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2『『僕』を救ってくれた神様の職業は案外僕の身近にありました』

プロローグ以来のキャラが登場。

まだもう少し続きますので、お付き合い願います。

ところで、神様ってなんで神様って呼ぶんでしょうね。というか、そう呼ぶようになったんでしょうね。謎です。

 

 僕を生き返らせてくれた神様は、人間が好きらしい。


 時に優しく、時に醜い、そんな善も悪も備わっている『中途半端』さが好きなんだそうだ。生まれ故郷の天界の神はいつも『清さ』を求め、逆に悪魔たちは『悪』しか求めなく、そんなゼロか百の世界が苦手で、その為人間界に逃げてきたとのことだった。

 そんな彼女は今、僕の通う学校の保健医なんて可笑しなことをして生活している。


「――って感じで、本当知ちゃん可愛くって……って、先生、ちゃんと聞いてますか?」


「はいはい。聞いてる聞いてる」


「ちゃんと聞いてるわよー」と、先生が言葉返す。けれど、コチラに背を向けながら、机に向かって何やら作業をしているその姿を見るに、あまり真面目に聞いてくれていないことは確かだった。


「ちゃんと聞いてくださいよ。大事な話なんですから」


「……あんたねぇ、一体アタシが何回その『大事』な話とやらを繰り返し聞いてると思ってるわけ?」


 ぐるりと、彼女が座っているワーキングチェアを回してコチラを向いた。

 軽く眉間にシワが寄っている。


「何言ってるんですか。そんな何回も同じ話をしていませんよ、僕は」


「アタシには、どれもこれも同じ話にしか聞こえないっつーの」


 僕の言葉に、彼女は額に軽く手をやりながら疲れたような顔をした。


 先生こと『(みなみ)』先生は、僕の学校の保険医であり、僕を生き返らせてくれた『神様』である。野球とお酒と人間が好きな、どことなく自堕落した感じのする神様だ。

 昼休みも後半になると、僕は彼女のいる保健室に向かう。そこで彼女に、これまで起きた出来事を報告するのが、僕の日課だった。


「毎日毎日、今日は知ちゃんがあーだったのこうだっただの、んで最後は必ず「知ちゃん可愛い」だし? 聞いてて飽き飽きしてくるわ」


「そりゃあ確かに毎日彼女のことを可愛いとは言っていますが、彼女の可愛さは日々違うんです! 可愛いは可愛いでも、そこに込められる意味は毎日違っていて、例えば今日のは――……」


「だぁ! 言わんでいいからっ!」


 熱を込めて説明しようとした瞬間、先生が耳を塞ぎながら大声をあげた。


「はぁー……とりあえず、毎日が充実しているようで何よりだわ」


「えぇ、それはもう」


 心底疲れたような顔しながら言う先生に、僕は心の底より笑みを浮かべながら返した。

 この新しい人生は、前世の僕が得れなかったものを全てくれる。

 仲のいい友人、賑やかな授業風景や、友人たちと馬鹿騒ぎをしたり買い食いをしたりする放課後、家に帰れば帰りが遅いと小言を言ってくるものの、ちゃんと僕を待って夕飯を食べ始める家族たち、――一見してみれば普通と言われる日常ばかりだが、僕にとってはそれがとても嬉しく、とても楽しいものばかりだ。

『沖野昌義』として、僕は今、最高に人生を謳歌している最中なのである。


 ある一つのことを除いては、だけども。


「けどま、アンタの『夢』が叶うのは、当分先になりそうね」


 膝の上に肘をついて頬杖をつきながら言った先生の言葉に、僕は「そうなんですよねぇ……」と肩を大袈裟に落としながら落ち込んだ。


「相変わらず彼女の態度は冷たいままですし……あんなに口説いてるのになぁ」


「どう考えてもそれが悪い気するけどね、あたしゃあ」


 先生の口から、本日二度目となるため息が零れた。

 僕には前世からの『夢』がある。それは、『誰かに愛されたい』という夢だ。

 前世、本物だと思っていた母からの愛が違うと気づいた瞬間、同時に今まで僕は誰にも愛されていなかったのだという事実に気づいた。


 だから、愛されてみたかった。


 愛し、愛され返されたい。そう、前世の最期で僕は願った。そしてそれは、なんの因果か目の前の神様の耳に届き、気まぐれで僕を生き返させてくれたのだ。

 結果として、僕は知ちゃんに出会い、彼女の直向きな『彼』への想いに惚れ、同時に恋焦がれ、自分にもそのような『愛』を向けて欲しいと願うようになった。

 僕は彼女を愛している。だから彼女にも僕を愛して欲しい――それが、今現在の思いだ。


「でも、諦めるつもりは毛頭ありませんから」


 僕は、落ち込んでいた顔からニッコリと満面の笑みに顔を切り替えると、そう口を開いた。


「確かに彼女の態度は相変わらずかもしれませんが、それでも前よりは多少喋ってくれるようにもなったし、本当に嫌なら僕のことを無視でもなんでもすれば良いのにちゃんと反応してくれますし……望みが無いわけではないとは思うんですよね、実際」


「ふぅん……まぁ、アンタがそれでいいんならいいけどさ」


 僕の言葉に、先生がどこかつまらなそうな顔をしながら頭をボリボリと掻いた。

 と、そのとき、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。チャイムにつられるようにして、僕らは壁に掛けられている時計に目をやった。


「あ、やっべ。次の授業移動教室だ」


 思い出した事実に、うげっ、と声を上げながら僕は座っていた椅子から立ち上がった。


「じゃあ、先生。また明日」


「本音言うなら、もう来なくていいって言いたいけどね……あぁ、ちょっと待ちなさいな」


 保健室のドアをガラリと開けたところで、先生が僕を呼び止める。「なんですか?」と、僕は顔だけを先生の方に振り向かせた。


「最後に一個――……前々から思ってたんだけど、アンタさぁ、『沖野昌義』として愛されたいの? それとも『アンタ』として愛されたいわけ?」


「……さぁ、どっちでしょうかね」


「僕は彼女に愛して貰えるなら、別にどちらでも構いませんよ」と、付け足して、僕は保健室を後にしたのだった。


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