その5
先輩と俺は毎日毎日飛び込みで営業をした。最初不審がっていた学校や各店舗も企画の趣旨を説明すると喜んで参加を希望してくれた。
「おーい。お前ら調子はどうだ。」
「あ、チーフもうばっちりですよ。完璧っす。」
「お、それはよかった。企画書のほう見せてくれるか?」
「これです。」
先輩はぶっきらぼうに企画書を渡した。その時、何も知らなかった俺は先輩のチーフに対する態度が理解できなかった。
「お!面白そーじゃねーか。これなら上は大喜びするぞ。沖野の案か?」
「チッチッチ。俺の案ですよ。笹本君。」
「お、前田か。お前やるなー。」
そういって笹本チーフは俺の頭を撫でた。その時、先輩がものすごく嫌そうな顔したのを俺は見てしまった。
「それじゃー、そろそろ失礼します。広行行くぞ。」
そういって、先輩は俺を引っ張りその場を離れた。
プロジェクトが順調に進んで行く中、俺は一つ大きな決意をした。もし、このプロジェクトが成功したら俺は先輩に告白しようと、そんな折一つ大きな問題が起こった。学校側が次々と参加辞退のファックスを送ってきたのだ。
「先輩・・・。今日もまた一校辞退してきました。どうしよう、先輩。どうしよう・・・。」
「俺にもまったくわからねえ。当初あんなにノリ気だったのに、今頃になって何だってんだくそ!!」
「ごめんなさい。先輩、俺が余計なことしなけりゃ。やっぱり、最初の案のほうがよかったんですよ。ごめんなさい・・・。」
「落ち着け!お前の案はいいよ。まだ、あきらめるな。自体が把握できてない。まずは、先方に話を聞きに行こう。」
「先輩・・・。」
「だから、泣くな。ほら、行くぞ。」
「はい。」
各学校を回った結果俺たちは現状を理解した。どの学校も問題は保護者側にあったのだ。田舎独特の保守的な考えが有り、保護者の多くが駅前開発自体に快く思ってないらしく。ましてや、我が子がそこに参加することなど認めたくないとゆう親が大勢いたのだ。それで、学校側も評判を下げないため辞退をするはめとなったのだ。
「先輩・・・。さっき最後の一校からも辞退のファックス送られてきました。やっぱり無謀だったんですよ。」
「ああ。状況はかなり悪い。」
俺達は落胆していた。
「な〜に今にもこの世が終わりそうな顔してるのさ。」
「あ、藤さん・・・。だって、どうしようもないじゃないですか。」
「まだ終わったわけじゃないじゃない。」
「実際厳しいですよ。対処のしようがありません。」
「も〜。沖野君までそんな事言っちゃって。情けないね〜男子共は。実はこの企画すっごい楽しみにしてるんだけどな〜。」
「えっ?」
「私ね。実は昔、デザイナー目指してたの。でも、親の猛反対食らっちゃってさ。あんたは素敵な旦那さん見つけて結婚しなさいっていわれてね。」
「へぇ〜。でも、藤さんいっつも旦那さんの自慢してるじゃないですか?」
「確かに今ではよかったかなって思ってるよ。旦那は優しいし、子供はかわいいしね。でも、時々思うんだ。もし、デザイナーになってたらあたしは今頃どうなってたんだろうってね。後悔してないけど小さなしこりみたいになっててさ。うちに年頃の女の子いるのは知ってるよね。」
「あ、そうだったんですか?」
「先輩知らなかったの?美紀ちゃん、流石藤さんの娘さんだけあってかわいいんですよ。」
「やだ、ヒロ君こんな時まで、お世辞はいいのよ。」
「お世辞じゃないっすよ!」
「アハハ。ありがとうね。それでね。美紀が今、デザインの専門学校行ってるんだ。やっぱ、遺伝子ってやつかな。」
「それじゃ〜。」
「そうなのよ。今回の話、生徒側は大喜びだったの。でも、一部の馬鹿親がさぁ。」
「やっぱりそうなんですね。」
リアルな話を聞いて、俺はたぶん先輩ももうだめか・・・。と、思った。
「それでね、今、美紀が人集めて著名活動してるんだ。いろんな学校回りながらね。まだ数は少ないけど、だから、あんた達はあきらめないでほしいな。」
・・・。俺は先輩のほうを見た。やがて、先輩が。
「広行、行くぞ。」
「行くって、先輩どこへ?」
「ばーか。女の子が足でがんばってるってゆうのに俺らがのんきに座ってるわけいかねーだろ。」
「はい!」
俺達は美紀ちゃんの連絡先を聞くと急いでその場を後にしようとした。
「あんたたちー。」
「はい?」
「やっぱ、あんた達いい男だよ!!」
「藤さんこそお綺麗ですよ〜。」
俺達は口をそろえていった。そして、3人は顔を見合って爆笑した。