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『無色の虹』  作者: 砂糖
2/11

エピソード1 誠一の話その1

小さい頃に、両親と離れ離れになった俺は、親の代わりに、跡取りとして、親の実家で大事に育てられた。


成績優秀は当たり前の世界の中、特に出来の悪い子だった俺は、小・中と先生に目をつけられ、クラスメイトには虐められていた。


家に帰ると毎日のように説教、人一倍負けず嫌いの俺は、何とか1位をとり、周囲を見返してやろうとがんばった。


そのおかげで、高校では地元のそこそこの学校で、1位を取る事が出来た。


俺は、自慢げにその報告をしにいったが、爺と婆は「じゃー。次は、もっといい学校狙いましょうね」と、言って、褒めてくれなかった。


我慢の限界だった。


それから段々と、学校には行かなくなり、部屋に篭る事が多くなった。


唯一の楽しみは、TVのお笑い番組と、PCで、同じお笑い好きの、見知らぬ誰かと、話すことだった。



「ねぇ。君は、お笑い芸人目指さないの?」


ある子にそう言われて、自然と心弾ませてる俺がいた。


考えもしなかった。


自分がTVの中側の人間になるなんて・・・・・・。


それから、日増しに、お笑い芸人になりたい欲求は増えていった。


当時は、俺みたいな人に、一人でも多く、笑顔を作ってもらいたいなどと、語っていたが、今考えると、ただ自分を認めてほしかった、だけなのかもしれない。


俺は、部屋に篭ってる時間を、バイトと、お笑いの研究する時間に費やした。


最初反対してた爺と婆は、いつの間にか諦めたのか、高校だけは卒業するという約束のもと、上京を許してくれた。


約2年、上京資金を貯め高校を卒業し、東京へと駆け出していった。



「1番キットカットです。暗転板付きで、よろしくお願いします」


俺は、お笑いの養成学校に入り、コンビを組み、ネタ見せの毎日を続けた。


いつの間にか、つるむようになった大樹だいきと、カズの3人でいつも行動を共にし、それぞれコンビを組み、ネタ見せをする中、美術館や演劇めぐりなど、ネタの参考になりそうなものを探す毎日を続けた。


「なあなあ、やっぱ今一番おもしれーのは、俺らベーコンエッグバカだよな?」


「あほか、ネタの最初に下ネタって入れるコンビが、一番のわけねーだろ!!」


「えぇ。おっぱーい。おもしれぇじゃん。きもちいいし、なあ?」


「ま、男は好きだよな、おっぱい」


「だろ! 男は好きなんだよおっぱい」


「お前、またカズにいい加減な事を」


「それより、次は水族館いかね?」


「いいねぇ」


ネタ見せでは、それぞれウケる事はなかったが、それでも、充実した毎日が続いていた。


「こないだのウツボ、すげぇ面白かったな」


「確かに。あれ、山田講師そっくりだったし」


「うんうん。今度お前、あれでネタ作れよ」


「バーカ。俺は怒られるような事はしないの」


「大樹様は相変わらず、堅実ですのう。なぁカズ」


「ああ。そうだな」


「なんだお前、元気ねぇじゃん。ババアのオッパイって、はしゃいでたくせに」


「まぁな」


カズはその日、珍しくノリが悪かった。


「へんな奴。そんな事よりさ、次は上野動物園いかね?」


「水族館と、あんまかわんねぇじゃん」


「いあ、あそこ美術館もあるからさ、色々回ろうぜ」


「お! いいね。いつにする?」


「ごめん。俺パス」


初めてだった。


カズが、誘いを断る事など、今まで一度もなかっただけに、俺はたぶん、大樹もだろう、妙に不安だった。


「珍しいな。まさか、彼女でも、出来たんじゃーねーの?」


「うん。実は・・・・・・」


そのまさかだった。


カズはその後、彼女が出来た経緯と、本気で好きな事。


そのために、お笑いを諦めて、就職する事などを話した。


「ハハッ。お前つまんねーと思ってたけど、まさか、そんなにつまんねぇ冗談、言うと思わなかったぜ」


「ごめん。本気なんだ」


「だから、つまんねーって」


俺は、本気でキレ始めた。


「やめろって、カズが本気なら、しょうがねーじゃん! いつまでも、売れないまま、ダラダラとこんな事するより、真面目に働いたほうが、幸せなんだからよ」


「お前までそんな事・・・・・・いいのかよ! 俺らみんなで、お笑いのテッペン目指すって、約束したじゃねーのかよ」


「ごめん」


カズは、申し訳なさそうに言った。


「ごめんじゃねーよ!」


俺は、カズの胸倉をつかんだ。


殴る気はなかったが、気持ちの整理がつかず、どうしようもなかった。


「お前、いい加減にしろよ」


そういって、俺とカズを突き放した。


「いい加減、現実見ろよ! 俺らはお前ほど若くないし、賢い生き方しかできねーんだよ」


俺はその時、何も言えなかった・・・・・・。


自分勝手な事しか思い浮かばず、カズに「おめでとう」の、一言も言えなかった。


次のネタ見せに、大樹もカズも、顔を出さなかった。


その日の俺は、ボロボロで、ウケない所か、ネタも満足に出来なかった。


ネタ見せ終了後、相方に「解散しよう」と言われた。


いつも3人で遊んでた俺は、養成所の奴らに、遅れをとっていた。


どうやらそれが、原因らしい。


M−1が始まる一ヶ月前に、俺はまた・・・・・・。



一人になってしまった。



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