戦い
魔王軍と連合軍の戦いは一時、連合軍が勢いで切り崩し、魔王軍を散々に打ち破った。しかし、次第に戦況は悪化し、現時点では不死身の魔王軍の前で消耗戦を余儀なくされている。
そんな時、衝撃の報告が惑星スイーツから届いた。
火星で任務にあたっていた特殊部隊が全滅したらしい。そして、その部隊を壊滅させたグループが、次は地球を侵略するために向かっているという。
「地球への到着はいつ?」
「三日後です」
(…………)
プリンは内心焦った。
地球では魔王軍、人類連合軍の戦いで大変なのに、新たな第三勢力が現れたら、戦いは泥沼化して収拾のつかない事になってしまう。
「どんなグループなの?」
プリンは少し落ち着きを取り戻し、カラメルに聞いた。
「女帝、シシリアーナ率いる宇宙海賊団、兵数三万。知勇兼備、眉目秀麗の女帝シシリアーナと、死をもおそれぬ、屈強な兵団です。」
(アウトだ…)
冷静に分析しても、地球はどうにもならない。
「私一人じゃどうにもできん。すぐに救援部隊を」
「すでに、こちらにむかっているそうです」
「数は?」
「300」
「少ない!上層部はここを捨てる気でいるのか!」
プリンは怒鳴りつけた。
いくら人工知能に激怒してもしょうがない事はわかっている。
「ちっ…、救援部隊はいつくる?」
「二週間後です」
(はぁ…)
「上層部は私に死ねと言っているようだ。よろしい。魔法少女プリンの死に様とくと見せてしんぜよう」
プリンは皮肉な笑みを浮かべて空を見上げた。
三日後になっても、女帝シシリアーナ率いる宇宙海賊団は現れなかった。
その間、地球では魔王の城を軍隊がびっしりと包囲し睨み合いが続いている。 いくつか小競り合いはあったようだが、大きな戦闘には至っていない。
五日後、人工知能カラメルがシシリアーナの情報を掴み、プリンに報告した。
地球にむかう途上、踏み潰すが如く、小惑星に上陸したシシリアーナは、その小惑星の民族にあっさりと壊滅させられたという。
その民族は、他の惑星との接触を断ち、謎に包まれていて、かろうじてわかっている事は、のべ黄門を首領とする戦闘民族だというくらいである。
誰もが、のべ黄門を軽視した。シシリアーナが油断した、とみた。
まさかこの男が、十数年後全宇宙統一を果たす事になろうとは、本人でさえ想像していなかった。
その日は雲一つない、ぬけるような青空だった。
「死ぬにはいい日だ」
プリンは笑顔でつぶやいた。
三日前に上陸したのべ黄門は、わずか半日で軍隊を壊滅させ、次の日には魔王軍をも滅ぼした。アナーシリは、城内で一人自刃したらしい。
アナーシリが死んだ今、この世に未練はなにもない。プリンは死に場所を探している。
「カラメルはここで待機していなさい」
プリンの瞳は澄んでいて、まっすぐにカラメルを見据えている。
「いいえ、私も行きます。連れて行きたくないのであれば、今ここで私を破壊あそばしませ」
(……驚いたな)
人工知能のカラメルが、主の命をきかないのは初めてだった。
「ふん、勝手にしろ」
プリンは、そっぽをむいて、笑みを隠した。
「さぁ、行こうか」
地球連合軍、魔王軍をうち滅ぼし、地球に居座る異星人の討伐に出発した。無論、ぷりんは勝てる戦とは思っていない。
のべ黄門は魔王の城を乗っ取り、そのままそこを根城としていた。
「ぽぺぷぴぱんてぃー、大砲になぁれ!」
呪文を唱えると、プリンの持つステッキが、黒光りし、重量感のある大きな大砲になった。
「ってーーーーーー」
轟音とともに、城門が大破した。
「うふふ…、どう?この威力!」
誰にともなく、つぶやく。そして、またも狂人の如く叫んだ。
「ってーーーーーーー」
「ってーーーーーーー」
「ってーーーーーーー」
「ってーーーーーーー」
次々と城は破壊されていき、蜂の巣を叩いたかのように、黄門の兵達が出てきた。
「まだまだ!てーーーーー」
「ってーーーーーーー」
兵達は隊列も組まずにあわててプリンのもとへ突撃してくる。
プリンは静かに深呼吸をすると、愛刀「佐治神」をぬいた。
敵は目前に迫る。
「我は魔法少女プリン、貴様ら全員、我と三途の川を渡ろうぞ」
そう叫んで駆け出し、目にも止まらぬ早さで二人を斬り倒していた。
そのまま敵陣の奥深くまで、敵を斬りながら進む。
さすがの愛刀も血脂で斬れなくなり、ついには折れた。
それでも脇差しを抜いて、敵と斬り合った。
戦闘民族と呼ばれる軍団が、一人の少女に恐怖した。
返り血を浴びて、笑みを浮かべる様は、悪鬼そのものだった。
何体斬り殺しただろう。
プリンは体中に、浅いながら無数の刀傷をおい、大量に血を流していた。
(そろそろか…)
めまいがして力が入らない。
カラメルも奮戦していたが、だいぶ前に破壊されている。
〈ボエ~~~ 〉
突如、北東の崖の上から、ほら貝の音が地面を揺らした。
「見事なり!魔法少女プリン!」
大きな低い声が轟く。
みな、崖の上に視線を向けた。
戦場の時が止まり、静まりかえっている。
「我は天下の将軍、徳川家禿!!助太刀いたす!」
そう言って、名乗りをあげた大将格の男が単騎で、崖を駆け降りた。
崖の上では無数の兵が待機している。
「大将首はここじゃ!勇気のある者は、捕りに来い!」
と、激しく怒鳴りつけた。
家禿の挑発だった。
そして、まんまとその挑発にのった黄門軍が、家禿目掛けて駆け出した。
家禿は、すっと扇を天にかざした。
敵が目前に迫った。
すると、扇を力強く振り下ろす。
と、同時に爆音が鳴り響き、辺りには数十の死骸が転がった。
家禿四天王、金丸率いる鉄砲隊の一斉射撃だった。
爆音が鳴り響いたのを合図に、残りの騎馬隊が我先にと、飛び出し敵に躍りかかった。
家禿は常に最前線で、殺せ殺せと兵を叱咤した。
敵は完全に崩れたった。
さらに家禿四天王の「鬼の星虎」や「槍の白田」は城に逃げ散る敵兵を追って散々に首を狩った。
奇跡的に命を拾ったプリンに家禿は近づく。
「お見事でござる!すぐに傷の手当を」
プリンは朦朧とする意識の中で、家禿を睨みつけた。
「勝てない戦と、知ってのご助力か?」
家禿は一瞬驚いた顔を見せると、すぐに無言で笑った。
「余計な事を!」
その一言を最後にプリンは意識を失ったーー。




