険しい唯我独尊への道 続き
今回唯の出番なし。
「じゃあお前ら会議始めるから席着け。」
二人の一連の喧嘩が終わり息もつく前から生徒会長高千穂結弦は
生徒会役員に着席するよう促す。
みんなが席に着く中、いつもならブツブツと恨み言を言いながら座る人物が今日は静かだった。
明らかに不機嫌な副生徒会長藤原唯が珍しく黙ったまま座席に着いている。
その頭には大きなたんこぶを3つ乗せていた。
「あらあら藤原さん、頭がサザ〇さんみたいよ。
お魚くわえたドラ猫追いかけているのかしら。」
唯のたんこぶを面白可笑しそうに突いているのは書記秋山麻里衣である。
「ここでちょっとしたうんちくを披露しましょう。国民的アニメの主題歌の
テレビで流れている歌詞は二番なんですよ。」
「へぇー、知らなかった。秋山君は物知りだね、年上ながら尊敬するよ。」
「いいえ、井上先輩。私の中では井上先輩は先輩ですが先輩ではないです。
小さいのに成長の速い樹木の名前を付けられた女子高生みたいな立ち位置ですよ。」
「小っちゃくないよ!」
年下の麻里衣に頭を撫でられ身長差14㎝の壁に阻まれ悔しがる会計井上莉咲、
その光景はどう見ても駄々をこねる妹とそれを宥める姉のようである。
「で、今日は一体どのような内容の会議なのでしょうか。」
向かいに座っている小柄な先輩を弄るのを切り上げて麻里衣は
足を組み腕を組みまるで若き成功者のような態度の結弦に問いかける。
「そうだな、お前らも知っていると思うが我が高校でも
交換留学を取り入れることが先日決定した。それで校内で留学生の募集をしたところ
多数の応募があった、それでだ生徒会にもウチの高校からの
留学生の選出をして欲しいという協力要請が来た。」
「おいおい、まじか。
そんな大層なこと俺らがしちゃっていいわけ。」
あまりの大役に副生徒会長三浦スバルは驚きの声を上げた。
「選考すると言っても生徒会で候補を出すだけだ。一応全校生徒の声たる
生徒会にも参加してもらおうってな。全校生徒は自分らより生徒会を
信頼しているということを知ってるからな、生徒会も協議したと言えば皆納得する
反論しないだろうそういう魂胆だ。」
高千穂結弦率いる生徒会は支持率97.5%という驚異の数字を持っている、
それはひとえに結弦のカリスマ性の賜物と言いたいところだが
他4人の人柄、個性もこの高い支持率の中に含まれているのも無きにしも非ず。
彼ら5人の生徒会メンバー構成により生徒たちの信用を得ている。
しかし彼の人望が一番支持率の理由を占めているのは事実だ。
学校創立以来これほど生徒会という組織が生徒を束ね教師を唸らし権力を握っている治世は
この鬼才で奇才の高千穂結弦一代限りの栄光だろう。
「まず詳細を述べると留学先はアメリカ、シカゴにあるロゼバートンハイスクール。
両校それぞれ二人ずつの留学生を交換し1年間アメリカと日本で生活する。
留学生を選出するにあたっての基準は一定の学力を満たしていることのみ。」
「では、応募された生徒の中で基準に達している生徒は何人でしょうか。」
「52人中49人。まぁ自身の能力を知り募集するのは当たり前だ。」
「けど49人もいるのかよ、それを今から一人一人吟味するって・・・
どんだけ時間費やすんだよ。」
生徒49人分の調査書をパラパラと適当に眺めるスバルは
やる前から気力をなくしている。
「じゃあこうしよう!5人でこれゾという人物を一人ずつ挙げて
その中で選んだ二人を生徒会からの推薦ってことでいいんじゃなイカ。」
「いいでゲスね。」
「まっ時間短縮でいいか。」
莉咲の提案に麻里衣とスバルは同意を示した。
「藤原ちゃんは・・・あ~今話しかけづらいわ、床に魔法陣書き始めてるよ。
黒魔術でもやるつもりかぁ。あ、高千穂お前はどうだ。」
「それはいいでゲソ。」
「・・・・・えっ!?」
「・・・じゃあ始めるぞ。」
一瞬の間を置いて何事もなかったかのように先を進める結弦。
スバルはしばし呆然とし何が起こったのか分からない風であったが
やがてニタニタと笑い作業する結弦の肩に手を置いた。
「高千穂~、お前もイケる口だったんだな。」
「三浦、口ではなく手を動かせ。」
「はいはい、了解でゲソ~。けどあれだな、まだまだギャグの切り替えしが
甘いな。高千穂にも苦手なものがあるのも知って俺も安心だよ。まぁもし
レクチャーしてほしかったら俺が教えてやらないこともないグゥワッッ!!」
結弦のアッパーを喰らわされたスバルは一発K.Oかと思いきや
よろよろと立ち上がり椅子に腰かけ書類を読み始めた。
スバルがこれほど頑丈になったのは莉咲の日頃の鍛錬?のおかげなのかもしれない。
また4人が黙々と書類に目を通すなか唯は結弦にさらに拳骨を喰らって
恨めしそうに見ながら渋々留学生の選考に加わった。
「―――そろそろ決まったようだな。なら一人ずつ発表していく。
まず提案者の井上から。」
「はい!僕は2年E組の牧瀬里帆君がいいと思うんだ。」
「牧瀬か。しかし何でまた牧瀬を選んだんだ。」
牧瀬里帆とは去年行われた国民的美少女大決戦で見事グランプリを
獲得しアイドルデビューを果たしたブレイク寸前の女生徒である。
「留学理由の欄に書かれている
将来はハリウッド女優になる、そのために現地に行って英語を身に着けたい
なんて夢がワールドスケールで僕は好きだ。それになんてたってアイドルだし。」
「それはキャンキャンっしょ。里帆っちはシングルベッドを軋ませるのは
帰ってくるあなたです、だ!」
「何言ってるんだ!微妙に変えてそんな下ネタをぶっ込むな!
