険しい唯我独尊への道 またまたまた続き
「ちょっと待った!!異議あり!」
立ち上がり右手を挙げ、今まで生気を失っていたのが嘘のようであった。
藤原唯は自信満々で高千穂結弦を見下ろした。
「まるで二時間ドラマの冤罪で有罪判決を下されそうなところを
十分に覆せる証拠を握っている弁護士のようだ。」
「いやいやスバル、ここはまだ弁護士かどうか分からないだろう。
もしかしたら検察官って立場もあり得る。」
真面目に言う莉咲を呆れた目で見るスバル。
「だからお前はどうしていつも論点がズレているんだ・・。」
「異議ありということはこれ以上の意見があるということなのね。」
麻里衣は笑顔で唯の雄々しい姿に釘をさす。
「おいおい、秋山。とりあえず全員の推薦が誰かを聞くのが大事だ。
まぁ、とりあえず藤原の話を聞こう。」
「私の推薦はこちらの方です!」
唯が自信満々に机に叩きつけた紙には一人の生徒の名前が書いてあった。
「「小田切・イヴ・早織??」」
スバルと莉咲の声が重なり語尾に?が付いているのがよく分かった。
「三年?こんな奴いたっけか?」
「いや、僕の記憶が正しければこの学校でハーフの学生はお前だけだぞ。」
「もう、先輩たちったら同級生の顔と名前を覚えていないなんて可哀想じゃないですか。
正真正銘のこの学校の学生でハーフです。」
「けどなー、こんなかわい子ちゃんがいたら俺が気づかないはずないんだけどな。
すんげぇ色っぽくて俺好み。」
「スバル、じゃあすぐ気付けるようにもっと目を見開けばいいんじゃないか。」
「ん?どういうことだ?」
「しょうがないな、僕が手伝ってあげる。」
「えっおい?ちょっと!!莉咲?莉咲さーん!!」
1分で出来る簡単アイプチコースを終えたスバルの目は通常の三倍の大きさになっていた。
「で、こいつは何で留学したいんだ?」
結弦が本題に戻し唯と真面目に話を始めた。
「それには深い深ーい訳があるのです。名前からご察しの通り彼女はハーフで出身地はアメリカ。
生まれてすぐ日本に来たのでまぁ国籍はこちらなんですけど、実は小田切先輩には
生き別れた双子の弟がアメリカにいるのです!!」
「・・・・・。で?」
「でって、ここまで聞いたら常人の三歩先を歩くかいちょーなら
余裕のよっちゃんで分かるでしょ!?まぁせっかくですから私がお答えしますよ。
つまりですね、小田切先輩はその弟を探しにアメリカへの行きたいんですよ。」
「そんなの、留学とかでなくて普通にアメリカへ行って探したほうがよくないのか?」
「いいえ、井上先輩。その弟っていうのが名前しか分からないらしくて全く手がかりが
ない状態なのです。そんな一握りの情報のみで単身アメリカに行っても
何の収穫も得られないのは目に浮かびます。
ですから小田切先輩は留学という長期間いられるという利点を用いて
弟探しを決行しようとしているのです!!
私はそんな小田切先輩の熱い気持ちに共感したんです!」
「彼女にそんな事情があったなんて、僕はそんな彼女のことも知らずに・・。
なんて情けない奴なんだ!これじゃあ役員失格だ。」
「なんにせよ、こんな美女がお困りなら紳士としては助けないわけにはいかないな。」
莉咲とスバルは唯の話を聞いて涙腺が緩んでいるようで片手にハンカチ、
もう片方にちり紙をにぎりしめている。
「では、私の話は以上ですがこれはもう決まりということですね。」
にんまりと笑う唯が勝利を確信しようとしたその時であった。
「お待ちなさい。嘘はよくないわよ。
藤原さんも堕ちるところまで堕ちたのね。」
唯の前に立ちふさがりし人物、秋山麻里衣はいつもと変わらぬ笑みを浮かべながらも
口からは棘のついた言葉を吐き出した。
「先輩方を上手く騙せたとお思いでしょうけど、私の目をすりぬけられるわけがないでしょう。
藤原さんの思惑なんてお見通しよ。」
「どういうことか、説明しろ。」
「はい、会長。彼女は――。」
麻里衣はそのまま話し続けようとしたが自分が珍しく間違えてしまったので、
一拍置いてあらためて話し出す。
「彼の本名は小田切信男。戸籍の登録では男となっています。」