第11話 俺の両親
俺は、別室の来賓室に連れられて来た。
目の前には、玉座に座った魔王なのか美系で威厳を漂わせては居るが若い
その横には王妃なのだろう、この魔族も若く美しい
王妃の俺を見る目が潤んでいる。
その眼差しはなにか、切なそうで、悲しそうなそれでいて
嬉しそうにも見え、王妃の複雑な胸の内を伺わせるもので
俺は、直視できず、どう対処していいかも解らずに俯いてしまった
ザブルスは俺の後ろに居る、俺が何かしようものなら腕をへし折る勢いだ
「私の可愛い孫。。。私の可愛い孫。。。私の孫。。。孫。。。孫」..と
聞いてしまってからは、魂が抜けたように俺の勢いも削がれてしまった。
何がどうなっているのか、思考は止まってしまっている
侍女らしき、妖魔がお茶を持ってきた。
さすがに、宮廷の侍女は、人族で美系を揃えているようだ
先ほどと待遇は随分違うが、出されたお茶には手を付けず
ただ、目の前にいる、魔族を見つめていた。
目の前に居る、魔族の王と王妃は随分若い
それなのに、俺を「孫」と言った。名前も呼んだ、ありえへん。
見た目で言うと、魔王は20歳位か、王妃は18~19位にしか見えない
俺と歳がそう変わらない位若いのだ。
魔族の寿命はどれぐらいなのだろうか?
年齢は随分いっていても、魔法で若さと美貌を維持しているかもだ。
俺は、曾祖母の安部康子しか知らない、その康子も102歳だった
両親も祖母も亡くなっていて、どうして亡くなったのかも、聞いてはいない
そりゃ、何があったか聞きたかったが、曾祖母の顔が苦しく歪むのを見て
何か、聞いてはいけないような感じがした。
孫と言う事は、俺の父母のどちらかが王族で魔族?。。。と言う事なのか??
魔王の名は、オブライエン、王妃は、サラディーン美しいがその実、魔王なのだ
表面は美しく見せて、油断をさせ、その内実は醜く、残忍、冷酷無比、魔法によって
姿もバランスを取っているのが魔界の王で悪魔と魔王を重ね合わせて見ていた。
だが、俺に見せる表情は実に優しく穏やかで
特にサラディーンは、俺に飛びついて抱擁をしそうな
熱く潤んだ瞳が俺の思考を停止させる。
本当に俺の祖母なのか?
俺が躊躇しているので、その感情を押し殺しているようにさえ見える
俺が、もっと幼かったら、躊躇なくサラディーンは俺を熱く抱擁しただろう
俺は18だ、まして妖魔と戦う立場にある。事実沢山の妖魔を倒してきた。
敵として戦ってきた魔族が。。。。。。。。。。。俺には到底理解できなかった。
俺の血にも魔族の血が流れているのか???
俺が正義と称して、数々の妖魔を倒して来た、俺自身は何だったんだ?
曾祖母がいない今確かめる事も出来ない。
また曾祖母は、どんな思いでこの戦いに俺を巻き込んだ?
と思うと埋める事が出来ないどうしようもない憔悴と疑心暗鬼と怒りがこみ上げて来て
俺はたまらず頭を抱えて「うわあ~~~~~~。」と叫び、その場に崩れ落ちた。
これは、夢だ。
何か、悪い夢を見ている。
うなされて、目が覚めた。汗がビッショリだった。俺はベッドに寝かされていた
辺りを見回すと、ザブルスが椅子に座ったまま寝ていた。
ずっと付いていたのだろうか、いや これは監視なのだ。
いまや、ザブルスだって信用できない。
これから、どうしたらいいんだろう?。。。。。。
何を信じて生きていけばいいんだろう?。。。。。。。
コンコンとノックがして
そこに、サラディーンが入って来た。
美しく、優しい眼差しで、言った。
「猛、信じられない事ばかりだろうけど、貴方が私たちの孫なのは
本当の事なのよ。
私の第一皇子のハンスが人界の安部家の美しい娘沙羅に恋をして周りの大反対を
押しきって生まれたのが貴方なの。」
「それで、俺の父母は、どうして亡くなったのですか?曾祖母も詳しい事は
教えてくれなかったのです。」真実が知りたい、俺は哀願するように尋ねた。
サラディーンも苦悶の表情を浮かべた。。。。
ポツリ、ポツリと言葉を選ぶように話し出した。
「その当時、人間界と魔界は激しく対立していたわ、私たちも統制がとれないほど
あちらこちらで、戦いが勃発していて。。。」
サラディーンの声が涙声になって目が潤んでいた。
「其れからは、私が話そう。」
いつの間にか、オブライエンも来ていた
二人は人界で、幸せに暮していて猛お前が生まれた。
其れを、好ましく思っていない、伯父達が妖魔を引き連れハンス達を襲った
ハンスは並はずれた妖力を持っており、普通なら殺らハンスではないが
卑怯な伯父は、お前と沙羅を誘拐し人質に取った、ハンスは自分の命と引き換えにお前たちを
救おうとした、だが沙羅はハンスの元を離れずに徹だけを結界に包み、
安部康子の元に飛ばしたんだ。」
伯父一派は、オブライエンによって討伐された
しかし、人間界と繋がった事を面白くない輩は多い
あちらこちらで、争いが勃発している、徹を亡きものにしようと
いう動きはいまだにあるとの事だ
オブライエンは壁に、ハンスと沙羅の姿を映し出してくれた。
幼いころに、死に別れたので、父母の事は徹の記憶にはあまりない
壁に映し出された、母沙羅は、若く美しく微笑んでいる
その横には、精悍な顔立ちの、魔王に良く似た、イケメンの父ハンスがいた
その二人の映像は、仲良く幸せそうな姿だ
籐のかごには、生まれて間もない赤ちゃんがいる
あれは俺だろう、2人が覗きこんで、赤ん坊を見て笑顔であやしている
自然と涙が頬を伝う、こんなに幸せな時もあったのだ
母は、幸せだったのだ。
「この映像をそのままにして、暫く一人にしてくれませんか。」
俺は、涙声になりそうになるのを必死で堪え、そう言うと
オブライエンとサラディーンは頷き部屋を出ていった。
ザブルスも俺の肩を軽くポンと叩き出て行った。
俺は、皆が出ていくと、堪えていたものが、押し殺していたものがやがて
関を切ったようにドット溢れ出し声をあげてその映像にすがって泣いた。。。。
俺が知らなかった真実がここにあった。




