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理性をかけて

 モニター室。

 空中に飛ばした小型カメラから送られる映像によって、戦況を確認する事ができるこの部屋は今、緊迫感が漂っていた。

 そこに、いざという時のために装備を整えたミカエルがやってきた。白く輝く鎧を装備しており、その上から羽織っている白いマントにはやはり“理性”この二文字が刻まれている。

 彼は部屋に流れる空気の違いに気付いたのだろう。モニター付近で厳しい顔をしている幹部の一人に近づいて尋ねた。


「戦況はどのようになっていますか?」

「ハッ。どうも我々の軍の天使達の様子がおかしく、戦闘力が下がっているようです。モニターから原因を探っていたのですが分からず、調査員を戦場に送りました。もうすぐ戻ってくるでしょう。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「いえ。」


 すると、一人の天使が慌てた様子でモニター室に駆け込んで来た。戦場に出ていた調査員のようだ。


「大変です!城の外で甘い果実のような香りが充満しており、それを吸った天使は身体の力が抜けてしまうようです。悪魔には効果が無い様子でした。」

「そうですか。…………甘い果実のような香りで悪魔には効果が無い……、もしかしたら、賢司さんの妹さんから漂う“女の香り”かもしれませんね。」


 どうやら賢司は、そばで勉強している妹から漂う甘い香りによって理性が脆くなってきているようだ。


「まだ戦況は拮抗しているようですが、このままでは不安が残りますね。何か手を打った方が良いでしょう。」


 しかし、なかなか良い案が出てこない。考えが行き詰まり、モニター室の空気が悪くなっていく、そんなときだった。


『プルルルル プルルルル …………』


 モニター室に設置されたスピーカーから電話の着信音が鳴る。


「この音は……。」

「ミカエル様、どうやら空から聞こえてきているようです。賢司殿の家に電話がかかってきたのだと思われます。」


 モニター室は静かになり、皆が続きを待つ。


  ガチャ


『もしもし、賢司?母さんだけど。…………』


「賢司さんのお母様から電話がかかってきたようですね。」


 その後も賢司の、母親との電話が続く。その時モニターを見ていた天使が戦場の異変に気付き、目を見開く。


「ミカエル様……。」

「どうしたのですか?」悪魔に倒されたはずの天使達が、次々と立ち上がっています!」


 それを聞き、部屋にいる天使達が皆、一斉にモニターを見る。その画面をよく見てみれば、一人、また一人と、悪魔にやられたはずの天使達が立ち上がっていくではないか。そのボロボロの姿は醜くも、どこか勇ましく感じる。


「賢司さんが理性を取り戻していってる……。肉親の声を聞いて我に返っているのですね、賢司さん……。」


 賢司の母の電話により、硬直していた戦況が少しずつ天使の有利に近づいていった。しかし、電話の最後の内容が思わぬ事態を招く。


『……うん。……うん。分かったわ。それで、今日の夜のことなんだけどね。うちの会社に新入社員が入ってきて歓迎会をする事になったのよ。だから今日中には帰れそうにないの。夕飯は自分たちでなんとかしてくれる?……うん。お願いね。それじゃ。』


  ツー ツー ツー


 賢司の父は海外出張で日本にいない。そのため、賢司は夜遅くまで妹と二人で過ごすことになる。これはマズかった。

 モニターを見ると、戦場のいたるところに魔法陣が現れていた。転移魔法である。そこから現れるのは悪魔だけでなく、ケルベロスやキメラなどの冥界に住み着く凶暴な魔獣などもいた。


「大変です!敵の増援により天使が次々に倒れていきます。このままでは城に侵入されるのも時間の問題かと……。」


 戦況は一気に逆転していた。天使を倒した悪魔達が徐々に城内へ侵入してくる。


「各員!城に侵入してくる悪魔を迎え撃て!」

「ハッ!」


 モニター室から天使達が飛び出していく。残ったのはミカエルと幹部の二人だけになった。


「私は理性の玉を守りに行きます。」

「私もお供しましょう。」

「心強いです。」


 二人が動きだすと、地響きと共に大きな爆音が聞こえた。既に城内での戦闘が始まっているのだ。


「急ぎましょう。」


という幹部の言葉にミカエルも頷く。二人は理性の玉のある部屋へと駆け出した。

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