことなのか……。」

「はい、残念ながら。しかも今回は、戦争が起こりそうなところまで同じです。それを、伝えなければ……と。」


 マジか……、俺って死ぬのか。そんな事、考えてもみなかった。

 いや、それこそ異世界の恐怖を考えてなかっただけか。

 どちらにせよ、ヤバいってことだ。


「偶然にも、私から話に行く前にこうやって話してしまったのも、少し危険です。」


 忠告を、吐き出すように伝えられる。でも、言っていることは正しいようだ。


「ああ、そうかもな。」


 ……終わった。この世界での『勇者』ライフのおしまいだ。

 ついて3日も経たないで『死確定』って、俺ってば、結局のところはダメな人間なのかもな。

 いっその事、『勇者』止めよっかなー。そしたら生きられるかも。

 そんなことを考えていると、突如アリスが変なことを言い出した。


「……なので、私も行きます!」


 はい?わっつはっぷん?

 なんでそーなんの?


「ですから、この私がついてくって言ってるんです!」

「いや、だって俺、死ぬんだぞ。恐くないのか?」

「……ん…です。」

「え?」

「本望ですーーーーーーーーーー!!!!!」


 アリスが大声で叫ぶ。

 急だったので、耳を抑え損ねた。ちょっと耳が痛い。


「私、『緋境(ひきょう)』の天子(てんし)なんです。だから、閉じ込められてるんです。」

「ちょっ、ストップ。『緋境(ひきょう)』とか天子(てんし)とか、まったく意味分からん。」


 アリスの話に待ったをかける。分からないことは、分かる人に聞く……、小学校の恩師から教わったことだ。まぁ、今何してんだか知らんが。


「うーん。場所の名前と、それを担当する人って感じですね。世界にいくつかあって、『勇者』の召喚に必要不可欠な存在なんです。」

「……それ、……抜けたらヤバいやつじゃん。」


 このパターンでいくと、たぶん世界が崩壊の危機になる。

 ……しかも、たったそれだけの理由で。あの恐ろしい話の意味もゼロにして。


「ヤバくないです。一度『勇者』を召喚してしまうと、しばらく召喚はできないので大丈夫です。私が保証します。」


 またもや心を読まれたのか、自信たっぷりの眼差(まなざ)しをこちらに向けるアリス。

 心を読む能力……つまり、だいたいの情報は彼女の手の中なのである。

 それを駆使すれば、どんなことも判断がつくわけだ。

 よって、この情報も正しい。そう考えてもおかしくないレベルにアリスはいるのかもしれない。


「それに私、あなたにえっちなことをされました。なのでお嫁にいけません。」

「そんなことしてねぇ!」


 俺の言葉にギロッとして目を向けられた。……引き下がるしかないようだ。


「すみません、反省してます。」

「惜しかったですね。あと1秒で、『少女にいじめられながら生きよ!ドMになろう!セット』の刑でした。」


 それはいけない、いろんな意味で。

 一部からの人気は絶大なんだろうが、俺は勘弁だ。


「それはそうと、あなたの世界では仮釈放というものがあるそうですね。」


 あっ、いけない。情報読まれた。


「なので代わりに、その処分にいたします。私の監視つきで。」


 なるほど。それなら簡単についていける理由ができると。

 面倒だが、正直俺も楽な方法だ。今の俺にとって、1番正しい選択なのかもしれない。

 すでに3人仲間がいるが、紅葉に戦闘行為はさせたくない。そうなると、1人でも戦力が増えると心強い。

 あの、巫女さんだかなんだかも、訳の分からない称号だが、なんか強さを秘めている気がする。


「……分かった、この話乗った。アリスが嫌になるまでついてこい。……いや、ついてきてください……。」


 またやってしまった。しかも今度は、相当お怒りのご様子で。


「はい。『私が嫌になるまで』ご一緒します。『変態未遂』のカナタさん♪」


 …………やっぱり、そうなるよな。

次回、旅立ち。

ここからまだまだ盛り上げていきます。

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