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ミカエルとルシファー

「部屋の前は私が見張っておきます。」


と言った幹部は扉の前に立ち、ミカエルは理性の玉のある部屋へと入っていく。念のため、理性の玉は自分の懐に入れておく。イスに座って水晶を見てみると、まだ二人は勉強しているだけのようであった。

 部屋に聞こえてくる戦闘の音が時間がたつにつれ近くなってくる。この部屋まではあと少しだろう。張り詰めた表情でしばらく座っていると、部屋の扉の奥で剣と剣のぶつかり合う金属音が聞こえてきた。しかし、幹部である天使も厳しい戦場を生き抜いてきた者の一人である。並の悪魔では、十人が束になっても突破する事は困難だろう。

 すると突然、扉の向こうで大きな爆音がした。何事かと思い、ミカエルがイスを立ち上がるのと同時に開かれた扉から現れたのは、ミカエルとは対称に、漆黒の鎧を装備し、その上に、白い文字で“欲望”と書かれた黒いマントを羽織った男だった。その背後には、壁にもたれるようにして倒れている天使の幹部の姿があった。


「久しぶりだな、ミカエル。」

「お前は、ルシファー……。」


 魔王、ルシファー。

 その男はミカエルの宿敵とも言える存在だ。


「今日はいつもに比べてあなたが出てくるのが早い気がするのですが、どうしたんですか?」

「気分だ。」

「あなたはいつも気分で出るタイミングを決めていたんですか……。」


 ミカエルは敵のことながら呆れてしまった。


「だが今日は最高のタイミングだったようだな。ここまで来るのに戦ったのは後ろで倒れてる奴とだけだったぞ。」


 そう言ってルシファーは親指で後ろを指す。


「こちらにとっては最悪ですよ。」

「で、理性の玉はいつも通りお前の懐にあるのか?」

「それが一番安全ですからね。」

「それじゃ、早速壊させてもらうぜ。」


 そう言い終えると、暗い闇がルシファーの手に集まり始める。それを見てミカエルも自らの手に光を集めていく。だんだんとそれらは大きくなっていき、二人は同時にその手を前にかざした。その瞬間、二人の間で光と闇がぶつかり合い、城全体を揺るがすほどの衝撃波を生む。

 巻き起こっていた煙が晴れるとそこには、無傷で立っているミカエルと、ボロボロになって床に膝をついたルシファーがいた。


「今日のあなたではまだ私には勝てません。出直してもらいますよ。」


 そう言って、ミカエルがもう一度手に光を集めようとした時だった。

 膝を床についたままでいるルシファーの体の周りに禍々しく恐ろしい、黒いオーラが立ち始めていた。それは徐々に濃く、大きくなっていき、ルシファーの漆黒の鎧が溶け込むような暗さだった。

 ミカエルは反射的に部屋の中央にある水晶を見る。そこに映っていたのは、テーブルの前の座布団の上に座る賢司と、その賢司に身を寄せる妹の姿だった。ミカエルのポカンと開いた口が塞がらない。


 妹もブラコンだったようだ。


 静かに立ち上がったルシファーは両手を前にかざす。その手に集まっている闇は、前に放ったものを遥かに凌ぐものだった。ミカエルも急いで手に光を集めるが、ルシファーの闇には遠く及ばない。 ルシファーはニヤリと笑うと、その両手にある闇を放った。ミカエルも迎え撃つが、その光は簡単に闇に押し切られてしまった。闇がミカエルの身体を包み、その身を滅ぼす。

 懐からこぼれ落ちた紅く輝く理性の玉は、床にぶつかって、キラキラと砕け散った。

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