タツローさんも泣いてるぞ。ったくスバルは・・・。」
「里帆っちもいいけど俺の中ではキャンキャンがベスト1だね。」
「まぁ牧瀬君はクラスで一番どころか学校一のアイドルだけどね。」
「席替えはくじ引きよりあみだくじ派だ。」
「お二方、せっかくの掛け合いに水を差すようで申し訳ありませんが
おそらくはネタが古くて最近の若者は分かりづらいのではありませんか。」
スバルと莉咲の楽しい会話に麻里衣の的を射た発言が割り込む。
「そうだね、今のアイドルだと週明けヒロインピンク四ツ葉Jが好きだ。」
「私もピンフォー好きです、けれど今は話し合いです。本題に戻しましょう。」
「・・・・・・。」
ツッコミを期待していた莉咲は普通にあしらわれたことに
もの悲しい目を麻里衣に向けながら気合を入れ直した。
「・・とにかくみんなで彼女の夢を応援してあげよう!新芽を摘み取ってはいけないよ。」
「けれどせっかくこれから売り出そうとしているこの時期に
留学というのはどうなのでしょうね、チャンスを潰しているようにも思えます。」
「ん~新しいジャンルの開拓とか。会いに行けないアイドルみたいな。」
「何じゃそりゃ、アイドルとしてダメだろう。」
「ふーむ、こうなったら僕が彼女の全プロデュースをしようではないか。
海外にいても日本での活動に支障が無いように並びに牧瀬君を
トップの座に押し上げて見せよう!!」
と、莉咲が新米プロデューサーよろしくアイドル育成計画にふけ込んでしまったので
この件は後回しにすることにして次に進むことになった。
「次、三浦。」
「待ってましたぜ。俺の目に狂いはねぇ。
俺のおすすめはこちら!難波友之丞君だ。」
「フルネームを漢字で書くとお経みたいですね。」
「1年A組難波友之丞、学業優秀、品行方正、希望理由は全く知らない土地へ
行って経験を積み自分のキャパシティを向上させたいと。」
結弦が難波友之丞の書類を読む、スバルはどうだと言わんばかりの威張り顔だ。
「普通だね。」
「普通です。」
「普通だ。」
「えっー、ちょっと普通ってどういうことだよ!!」
先程の尊大な態度は何処へやら今の今までアイドルプロデュースに意気込んでいた
莉咲も参入して3人から予想外の批評を浴びびっくり仰天している。
「スバル、僕は君の安定したツッコミやボケがあったからこそ
幼馴染をやってこれたんだ。君からそれを抜いたら一体何が残るって
言うんだ!失望したよ。」
「酷くね!俺の価値ってそんなもんだったの!?」
「普通すぎてつまらないです。」
「いつも毒舌な秋山ちゃんが普通に残念がってる!!
俺どんだけつまらない人間なんだよ!!」
「三浦、俺にギャグの切り替えし方を教えるよりまず自分のボケを
磨いた方がいいじゃないか。」
「俺は、俺は、俺はどうしてこんな美味しいところで
ボケに走らなかったんだ!!悔やまれる・・・もう消えてなくなってしまいたい。
どうして俺は生まれてきてしまったんだ。」
「まぁ今のくだりの中で一番可哀想な役割だったのは
明らかに難波君でしたけどね。」
自分の存在意義を見いだせず頭を抱えているスバルを尻目に
会議はさらに混沌の渦の中へと拍車をかけるかの様に続いていく。